92神猫 ミーちゃん、別れを惜しまれつつ退場します。

 取り敢えず、宿をとるため憩いの宿木亭に向かう。食堂兼酒場は満員御礼状態だ。女将のアンナさんを探すけど、見た事のない女性が給仕しているので新しく雇ったのかな?


 とりあえず、給仕している女性の方に女将さんを呼んでもらう事にした。



「ネロにミーちゃんじゃないかい!」


「お久しぶりです。部屋空いてますか?」


「二人部屋になるけど良いかい?」


「逆に丁度良いです。馬って泊められますか」


「なんだい、馬を買ったのかい? 裏の納屋で良かったら使いな」



 スミレを女将さんに言われた納屋に連れて行き、鞍を外して世話を一通り済ませる。綺麗な納屋なのでスミレも文句ないようだね。


 宿に戻り部屋の鍵をもらい一度部屋に入り、ミーちゃんと俺はハンターギルドに行く事を、ペロとセラ、ルーくんに伝えその間お留守番をしてもらう。帰って来たら夕飯にしよう。疲れたのか、みんなベッドで丸くなってしまった。


 ミーちゃんが濡れないようにキャリーバッグに入ってもらい、コートのフードを被ってハンターギルドまで走る。


 ギルドの中はごった返し状態、クアルトも北からのハンターの数が増えてるのかもしれない。しかし、案の定一ヶ所だけ受付カウンターが空いているのでそこに向かう。



「なんだてめぇ。フードくらい取りやがれ!」



 ハァ……この人本当に統括主任なんだろうか……なんかの間違いじゃないの? フードを外して挨拶したよ。



「お久しぶりです。ガイスさん」


「ぼ、坊主。生きてたのか!」


「み~」



 あたりまえでしょう~って代わりにミーちゃんが言ってくれました。


 それを聞いたギルド内にいた人達の視線がこちらに集まる。しかし、生きてたのかってどう言う意味よ? 俺は死んだ事にでもなってたのか?



「ピンピンしてますけど……なにか?」


「てっきり、本部に消されたと思ってたぜ……」



 何人かの職員さんが頷いている。マジっすか? 考えてみれば十分にあり得る話だよな。この世界の命の価値は軽い。ハンターギルドくらいの大御所ともなれば、そういった裏の仕事をする人が居てもおかしくない。


 まだまだ、日本での平和ボケが抜けきれてないようだ。気をつけよう……。



「ネロ君! ミーちゃん!」



 パミルさんだ。まだ居たんですね。



「あなた達ちょっとこっちに来なさい!」



 奥の部屋に連れて来られました。



「お久しぶりです」


「み~」


「お久しぶり、じゃあないでしょう! ミーちゃんはいつ見ても可愛いわね」


「み~」


「じゃなくて……。ネロ君、何やってるの!」


「王都での統括主任補佐への昇進おめでとうございます」


「あ、ありがとう……じゃあないでしょう!」



 あんまり怒ると皺できますよ。



「ハァ……なんか馬鹿らしくなってきたわ」


「それで、王都に行かないんですか?」


「そうよ、それよ。あなた達どうやって来たの?」



 ゴブリンのせいでクアルト、クイント間は今商隊は動いていないそうだ。隣の村までは村の防壁増強工事で行き来はあるけど、それより向こうに行く者はいない。商隊は北回りでしか動いていないので、パミルさんは困っていたらしい。



「なら、帰り一緒にクイントに行きますか?」


「行けるの?」


「聞いてみないとわかりませんが、おそらく大丈夫かと」


「何日掛かる予定かしら?」


「俺達だけなら一日で着きましたけど、二人になるから一日半でしょうか」


「本気で言ってる? ネロ君」


「本当ですよ。ねぇ、ミーちゃん」


「み~」


「わかったわ。ミーちゃんを信じるわ」


「み~」



 なんでやねん! もう、帰って良いですか……?



「何時、出発予定?」


「明日はやる事があるので、明後日の早朝ですかね」


「早いわね。わかったわ。お願いします」



 俺はお世話になったソラスさんに挨拶してくる。ミーちゃんもパミルさんとお姉さん達にお別れの挨拶をして来るそうだ。可愛がってもらったからね。



「み~」



 買い取りカウンターに来て、ソラスさんにギルドを辞めた事を伝えた。



「そうか、残念だね。せっかくの後継者候補だったのに」


「そう言ってもらえて嬉しいです」


「でも、ここを出る前に比べて、少したくましくなったんじゃないかい?」



 そうなのかな? いろいろあったからなぁ。



「これから、どうするつもりだい?」


「当面の間はクイントでの仕事があります。それが終われば王都を拠点にして動こうと思ってます」


「ネロ君のスキルを活かすなら、それの方が良いだろうね。簡単には来れる場所じゃないけど、遊びに来たら寄って欲しい。飯くらい奢るから」



 ソラスさんと別れの挨拶を交わした後、ガイスさんにも一応挨拶した。



「おう。死なねぇ程度に頑張れや。せっかく拾った命だからよ」



 なんか凄い言われようだけど、この人なりの優しさだと思う事にした。


 受付のお姉さん達の方は大変だ。一人一人、ミーちゃんの前脚と握手しハグして別れを惜しんでる姿はなんかシュールだね……。



「そんなぁー」


「もう、ミーちゃんと会えないなんて……」


「何を支えに生きて行けば良いの……」



 ハァ……あの場所からミーちゃんを連れ出すかと思うと胃が痛いです。でも、やらねばならぬのです。宿で俺達の帰りを待つ、腹ペコ魔人達が待っているのです!



「いやぁー」


「連れてかないでぇー」


「私の癒しがぁー」



 みなさん、本当に申し訳なく思いますが、これにておさらば、また会う日まで! ミーちゃん帰るよ~。



「み~」





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る