63神猫 ミーちゃん、男の子を救済する。

 王宮を後にした俺たちはその足でハンターギルドに来ている。


 受付に向かうと、十二、三歳くらいの男の子が受付のお姉さんに必死に何かを訴えている姿に目がいった。


 どうやら、依頼失敗の違約金についてみたいだ。お届け物の依頼だったらしいけど、途中で街のチンピラに奪われたらしい。取り返せば良いだけじゃないの? と思っていたら、受付のお姉さんは決まりだからと言って、違約金と商品の全額負担を男の子に言ったようだ。その額、なんと百万レト。流石に、これは酷すぎるでしょう。


 それを聞いていた、ミーちゃんもペロもフンッスと怒っている。ミーちゃんなんかキャリーバッグをテシテシ叩いて俺を見つめてくる。はいはい、一言、言ってやらねばなりませんね。



「み~!」


「ネロ、言ってやるにゃ!」



 男の子の後ろに立って、受付のお姉さんに声をかける。



「すみませんが、その荷物の値段ってどこから算出されて出てきたものですか?」


「申し訳ありませんが、部外者にお話する事はございません」



 まあ、予想通りの受け答えだね。



「残念ですが、これでもハンターギルド職員でしてね。部外者じゃないんですよ」



 受付のお姉さんに職員証明書を見せる。嫌な顔をされたけど、依頼者から損害賠償が来た事を教えてくれた。



「それって、その依頼者が一千万レトって言ったら払わせるって事ですよね。このギルド、頭のおかしい人の集まりですか?」


「み~」


「お馬鹿の集まりにゃ」



 酒場に居たハンターさん達が、ヒューヒューと囃し立ててくる。男の子は状況がのみ込めずオロオロしていたので、肩に手を載せて任せろと目で合図してやった。


 流石に、分が悪いと思ったのか受付のお姉さんは援軍を呼んで来た。統括主任のセルティオさんだ。



「ハァ……何故、あなたがしゃしゃり出て来るのですか」


「これは統括主任ともあろう方が、異なことをおっしゃいますね?」


「異なことと言いますが、これはハンターギルドの規則です。依頼の失敗にはペナルティーが付くのは当然です」


「それは認めますよ。ですがこの金額おかしいでしょう? ハンターギルドの職員が確認した訳でもなく、依頼人に言われたから支払えって」


「この御依頼人様からは今までにも多くのご依頼を受けさせて頂いています。実績のある御依頼人様ですので」


「そうですか。では、お聞きしますがそれ程の高額商品の配達をいくらで引き受け、誰がこの子が受ける事を受理したんですか? これは明らかにギルド側のミスなのではないですか?」


「御依頼人様に品物の価値について聞く事はありません」



 聞けば、街中の配達依頼はどこからどこへと大きさ、壊れ物注意なのかぐらいしか聞かないそうだ。これってお役所仕事を逆手に取った詐欺じゃないの?



「それでは、統括主任のセルティオさんはこの事は、ギルド側に責任が無いとおっしゃるんですね?」


「……そうなります。規則なので」


「ハンターギルドの活動理念は全ての人民をモンスターから守る事だったと思います。この子は確かにハンター資格を持つハンターですが、一人の人民でもあります。人の皮を被ったモンスターからこの子を守るのも、ハンターギルドの役目なのでは?」


「ネロさん、それは越権行為です」


「越権行為ですか……ハンターギルドの職員が身を粉にして働いてくれてるハンターを守らないなら、ハンターギルド職員なんか辞めてやるよ!」


「み~!」


「ハンターギルドはクズにゃ!」



 職員証明書をセルティオさんに投げつけてやった。ギルド内は静まり返っている。多くの職員は遣る瀬ない顔をしているが、誰も何も発しようとはしなかった。彼ら彼女らにはそれぞれの生活がある。全ての職員がハンターギルドの理念に則って仕事をしている訳じゃないだろうからね。



「ねぇ、君。どこでその荷物奪われたんだい?」


「西区の北六の裏道です……」


「よし、奪い返しに行こう!」


「で、でも……」


「待ちな兄ちゃん。久し振りに心|滾(たぎ)る言葉を聞いたぜ!」



 酒場に居た中年男のハンターさんが声を掛けてきた。



「西区の北六って言やぁ、闇金融業者の巣窟って言われる場所だ。そんな場所で奪われたって事は、裏でマフィアが手を引いてるなこりゃぁ。これは明らかにやられたってやつだ。なあ、セルティオさんよう?」


「我々は規則に則って仕事をしているだけ……規則なんです……」


「ケッ、まだ言うかよ……。おい、街に居るハンター全員集めろ! 仲間のハンターをコケにした事、後悔させてやんぞ!」


「「「おぉー」」」


「ジ、ジクムントさんは何をするつもりですか!」


「あんた達の規則に則って、人の皮を被ったモンスターを退治しに行くんだよ。その人の皮を被ったモンスターから依頼を受けたギルドは、どう落とし前を付けるんだろうな。楽しみだぜ!」



 セルティオさんの顔は真っ青になっている。ご愁傷さまです。


 中年男のハンターと男の子と一緒にギルドの外に出た。



「俺はジクムント。ジンって呼んでくれ。言っとくがジンと呼ばせるのは気に入った相手だけだからな。ガッハッハッハッ!」


 この人ミュラーさんより強いんですけど……ゴブリン三百匹分の強さって出てます。世界は広いねぇ。



「俺はネロ、こっちはミーちゃん、そして」


「ペロにゃ」


「み~」





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