150神猫 ミーちゃん、カイとテラにただいまの挨拶をする。

 楽しい時間もあっという間。そろそろ、王都に向かいましょう。



「ネロさん、ミーちゃん、みんなもいつでも遊びに来てワン」


「また、来ますね」


「み~」



 みんなもそれぞれ挨拶をして、名残惜しいけどコボルト族の村を後にする。



 その後は、途中の村や街で特産品を売り買いしながら戻ったので、王都に着いたのは三日後になった。


 いつもの宿に部屋をとり、スミレの世話をしてからハンターギルドに行ってみる。


 ギルドに入るとみゅ~っと、テラとカイの可愛らしいお出迎えを受ける。二匹はミーちゃんを見ると飛んで寄ってきたよ。ミーちゃん嬉しそうに二匹をペロペロしてます。ただいまってところかな。


 二匹を一撫でしてからギルドの酒場を見ると、定位置にジンさんが居たので俺だけ相席する。他のみんなはテラとカイとのスキンシップに忙しいようです。



「おっ、ネロじゃねぇか。戻って来たのか」


「えぇ、先程ですけどね。はい、お土産です」


「おいおい、こいつはもしかして……」


「蒸留酒ですよ。それも五年物です」


「よく手に入ったな。滅多にお目に掛かれない代物だぜ」


「まあ、猫徳の成せる業ですね」


「なんだ? 猫徳って……まあ、ありがたくもらっておくけどよ」


「で、どうなんです?」


「ん? あぁ、頻繁に動いてやがる。近々かもな」



 ジンさんは蒸留酒の入った小樽に釘付けになっていて話も適当。しょうがない、酒場のマスターからグラスを借りて、ボールに氷を作り砕いてテーブルに戻る。グラスに砕いた氷入れて、ワンフィンガー分蒸留酒を注いであげた。



「う、うめぇ……」



 それは良かったです。ヒルデンブルグの大公様も認めた旨さですからね。



「ヴィッテルスバッハ候はそろそろ動くだろうぜ。ゴブリンとの戦いが口火を切った今が好機だと思ってるだろうからな」



 どうやら、本格的にゴブリンとの戦いが始まったようです。今のところは優勢に事を進めているようですが、指揮系統に不安があるので楽観視は出来ないでしょう。だからこそ、好機と見ているとジンさんは言っている。


 今、王都には第一騎士団しか残っていない、周辺の守備隊や貴族の兵は前線に向かわざるを得ないから、王都の周りが手薄になると言う事らしいね。



「ヴィッテルスバッハ候は東の辺境伯だ。自前の兵も多い、今頃こっちに兵を動かしているんじゃねぇか? ゴブリン討伐って言う大義名分があるから、兵を動かしても問題ねぇしな」



 成程、時と時世が味方したと思ってるんだろうなぁ。全てが筋書き通りだとは知らないで……哀れ。



「だとしても、その数は侮れねぇ。王都内だけでも、二千近い反乱分子が居る。厄介だぜ」


「ジンさん達はどの位の人が集まるんですか?」


「今は二百だな。後は追加で手の空いてるハンターを招集して五百ってところか」



 王宮の方でも人を出すとしても、相手の方が数では有利ってところか……兵の質で言ったらこっちが圧倒的有利だとは思うけど。



「これに外の奴らと呼応されると厄介極まりないぜ」



 そう言う事ですね。それは面倒だ。



「良い物を飲んどるな。どれ、儂も一杯頂こうかのう」


「おい、爺ぃ。これは俺んだぞ!」


「ケチケチするな。若造が」



 ゼストギルド長にも一杯作って差し上げる。



「お、俺の酒が……」


「ちと強いが、旨いのう。蒸留酒じゃな。ドワーフ族が造っとるのが有名じゃが、フォルテでも少量ながら造っとると聞いておる」


「そのフォルテの品です。運よく手に入りまして」


「ネロ君は幸運スキル持ちじゃったのう。羨ましい限りじゃな」



 どうなんだろう? 幸運スキルって、実感がないんだよね。影響は少なからず受けているって事なのかな?



「で、どこに行っとたんじゃ?」


「ブロッケン山経由でヒルデンブルグ大公国に行って来ました」


「ほう。ブロッケン山を通って来たのかのう」



 ゼストギルド長はチッラっとテラとカイと戯れているセラとルーくんを見て言ってきた。黒豹姿のセラを見せた事があったかな? まあ、ギルド長だからいろいろ情報は持っているんだろうけどね。ルーくんなんかは見た目から白狼ってわかる人にはわかるらしいから、俺には犬にしか見えないけど……。



「えぇ、ちょっとしたコネがありまして通らせてもらってます」


「遠回りしとる商隊としては羨ましい限りじゃろうて」


「わざわざ、ネロはヒルデンブルグ大公国まで何しに行ったんだ」


「魚を買いに。他にもいろいろありましたけどね」


「魚かのう……」


「ここにも卸していくので、海の幸を堪能してくださいね。それより勇者の件はどうなりましたか?」



 ゼストギルド長はこの国のハンターギルドの本部にその件で行ったはずだよね。



「ロタリンギアのギルド本部は全く口を割らんそうじゃ。国から相当な情報規制が掛かっとるようじゃな。ハンターギルドが国に抑えられとるとは嘆かわしのう。こちらの本部は斥候のハンターをロタリンギアに送り込んどるようじゃが、良い報告は受けとらんようじゃ」


「人の出入国は自由なんですか?」


「そこそこ規制はあるが、商人の行き来は比較的自由じゃな。それ以外は……ちと厳しいかのう」



 早めにロタリンギアに行った方が良いかもね。商人の行き来も規制されると、手が出せなくなりそうだ。



「なんじゃ、ネロ君はロタリンギアに行くのかのう?」


「ちょっと用事を頼まれまして、近々行こうと思ってます」


「わざわざ、こんな時期に行かなきゃなんねい用事か? ロタリンギアに行くには東の辺境伯の土地を通らんと行けねぇぞ。この時期、ネロには厳しいんじゃねぇか」



 一時とはいえ巡検使となった俺が反乱首謀者の土地を通るのは不味いかな? こちらにその気はなくても、相手から見れば間者にしか見えないかも……。


 うーん、困ったね。





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