145神猫 ミーちゃん、ラルくんを大公様に紹介する。

 大公様が目の前のソファーに腰を下した。



「済まなかったな」


「いえ、もうよろしいのですか?」


「ああ、基本は息子が見ておるが、たまにどうしても儂が見んとならん物もあってな。それでどうした?」


「いくつかご報告をと思いまして」


「報告とな」



 俺はラルくんを呼ぶ。ラルくんはな~に~? てな感じでしっぽをフリフリさせて歩いてくるけど、どう見ても犬にしか見えない……。ラルくんをミーちゃんと一緒に抱っこして大公様に見せる。



「新しい仲間の紹介か、可愛いのう」



 ラルくんを大公様に渡すとなでなでし始める。



「その子、シュトラールって言う名前なんですけど、実は烈王さんの息子なんですよ」



 執務室に一気に緊張感が走り、今までモフモフしていた侍女さん達の動きが固まる。大公様も一瞬固まったけど、すぐに気を取り直してラルくんの顔をマジマジと見ている。



「に、似とらんのう」


「きゅ~?」



 どうなんでしょうか? ドラゴン姿の烈王さんを見てないからなぁ。



「成程、飛龍達がソワソワしとると報告を受けておったがそう言うわけじゃな……して、どう言う訳じゃ」


「烈王さんから正式に依頼を受けまして、その為の命の保険として同行する事になりました」


「依頼とは?」


「召喚された勇者に会って来いと」


「例の件じゃな。して、会ってどうする」


「真実を話せと」


「うむ……」



 大公様は目を閉じて、何か考え込んでいるようだ。



「ネロ君は受けたのじゃな」


「受けました。と言うより受けざるを得ないです。報酬も出してもらいましたので」


「ほう、報酬とな」


「お金と宝石を貰ったので、ヴィルヘルムの街に神猫商会の支店を作りました」


「ネロ君は商才持ちかね?」


「いえ、持ってませんが、大公様からのご依頼と合わせてベルーナとの間で交易を考えているのでもともと支店は作る予定でした。少し早まっただけです」



 烈王さんからの、もう一つの依頼の件もあるしね。AFを貰った以上、約束は破れない。



「み~」



 大公様はラルくんを自由にしてやり、お茶をゆっくりと飲む。



「商隊は今ブロッケン山を通らず、迂回していると聞く。ゴブリンのおかげで西の街道も使えん。ブロッケン山を通れるのは確かに強みだな」


「王妃様は貴族の問題が片付き次第、ブロッケン山に使者を送ると言ってました。ヒルデンブルグも時を同じくして使者を出せば交渉は一度で済むと思います」


「ふむ、そうじゃな。して、牙王殿は何を望むのかのう」


「最も望むのは平和。後は、お酒、珍味、少しばかりのお金でしょうか」


「本当にそれだけで良いのか? うちは飛龍隊の駐屯地まで借りてるのだぞ」


「牙王さんは言ってました。生きて行くだけならブロッケン山があれば十分だと。他のはブロッケン山では手に入り難い物で、お金はちょっとした日用品を買う為です」


「わかった。その辺はルミエールと協議せねばならぬな」


「み~」



 その辺はお任せをします。俺達が口出しする事じゃないかいからね。



「話は変わるが、ヴィルヘルムに支店を置くと言う事は何かしらを売るつもり、と言う事であろう。何を売るつもりじゃ」


「保存食です」


「保存食と言うとあれか……」


「大公様が考えてる物とは違います」



 執事さんにティーカップを一つ用意してもらい、味噌玉を四分の一入れて混ぜてから執事さんに渡す。執事さんがスプーンでほんの少し飲み、驚きの表情を見せてからティーカップを大公様に渡した。


 大公様はスプーンを使わずそのまま口をつけて一口飲んだけど、すぐに一気に呷って飲み干したよ。



「旨い。お湯に入れるだけか……。考えたな」


「自分が考えた訳ではありません。もともと、この国にあった物です」


「我が国の物なのか……」


「み~」


「勇者の子孫が代々受け継いで来たそうです」


「その勇者とは?」


「元は大公様達と同じと聞いています」


「そのような者達が居たとは……」



 方や王族、方や農民、どこで分かれたかわからないけど、身分が雲泥の差だからね。どちらも勇者の子孫としての自負は失ってないけどね。



「対象はハンターと言った所か」


「いえ、狙いは全ての人達です。他にもいろいろ揃えていますし、確かに保存食としても有用ですが、調味料としても素晴らしい物です。宿の料理長さんも定期購入してくれる事になりました」


「ほう。あの料理長が認めたか……」



 後で聞いた話だけどあの料理長さん、大公様からの宮廷料理人としての誘いを蹴った事があるそうです。今でも、大公様はお忍びで料理を食べに行く程腕を認めてるらしい。


 そんな人が認めた物だから、大公様も興味を持たれて味噌と醤油を十瓶分買ってくれた。これを宮廷料理長がどうアレンジするか興味がある。ルミエールの宮廷料理長もどう使うんだろう? 渡すのが楽しみだよ。



「いつ、開店するんじゃ?」


「まだ先の話です。改装中なので。代わりに明日から中央広場で屋台を始めます」


「屋台とな?」


「氷菓子と味噌とは別の保存食をお菓子風にした物を販売します」


「ふむ。保存食か、広がると良いな」



 大公様とラルくんのご対面も終わったし、余り長居をするのもご迷惑になるからね。お暇しようか。



「み~」





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