42神猫 ミーちゃん、キャリーバッグのお陰で難を逃れる。

 安全地帯でお昼にする。ここより安全な場所は無いからね。



「ネロ君、相談なんだが、あの大気スキルは迷宮では封印して欲しい」


「確かにのう、今回は助かったが、危険かもしれないのう」



 ミュラーさんが微妙な顔で説明してくれる。要するにあの音でモンスターが集まる可能性があると言う事だ。エルフのお姉さんは反対の意見で迷宮内に居る精霊が驚くくらいだから、モンスターも驚いて近寄って来ないと言っている。


 実際に今もモンスターは現れていない。一番最初のゴブリンは埃まみれにされて怒って向かって来たと思う。


 ただ、リーダーのミュラーさんとしてはリスクを避けたいと思うのは当然だろう。



「構いませんが、後は短剣を投げるくらいしかできませんよ」


「それは仕方のない事だと思っている。それとそのダガーなんだが……」


「AFですよ」


「やはりそうか。言って良かったのか?」


「最近思ったんです。隠すより持ってる事を公言した方が安全じゃないかって。仮にもハンターギルドの職員です。もし、俺を襲ったらこの国に居られなくなりますよ。売るにしたってすぐに足が付くと思うんです」


「確かに、ネロ君の言う事にも一理あるが、それでも欲しがる奴は大勢居るのも事実だ。気を付けるにこした事はない」


「ありがとうございます。十分に気を付けます」



 まあ、何かあればミーちゃんバッグに収納してもらうしね。



「み~」



 うん。その時はよろしくね。ミーちゃん。


 ミーちゃんもジュエルリザードに食べられた猫缶の鬱憤を晴らすかのように、見事な食べっぷりでお昼を完食しました。俺はピラフおにぎりを食べたけど、海苔が欲しいとふと思った。ピラフに海苔が合うかは別として、海苔があった方が手が汚れないし海苔の風味が懐かしい。


 幸い安全地帯には飲める程綺麗な泉があるので、手を洗う水には苦労をしない。一応、飲み終えたペットボトルに泉の水を汲んでおく。喉が乾いた時に飲むならミネラルウォーターではなく、この泉の水で十分だ。冷たくて美味しい水だからね。



「帰りのルートはどうしますか?」


「ネロ君はどう思う?」


「迷宮自体初めてなので良くわかりませんが、上と下を繋ぐ道が一本道と言う事は無いと思いますので、来たルートの反対のルートで良いかなと」


「うむ、みんなはどう思う?」


「そうじゃな、小僧の言う通りじゃと思うのう」


「私も賛成です。この広さならたとえ間違っても、まだ余裕があります」


「そうだな、目的の安全地帯は見つけたんだから、違うルートでも繋がるのがわかれば、後から来る奴らの為にもなるな」


「それにまだ、隠し部屋見つけてないよ!」


「そうね。チャンスがあるなら狙いたいわね」



 みなさん貪欲です。それだけの実力を持っているのも事実なんだけどね。


 と言う訳で逆ルートで帰ります。下に降りる道も見つけてないから見つけておきたい。


 この階層にはロックリザードしかいないようだ、ジュエルリザードはロックリザードの亜種だからそうなる。ミュラーさん達はウハウハのようだ。嬉々としてロックリザードを見つけると狩っている。そう、狩っているのだ。ミュラーさん達にとってはロックリザードは素材にしか見えていないのだろう。


 そんな哀れなロックリザードを見ていていると、可哀そうになってくるよ。まあ、俺も魂の器の成長と投擲スキルの熟練度上げの為参戦してるけどね。ロックリザードの怯えた顔を見ると忍びなくなってくる。


 そしてまた、見つけてしまった……隠し部屋。



「やはりあるのか……」


「フフフ……大漁だわ」


「ジュエルリザードの皮鎧も夢じゃないな」


「新しい斧が買えるかのう」



 なんかみなさん怖いです……。



「みぃ……」



 ミーちゃんもそんな雰囲気を感じ取ったのか、キャリーバッグの中に隠れてしまう。


 猫獣人のお兄さんが、俺が教えた隠し部屋の壁を扉の仕掛けがないか探している。ほどなくして、どうやら見つけたようだ。



「開けるぞ」



 ゴォーと言う音と共に壁が開いていく。



「不味い! アヴェラントリザードだ!」



 な、何が不味いの! ミーちゃんキャリーバッグから出たら絶対駄目だからね!



