146神猫 ミーちゃん、招き猫になる。

 雲一つない青空、今日の神猫商会の屋台神猫屋オープンを祝ってくれてるようなお天気。


 仕込みも完璧、ちょっとしたネタ仕込みもしました。さあ、出発しましょう。



「み~」



 アレックスさんとクラウディアさんは、まだ緊張してるみたいだけどそのうち慣れるでしょう。


 中央広場の噴水の前、商業ギルドの担当者さんはなかなか良い場所を割り当てくれました。ガッツリ系の食べ物じゃないからこう言う雰囲気の方が合っているし、他のお店とかぶる事がないから安心。


 屋台をセッティングしてのぼりも立て、暖簾を掛ける。



「さあ、神猫商会屋台、神猫屋。オープンです」


「み~」



 今日は全品半額にして、ミーちゃんが屋台のカウンターにちょこんと座り招き猫をしてます。目の前を通る人に右前脚でコイコイしています。百発百中だね。でもまだ、客の入りは良くありません。当然ですよね。広場に居る人達も何を売ってる店かよくわかっていないと言う所でしょうから。


 なので、二時間程経ったところで用意していたネタを発動させる事にする。宿に一旦戻りペロに打ち合わせ通りに行動するように指示を出して屋台に戻って来た。


 しばらくすると、広場にあるうちとは別の屋台をペロが冷やかし覗きながら歩いて来る。ケットシーのペロはそこに居るだけで目立つ存在。そのケットシーのペロがあっちこっちの屋台を覗きながら歩けば注目を集めるのは必然。



「お団子一つくださいにゃ」



 ペロはうちの屋台に来てお団子を注文。


 アレックスさんがみたらし団子を手際よく作りペロに渡してお代を頂く。ペロはワザと周りに見えるようにしてからお団子を食べ始める。



「にゃにゃ! にゃんて美味しい食べ物にゃー。人族はこんなに美味しい食べ物をいつも食べてるにゃかー」



 な、なんて棒読み……ペロは大根役者だったのか……。



「アイスキャンディーも食べてみようかにゃー。アズキアイスバー、一つ頂戴にゃー」



 クラウディアさんが笑いをこらえながら、ペロにアズキアイスバーを渡した。



「にゃにゃにゃ! 冷や冷やで甘々の食べ物にゃー。熱い時には最高だにゃー」



 ここまでくると、正直もうどうでも良くなってきた……。周りからは明らかに、サクラとバレて失笑が漏れている。



「みたらし団子四本に、アイスキャンディー四種類一つずつ追加にゃ!」



 勝手にアドリブを入れてきた……と思ったら、通りの向こうの建物の陰にセラ、ルーくん、ラルくんがこっそりこっちを見ているのが見えた。ペロはみんなにお土産に買うという事か、しっかりと自分の分も入ってるけど……仕方ないかぁ。



「み~」



 バレバレの演技だったけどそれなりの効果は出ている。昼近くになり気温も上がってきた事もあり、アイスキャンディーやフローズンの売れ行きが上がってきた。お団子は今一つかな。


 そんな中、広場に豪華と言うより質実剛健と言ったような馬車が来て、屋台の前辺りに止まった。良く見ればヒルデンブルグ大公国の紋章が描かれている。まさかね……。


 馬車から近衛隊のカールさん降りてきて、その後に執事さんと大公様が降りてきたよ。


 広場にどよめきが起こっている。そりゃそうだ、この国のトップがこの場に来たんだからね。



「なかなか彩りの鮮やかな屋台じゃな。さて、ネロ君お勧めを貰おうかのう」



 はぁ……仕方ないので、一旦屋台の前に置いてある椅子に座ってもらいました。大公様だから、お団子の方が良いよね。アレックスさんに餡子団子とみたらし団子を二本ずつ作ってもらう。


 クラウディアさんには冷たいお茶を用意してもらい、カールさんと執事さんには柑橘系のフローズンを作って渡してもらった。


 広場に居る人達のみならず、通りを歩いていた人達まで固唾を飲んで見守っている。



「どうぞ、お召し上がりください」


「み~」



 冷茶とお団子の載ったお皿と空のお皿をを大公様の前のテーブルに置く。執事さんがお団子を一つずつ皿に取り、味わいながら食べている。執事さんが食べ終わったところで、大公様が残りのお団子を食べ始めた。


 最後の一つを食べ終わり、冷茶を飲み干すと



「うむ。美味であった。十本ずつ、土産に持ち帰りたい」



 そう言って来たので、アレックスさんに目配せする。本当は持ち帰りはしてないんだけどね。大公様のお願いでは断れないから、ミーちゃんに大きめの皿を出してもらう。



「これも保存食なのか?」


「はい」



 焼く前の切り餅を大公様に見せる。



「そのままでは食べれませんが、焼くか煮れば食べれようになります。確かに保存食ですが、カビが生える前に食べる事をお勧めします」


「ふむ。これも見た事がないのう……」


「この材料もこの辺で取れるものばかりです」


「勇者の子孫か……」



 お団子ができたので執事さんにお渡しする。お金を払う仕草を見せたので丁重にお断りしておいた。大公様からお代は頂けないよね。



「み~」



 それに、言っちゃあなんだけど、良い客寄せパンダになってくれたと思う。



「ありがたく頂くとしよう。あの者達はネロ君の知り合いかね」



 大公様はチラッとアレックスさんとクラウディアさんを見て言ってくる。



「はい、神猫商会のヒルデンブルグ支店の者達です」


「大丈夫なのじゃろうな?」


「身元もはっきりとしてますし、知り合いからの紹介ですから間違いありません」


「そうか、ならば良い。今後の神猫商会の発展に期待しておるぞ」


「ありがとうございます」


「み~」



 大公様は招き猫ミーちゃんの頭を一撫でしてから、馬車に乗り込み王宮に戻って行った。


 それからが大変だったよ。大公様が訪れた屋台と言う事で、ひっきりなしにお客さんが訪れる。今日予定していた分の材料も使い果たし、ミーちゃんに追加で出してもらう程の盛況ぶり。


 正直、他の屋台のやっかみを恐れていたけど、周りの屋台もうちに集まったお客さんの恩恵を受けているようで繁盛している。全くひがみや妬みが無い訳じゃないだろうけど、ある意味大公様のお墨付きを貰った事になるので馬鹿な事をする者はいないと思う。居たとしても、相手はドラゴンだから実力行使でどうとでもなる……やらないけどね。


 それにしても、大公様は最高のサプライズゲストだったね。



「み~」





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