148神猫 ミーちゃん、またまた実はブロッケン山の主!?

『グランド ヴィルヘルム ノルド』ヴィルヘルムの宿の中でも五本の指に入る高級宿。その中でも食事の美味さでは抜きんでており、人気の高い宿でなかなか泊まれない宿でも有名らしい。


 そんな宿に、大公様のご厚意で長期滞在している俺達。明日、出発と言う事で支配人さんがお別れ会を開いてくれると言っていたが、宿に泊まっている方達も参加の大広間での立食会になっていた……。


 この宿に泊まるくらいの方達なのでお金持ちの方々ばかり。俺の持ってる一張羅なんて神様に貰った服くらいのもの。もう少し良い服買っておけば良かったよ……。


 ミーちゃんは黒真珠のネックレス、ペロはいつものニャイトの格好、セラはミーちゃんから貰った白のレースのリボン、ルーくんはグリーンのリボン、ラルくんはブルーのリボンで正装。


 俺だけ……。



「みぃ……」



 そんな俺だけど支配人さんは泊まり客の方々に紹介してくれている。殆どの方が他国の方々。商船で来ている商人やこの国と同盟関係の国の軍人さんに外交官、観光目的の貴族の方達と言った顔ぶれ。


 せっかく紹介してもらってもねぇ。


 それでも、せっかくなので話をさせてもらいこの世界の情勢や俺の知らない国の話を聞かせて貰った。話の中でも一番話題に上がったのが、やっぱりルミエール王国のゴブリンの事だったね。


 大戦になれば多くの人が動く、人が動けば物が動き、そしてお金が動く。良きにしろ悪きにしろ、商機となるのだね。特にルミエール王国は大国だからその商機も大きくなる。商人さん達はそう言った情報が欲しくて話を交わしている。


 立食会は楽しい時間でした。とても、気疲れしたけどね。


 アレックスさんとクラウディアさんも積極的に相手に話掛けてたし、ペロ達は仲良くなった泊まり客のお子ちゃま達と楽しそうにしていた。


 ミーちゃんは泊まり客の奥様方に囲まれお澄まし顔。奥様方の中には黒真珠に興味を持った方もいて売りたいところだけど今はどうしようもない、残念。


 一番気になったのは、これだけの情報通の方々がそろって居るのに一度もロタリンギア王国の話が出なかった事だね。大公様が言っていた通り、情報統制や情報封鎖がおこなわれているのだろう。さてさて、どうしようか。



 翌日、宿のみなさんの見送りを受けて宿を発つ。アレックスさんとクラウディアさんの宿は既に手配済み。二人はこれから屋台準備なので、神猫商会の支店前で別れた。一度すぐに戻って来るけどね。


 久しぶりの開放感溢れる外の景色に若干スミレは興奮気味……爆走中です。その横を、普段と変わらぬ愛らしい顔でラルくんが事も無げに飛んでいる。流石、ドラゴン。スミレとラルくんも良き競争相手とお互い認知したようです。だから、速すぎて怖ぇーよ!


 その日は湖畔の街ニクセに一泊して、翌日の昼にはブロッケン山に到着した。



「おう、ミー様じゃねぇか。歓迎するぜ」


「ようこそおいでくださいました。ミー様」


「み~」



 ワラワラワラっとお子ちゃまにおチビちゃん達が集まり、みんなモフモフの中に消えた……。俺の服にも何匹も張り付いて、目をキラキラ輝かせている。安心しなさい、お土産はたっぷりとあるからね。


 そんな中、ラルくんが牙王さんの前でお座りして牙王さんを見上げている。



「このチビ、ドラゴンか?」


「烈王さんのお子さんでシュトラール、ラルくんです」


「きゅ~」


「マジかよ……」


「と言うより、ミー様なら当然でございましょう」


「ネロ殿は魔王と戦う気か」


「いえ、全く考えてないです」


「しかしネロ殿、この竜族まだ小さいとは言え烈王殿の子。想像を絶する力を秘めておりましょうぞ」



 そんな事言われてもねぇ。ラルくんまだ小さいし、攻撃力も制限付きって言ってたからねぇ。どうよ? ラルくん。



「きゅ~?」



 ですよねー。わかる訳ないよねー。



「降り懸かる火の粉は払いますけど、こちらから仕掛けようとは思っていませんよ。ラルくんがドラゴンなのは秘密です」


「秘密ってよう……」


「ラルくんは犬なんです。ちょっと翼の生えた犬なんです!」


「きゅ~!」


「「……」」



 そんなジト目で見られても……本当のことを言える訳ないじゃないですか。ラルくんはちょっと変った犬、これ決定。



 夜は当然、宴会突入です。ミーちゃんは牙王さんとロデムさんに挟まれ、身動きできず困り顔。ペロと俺は魚焼きに精を出す。セラはその魚をほぐして、オチビちゃん達に分け与えている。ルーくんとラルくんはお子ちゃま達と一緒に自分で食べてます。



「にゃー! 焼いても焼いても、すぐにゃくにゃるにゃー!」



 俺は魚にちょっとだけ味噌を付けて焼いている。味噌の焼ける香ばしい匂いが周りに立ち込めると、モフモフちゃん達が寄って来る。ほぐして食べさせてあげると、魚を載せた手のひらまでペロペロするくらいお気に召したようだね。味噌の付け過ぎには注意だけどね。


 牙王さん達大人のモンスター達は酒樽に顔を突っ込んでヘベレケ状態。明日の朝はそこらじゅうに屍が転がっている事だろうね。


 いつかの洞窟に行くと、そこはもう自由に動く事ができなくなったモンスター達の居場所となっていた。足を失った者や体中に傷跡の残る者、年老いて動けなくなった者達だ。そんな者達を見捨てる事なく、みんなで協力して生活している。ミーちゃんとペロとでそんなモンスター達に焼いた魚を配り、ミネラルウォーターも飲ませていく。少しでも元気になれば良いよね。


 その洞窟の奥の広い場所の一画を牙王さんに貸してもらった。理由は、転移装置の板を設置する為だ。ここなら広さも十分、それに牙王さんのテリトリーだから安全だしね。


 突き当たりの壁に板の入った木箱を設置して動かないように固定した。明日の朝、ヴィルヘルムに飛んでみよう。



「み~」





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