8神猫 ミーちゃん、起きたらハンターギルドに居ました。

 朝部屋をノックされ目が覚めた。



「時間だよ。ネロ」


「おはようございます。もう、大丈夫です。ふあぁ~」


「二度寝するんじゃないよ!」



 正直、二度寝したい。そんな思いを断ち切って着替え、顔を洗って歯も磨き髪を整え準備万端。バッグを持って寝ているミーちゃんを抱っこして宿を出る。


 外は朝もやに包まれひんやりとしている。今の季節は何時なんだろう? 春っぽくすごしやすい季節だ。街はまだ薄暗いにも関わらず。通りのお店の人達は活動し始めている。みんな早起きだね。


 ギルドに着くと、もう既に表にハンターさん達が集まり始めていた。建物の裏に回り中に入ると、ギルドの職員さん達は既に仕事を始めている。


 ハンターギルドは朝六時から夜の九時までやっていて、職員さんは基本二交代制勤務になってると聞いている。なので今居る職員さんは早番の職員さんだ。



「おはようございます。本日からお世話になりますネロです。よろしくお願いします」


「朝からうるせぇ! 坊主。頭に響くだろ」



 ガイスさんだ。うわぁ酒臭い、これは二日酔いに間違いない。何やってんだこの人? それに挨拶は大事だよね?



「誰か、水くれ……」



 誰も反応しない……。自分の仕事に集中しているのか、はたまた無視してるだけなのか判断に苦しむ状況だ。仕方ない、昨日召喚したミネラルウォーターをあげよう。



「どうぞ」


「なんだこりゃ。坊主?」



 そうか、この世界にペットボトルなんてある訳ないものな。蓋を開けて渡してあげ。



「変わった水筒だな。まあ良い。ありがたく頂くぜ」



 ゴクゴクと一気飲みしてしまった。余程、喉が乾いていたんだろけど豪快すぎるよ。口から漏れてるし……。



「おい坊主!」


「ハヒッ!」


「てめぇ! 俺に何飲ませやがった!」



 ギルド内にガイスさんの声が響き渡り、全員がこちらを凝視している。ミーちゃん用のミネラルウォーターとは言えず。



「た、ただの水ですよ?」


「てめえ! これがただの水な訳あるかぁ!」



 バッグからもう一本出して、鑑定してみた。初級万能薬兼初級回復薬と出ていた……。何やってんの神様! って、怒ってる訳じゃないですよ。逆にありがとうございます! ミーちゃんだけじゃなく人間にも効く物の様です。ミーちゃんが元気なのはこれのお陰なんだね。これは最高の贈り物ですよ! 



「間違って、初級万能薬渡しちゃいました。てへぺろ♪」


「ば、万能薬だとぉ! 嘘だろ……あれ全部が初級万能薬だったって言うのかよ……少なくとも普通の十本分はあったぞ……俺は金貨十枚分も飲んじまったのかぁ……ハハハ……」



 ガイスさんはその場に崩れ去り、天井を見て笑っている。何が可笑しいのだろうか? 

 それにしても、これ一本で金貨十枚ってどんだけだよ。正直、身の危険を感じます。絶対に召喚で出せる事は言わないでおこう。下手したら権力者に捕まって飼い殺しにされる恐れがある。そんなの嫌だよ。これは秘密だ。


 そっとペットボトルをバッグにしまう。誰もみてないよねって、全員こっちを見てるし……。ついでに空きペットボトルも回収しておいた。



「ちょっと! この忙し時間に何やってるの! 仕事しなさい! ガイスさんも何やってるんですか!」


「パミル。悪りぃ、今日、俺帰るわ……」


「ちょ、ちょっと何言ってんですか!」



 ガイスさんは魂が抜けたかのような様子で、フラフラとギルドの建物から出て行ってしまった。俺のせいじゃないよね? 



「何があったの。ネロ君?」


「さ、さぁ?」


「まあ良いわ。ガイスさん居ない方が捗るしね。ネロ君、こっち来て」



 パミルさんについて行き、ギルド内で一番目立つ掲示板の裏にあたる部屋に連れてこられた。表の掲示板は天井近くにあるが、目の前に表の掲示板と同じ物が目の高さにある。



「今日からここでおこなう作業は、ネロ君が専属になるからちゃんと覚えてね」



 この掲示板はハンターさん達への依頼を載せる掲示板だ。掲示板は三つに分かれていて、モンスターの討伐依頼、討伐以外の依頼、昨日までの未受理の依頼に分かれている。


 最初にする事が、昨日の依頼で受けられていないものを、未受理の依頼側に書き移す事。この掲示板、とても便利で掲示板同士が繋がっていて、裏で書いたものが表に映る仕組みになっている。なんてハイテク……。


 ミーちゃんを横のテーブルの上にタオルを敷いて寝かせる。ガイスさんの怒鳴り声を聞いても起きないなんて、ミーちゃん大物ですなぁ。まったく起きる様子が無くスピスピ寝息をたてているね。


 準備が整ったので掲示板に専用のペンで依頼内容、依頼期間、報酬、備考、を書き移す。移し終わると、パミルさんが一枚の紙を渡してくる。表裏にびっしりと依頼が書かれていた。どうやら、これを書かなければいけないらしい。開業時間の六時までに書き終えるだろうか? 急がねばならぬ。



「書きながら聞いてね。朝の仕事は、まずこれね。その後はここに居て、受付から入る情報通りに、掲示板にチェックを入れるの。この箱から受付の声が聞こえるからちゃんと聞いててね」


 掲示板の横にスピーカーのような物が設置されている。試しにパミルさんが受付の場所に行って実践してくれた。



『聞こえるかしら?』



 どうやって答えれば良いかわからなかったので、表まで走って行って手を振って合図した。



「アハハ……ゴメンゴメン。使い方教えてなかったわね」



 スピーカーの横のボタンを押してる間、相手に声が聞こえる仕組みだ。双方向ではないらしい。まんまトランシーバーだね。神様はこの世界を未熟な世界と言っていたけど、意外と科学技術高いんじゃないのだろうか?



「ネロ君、聞いてる? ここが光ってる時は、誰かがが喋ってる時だからね」


「大丈夫です。これと同じ様な物、使った事がありますから」


「へぇー、そうなんだ。これってハンターギルドの専売特許なのよ? 余程の事がないと売られない物なんだけどなぁ?」


「アハハ……たまたまですよ」



 そして、何とか六時前に書き終える事が出来た。ふぅ。その間にミーちゃんも起きたようで、いつの間にか知らない場所に居る事に不思議そうに俺を見つめている。



「み~?」


「おはよう。ここはハンターギルドだよ」


「み~」



 女将さんから借りてきた木製の皿に、例のミネラルウォーターを注いであげる。美味しそうにチロチロ飲んでいる。これでミーちゃんの健康面は完璧だ。ついで俺も飲んでおこう。おぉー、なんかスッキリした。体から何か悪い物が抜けた感じがするし、眠気も吹っ飛んだよ。なにより美味い! 水がこんなに美味いと感じたのは初めてだよ。



「ネロ君。準備は良い。ハンターギルドが開くわよ!」



 こうして、俺のハンターギルドでの仕事が始まるのであった。



「み~」




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