「みぃ……」



 三メル近い巨体の紫色や緑色の斑点のあるトカゲだ。口から緑っぽい息を吐いて……って、あれ? 体が痺れて動かないんですけど……。



「ネロ君、下がれ! 毒にやられるぞ!」


「ぞういうごじょあぁばにゃぐじゅうれぼじぃがっどー」


「駄目だ! 既にやられてる! 引っぱり出せ!」



 皆さんは口と鼻を布で覆っている。


 猫獣人のお兄さんが、通路の端まで俺を引きずって隠し部屋から離してくれた。



「そこで動くなって、動くけねぇよな……」



 ははは……厳しいですね。ミーちゃん、大丈夫か~い。



「み~」



 流石、神様仕様のキャリーバッグだね。実はそのバッグ、全耐性付きの破壊不可だったりしてね。ははは……。


 痺れた体でなんとかバッグを漁りペットボトルを出す事には成功した、だけどキャップが痺れてるせいでなかな開けられない。それでも、歯でキャップを噛んで少しずつ回していく。


 隠し部屋の方を見ると、蒼竜の咆哮のみなさんも苦戦してるようだ。隠し部屋の外の通路にエルフのお姉さんと普人族のお姉さんが倒れているのが見える。早くしないと不味いかも……。


 必死にキャップを回して蓋を開ける事に成功する。体を倒してミネラルウォーターを飲む。一気に全快! 流石、神様仕様!


 ミーちゃんバッグからタオルを出してもらい、軽くミネラルウォーターで濡らしてから口と鼻を覆う。効果があるかはわからないけど、やっておくにこした事はないと思う。


 隠し部屋の前で倒れている二人をキャリーバッグの所まで引っ張ってくる。二人共、顔が真っ青だ。



「みぃ……」



 ミーちゃんがキャリーバッグから出てきて、お姉さん達の顔をペロペロするけど反応無い。不味い状況なのかも……。


 エルフのお姉さんを抱き起こしてミネラルウォーターを飲ませようとしたけど、喉を動かす事さえできないようだ。こうなると、あれしかない。そうあれだ、チューだ……じゃなくて口移しだ! 最初にエルフのお姉さんからやった事に他意はアリマセンヨー。


 口移し後、すぐにエルフのお姉さんが目を覚ます。



「ミーちゃんをお願いします。それから、これをそっちのお姉さんにも飲ましてください。万能薬です」


「わ、わかりました。あ、あの、ありがとう……」



 うおぉー! ミーちゃんのどや顔くらいの破壊力だぁー! 美人なお姉さんにはにかんで頬を赤く染められて感謝されるなんて、俺の人生で初めての経験だよー!



「みぃ……」



 ミーちゃん、その残念な子を見る目はやめて……。



 慎重に隠し部屋に入ると、ドワーフのおっちゃんが喰われてた……冗談です。足を咥えられブラブラしている。


 隠し部屋内に淀んでいる空気を、風を起こしてアヴェラントリザードの息ごと吹き飛ばす。



「な!? 助かる!」



 犬獣人のお姉さんも顔を青くしながらも必死に矢を放っている。



「これを飲んで! 早く!」


「わ、わかった……」



 代わりに短剣を投げてアヴェラントリザードを牽制する。口に咥えられたままのドワーフのおっちゃんがぐったりしているけど、愛用の斧をしっかりと握っているから意識はあるのかもしれない。でも、あれヤバくない?


 猫獣人のお兄さんがアヴェラントリザードの気を引く間に、ミュラーさんが後ろに回り込み攻撃を加える。


 犬獣人のお姉さんもミネラルウォーターを飲んで復活して矢を放ち始めた。どうやら大勢は決まったようだ。あの毒の息さえなければ、ミュラーさん達の敵ではないようだ。


 ほどなくしてミュラーさんがアヴェラントリザードに止めを刺した。透明な板が現れたけど今は、後だ。


 まずは……ドワーフのおっちゃん生きてます?









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