33神猫 ミーちゃん、助けを求めたはずが何故か拉致される。

 お馬さんの世話をしてたらもうお昼の時間になっていた。どこかに昼食を食べに行くのも面倒なのでギルド内の酒場で食べる事にする。



「何にします?」


「おすすめの定食でお願いします」


「好き嫌いはあるかな?」


「無いです」


「マスター! 実験台入りました!」



 ちょ、ちょっとなんですか? その実験台って! 何を食べさせる気ですか!


 そんな緊張した俺を余所目に、先程の猫獣人さんのウエイトレスさんはミーちゃんとじゃれあっている。ミーちゃんはさっきお馬さんと一緒に、ご飯を食べたから十分なようです。


 しばらくすると、昨日の怖い目で見ていたマッチョな人が何かを運んで来る。ウエイトレスさん、仕事しなくて良いんですか?



「お待ち」



 テーブルの上に大きな皿が置かれる。


 こ、これは……ま、まさか炒飯!


 見た目は紛うこと無き炒飯だ。鑑定しても炒飯だ。ただ……味はいまいちと出ている。


 と、取り敢えず食べてみよう。うん、いまいちだね……。味が塩気しかしない。入ってる具材もパッとしない。彩りも考えてはいないようだ。目で見て美味しそうと見えないと、どんなに美味しい物でもいまいちに思えてしまうからね。


 今俺にできる事と言えば、バッグからニンニク油を出してほんの少し掛けて混ぜるくらいの事。うん、少し旨くなった。



「おい、てめぇ。今、何しやがった!」



 ハヒッ! な、なに? 俺なんかした?



「ちょっと寄こせ!」



 あぁ、俺の炒飯がぁ……。全部、食べられちゃったよ~。



「う、うめぇじゃねぇかよ! てめぇ、それ寄こせ!」



 い、いやー! 誰か助けてぇー!



「み~!」


「サイクス! そこまでです!」



 おぉー。エバさんが助けに入ってくれた。



「で、ですが、こいつがなんかしやがったんですぜ!」


「ハァ……。ネロ君、何をしたのかしら? 説明してくれまして? ついでに馬舎に居るバトルホースの事も」



 なんで、そんな目で見られるのでしょうか? そう、その目は残念な子を見る時の目ですよ。エバさん。



「ちょっと味付けを自分好みに変えただけです。それから、バトルホースはある調教師さんから譲ってもらいました」



「味付けの件は良しとして、バトルホースを譲るなんて正気の沙汰ではありませんよ。いったい、何をしたんですか?」


「味付けの件だって、良くねぇぞ!」


「サイクス、お黙りなさい!」


「……へぃ」



 しょうがないので、バザーでの出来事を話した上で、育てのお婆さんが薬師で才能は無いけど秘伝の万能薬が作れる事を話した。もちろん誰にも言わないと約束させたうえでだよ。



「そう、それであのバトルホースは助かるの?」


「おそらくは助かると思います」


「そう……でもね、それって詐欺に近いと思うわよ」


「そうかもしれませんが、そうしないとあのお馬さん殺されてましたよ」


「治るなら、万能薬を譲ってあげれば良かったんじゃなくて?」



 そうなのかもしれないけど、無理がある。エバさんにペットボトルを見せてこれを五本飲ませたと教える。



「そ、それ全部、万能薬なの?」


「そうですよ。ガイスさんはこれ一本に金貨十枚払いました」



 一気飲みでね。



「金貨十枚……それを五本も……」


「当分、飲ませ続けないと駄目だと思います」


「ネロ君だからできるって事ね……」


「そうなると思います」



 わかって頂けたようで助かります。



「そっちの話は終わったようだな。それならこっちの続きだぜ!」



 何を言ってるのこの人は? 全く話す事なんてないですよ。ちょっとエバさん助けてくださいよぉ。



「それでは、私は仕事に戻りますね」



 あぁ、無情……。



「それで、てめぇは俺の料理になにしやがった!」


「だ・か・ら、自分好みに調味料を加えたんですよ」


「それを出せ!」



 空になった皿にほんの少しニンニク油を出してやった。



「チッ、ケチくせい奴だな」



 うるさい、なんとでも言え。これ以上減らされてなるものか。



「うめぇじゃねえかぁ……そいつを寄こしやがれ!」



 うっ、不味い。このマッチョな体で凄まれると、体が勝手に……。



「この匂いは~ミーちゃんの~嫌いな匂いなんですよ~!」


「み~」



 ガタッ、ガタガタッ!


