9神猫 ミーちゃん、お仕事します。

『四十七番、待機』


『二番、決定』


『三十六番、保留』



 ギルドが開いてからひっきりなしに、スピーカーから途切れる事なく声が聞こえてくる。聞こえてくる事を掲示板にチェックしていくだけなんだけど、こりゃ大変だ。まったく休む暇がない上、気が抜けない。間違えば誤った情報が掲示板に載り、ハンターさんや受付のお姉さん達に迷惑を掛けてしまう。しいてはせっかく働き口を失いかねない。頑張らねば。


 ミーちゃんの飼い主と言う手前、ニートはいかん。まあ最悪の状況になっても、ミーちゃんの猫缶とミネラルウォーターがあるから飢えることはないけどね。いやいや、そう言う楽観的な考えが俺の悪いところだ。改めねば。


 ちなみにお姉さん達が言っている番号は依頼番号で、決定は誰かが依頼を受け決まった事、保留は受付中の事、待機は依頼を受けようとしたが条件が合わず受付待ちに戻った事を意味する。


 これが一時間近く続いているんだよね。たまにミーちゃんのミネラルウォーターを飲んで気力回復してるけど、これがね本当にこのミネラルウォーター凄いのよ。疲れが一気に飛ぶし目が冴える。これが受験の時にあれば、合格してたかもなぁ。


 おっといけない集中、集中。


 一時間半が過ぎる頃になると、聞こえてくる声が少なくなってきた。掲示板の今日書いた依頼は七割近くに決定にチェックが入っている。残っているのは依頼料が安かったり、日雇い労働などが多い。


 変わったところだと、話し相手募集や実験台募集なんてものもある。実験台って何の実験なんだろう? 依頼料はそんなに悪くはないような気がするけどね。誰も受けないって事は危険な実験なのかな? 暇な時に受けてみようか……いや、やめとこ。



「ネロ君。お疲れ。良い動きだったわよ」


「ありがとうございます。正直、一杯一杯ですよ」


「あれだけできれば、優秀よ。受付は一段落付いたから休憩してきて良いわ。それから、ミーちゃん預かっていくわね」



 どうやら、ミーちゃんのお仕事が始まるらしい。ミーちゃん頑張ってね!



「み~」



 ミーちゃん、やる気十分のようだね。


 折角なので、ハンターギルド敷地内を探索してみよう。外に出てぐるっと一周してみる。建物は石造りの四階建で、建物の後ろに結構広い屋根のかかった訓練場がある。その訓練場ではハンターらしき人達が、訓練をおこなっている光景が見られた。他にも厩舎や倉庫などの建物があった。ハンターギルドが思った以上に大きさいのに驚いてしまう。


 部屋に戻ろうとしたら、パミルさんに手招きされた。



「向こうの仕事は、今日はもう良いわ。夕方に頼みたい仕事の適正検査をしましょうか」



 適正検査ですか? 連れて行かれた机の上に色々な物がのかっている。



「まず、これから鑑定してみて」



 黒っぽい石を渡されたので鑑定してみる。



「ゴブリンのコア、と出てます」


「じゃあ、これは?」



 見た目は同じ物のように見えるけど……



「ゴブリンのコア、破損あり?」


「十分ね。思った以上に優秀ね」



 パミルさんからコアについて説明を受けた。


 コアはモンスターの第二の心臓と言われていて。体のどこかにあるらしく、これを破壊されるとモンスターは一巻の終わり、要するに弱点と言う事だね。だけど、このコアには大変利用価値があるうえ、モンスターの討伐証明にもなっている。


 話を聞いてる限り、どうやらこのコアがこの世界を動かしていると言っても 過言ではないようだ。このコアから生み出されるエネルギーが、殆ど全ての動力源となっているようで、まったく気にしていなかったけど部屋で使っていたランプでさえこのコアを使っているそうだ。


 なので、弱点とは言え破壊してしまうとお金にならなくなる。討伐証明としてだけなら壊れていても問題ないと言う事だけど、壊れたコアだけでは生活が厳しくなるのは目に見えている。なかなかに厳しい世界だね。


 先程の見た目では判別がつき難い破損のある無しなどを調べるのが、夕方からの仕事になるようだ。ただ、破損具合によって値段が変わるらしく、その査定は俺では無理なので他の人に見てもらう事になる。



「次にいくわね。はいこれ」



 今度は何かの毛皮のようだ。



「ラピットの毛皮」


「じゃあ、これ」



 これも見た目には同じに見えるんだけど……。



「ラピットの毛皮、品質良」


「やるじゃない。これなら問題ないわね。夕方からは、買い取りの手伝いをしてもらうわね」



 夕方に戻って来たハンターさん達が持ち込む素材を買い取るのに、鑑定が無い人はリアルの見識眼で判断しなくてはならないので時間が掛かってしまう。少しでも混雑解消の為に鑑定スキル持ちの俺が見て、買い取りの係の人に伝えて値段を決めてもらう事になる。


 俺が手伝った位で大した役には立たないかも知れないけど、この世界の価値観を学ぶには持ってこいかも。頑張ろう。


 残りの一時間はロビーの掃除をして終わった。一旦、帰る時間なのでミーちゃんを探すと、受付のお姉さん方にモフられ中だったよ。



「ミーちゃん帰るよ」


「み~」


「「「えぇー!」」」


「帰っちゃやだ~」


「私の癒しが……」


「ペロペロちゃん……」



 お姉さん方の残念がる姿をよそに、ミーちゃんは俺の元に飛んできて顔をスリスリさせてくる。お姉さん方の目が怖いです……。早く退散しましょう。



「それじゃあ、また夕方の四の鐘の前に来ますね」


「よろしくね。ネロ君」



 さあ、帰って朝ご飯を食べよう。久しぶりに朝なのにお腹がペコペコだよ。うちは両親の仲が悪かったので、高校に入ってからは朝にご飯なんて作ってくれた事が無い。なので、朝食は滅多にとった事がなかった。それが普通になっていた。でも本当の普通と言うのは今の状況が当たり前の事なんだろうな。あっちの世界がおかしかったんだよ。


 今の俺にとっては、こっちの世界の方が正常に見える。向こうの世界に未練が無いかと聞かれれば、あると答えるだろうけど、この世界に来た事は後悔はしていないと思う。


 ミーちゃんも一緒だしね。



「み~」





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