 仕事中にも関わらず援軍到着!



「ちょっと、サイクス! 私達に喧嘩売る気!」


「ここに居られなくしてやるわよ!」


「うっ……」



 ミーちゃんを抱っこしている猫獣人さんの猫耳がペタンとしてプルプル震えている。気持ちはわかるね。



「あんたも料理人の端くれなら、自分で考えなさいよ!」


「ぐっ。た、頼む材料だけでも教えてくれ」



 今度はお姉さん達が俺を睨んでくる。ど、どっちなんですか? 教えて良いの? 駄目なの?



「頼む、この通りだ」



 ど、土下座ですか……。



「わかりました。但し条件があります」


「なんだ、何でも言ってくれ!」


「一つ、絶対に使いすぎない事。一つ、換気は十分にする事。一つ、さっきの料理の材料について教える事です」


「わかった。約束する」



 メモ帳を出して、材料と作り方を書いて渡す。



「ば、馬鹿な……たったこれだけだと……」



 サイクスさんと言うマッチョな人が床に崩れ落ち、涙を流している。怖いんですけど。


 いつの間にかミーちゃんが猫獣人さんのお姉さんから、ギルドのお姉さん達に奪われ連れ去られている。



「それより、さっきの料理の材料教えてくださいよ!」


「あぁ、約束だからな……」



 厨房に一緒に行って見せてもらった。


 お米だ。残念ながらジャポニカ米ではなくインディカ米だった。まあ、さっき見た時細長いお米だったからそうだとは思っていたけどね。


 炊いたご飯があったので味見してみる。が、パサパサして美味しくないよ~。


 その辺にあった材料を炒めご飯を入れて、ニンニク油をさっと掛けてまた炒める。うん、彩りも良く美味しそうに見える。一口味見、旨いね。けど、胡椒が無いのがちょっと残念、あれば完璧だったね。



「こいつは米だ。別に珍しいもんじゃねぇ。何をやっても、たいした味にならねぇから人気がねぇ。商人ギルドの知り合いに、在庫処分するからって泣き付かれて大量に買っちまったのよ……」



 うーん、インディカ米って使った事がないんだよねぇ。ちょっとやってみるか。


 お米を洗って大きな鍋に入れて、丁度あった野菜スープを入れる。フライパンで小さく切った鶏肉のようなお肉を小さく切って炒める。玉ねぎもみじん切りにして炒め、お肉と一緒にお鍋に投入。バターを適量、ニンニク油を少し入れて、後は炊き上げる。なんちゃってピラフです。


 本当はフライパンで炒めるんだけど、大量に作るならこれの方が簡単。ピラフと言うよりピラフ風炊き込みご飯かな?


 炊き上がり始めるとバターとスープ、ニンニク油の匂いがマリアージュして、なんとも言えない旨そうな匂いが漂い始める。


 俺は一生懸命、エプロンでその匂いをギルド側に仰いで送っている。



「何やってんだ?」


「今にわかりますよ」



 結構な時間仰いでいたけど、そろそろ炊き上がったようだ。蓋を開けると良い感じに炊き上がっている。味見してみたが完璧に近いですな。


 厨房の外には案の定、ギルド職員さんに酒場に居たハンターさん達がこちらを見ている。



「皿に小分けにして、みんなに配ってください」


「お、おい。タダで食わせる気かよ」


「損して得取れって言葉があります。作り方は見てたでしょう。明日は忙しくなると思いますよ」


「お、おう……」



 食べた人達はみんな美味しいと言ってくれた。最後のお焦げの部分まで完食されてしまった。


 明日が楽しみだね。


 それより、ミーちゃんどこ行ったの~。




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