第百三九話 念力老人 対 狂科学者 その2

 ちょくちょくザコ敵を倒しつつ、浩はベンガルと共にこの洞窟の中を探索していると、左側の壁に違和感を感じたので、その前に立ち止まってみる。

 浩は目の前の壁を触ったりノックしてみたりすると、他の壁や歩いている地面よりも軽い音がしてきて、怪しいと睨む。


 「......どうしたんですか足羽さん?」

 「何かあるのう」

 「え?」


 ベンガルが眉にシワを寄せているのも気にせず、浩は右手を前に出して、力を入れる。


 「ふんっ!」


 薄い壁はあっという間に砕け散り、空間が見えた。

 その空間と言うのも、これまた浩の予想通り、凄いもので...。


 「なんじゃこの部屋は...」


 電球が電線を露出させたまままで繋がれてるのが数十。

 そして驚いたのが、この部屋全体が、ドクンドクンと波打つ音、そしてその音源である物体で埋め尽くされていることだった。

 この質感はさっきの物体とそっくりであった。

 それと、白服をきた怪物がこちらを振り向き、ひどく動揺していた。


 「な、なぜこんなところを......!?」


 顔はワニでありながら、何故か目はカエルという奇妙な顔立ちのエネミーは、研究員か何かか。

 これらを作った張本人であることには間違いないだろう。


 「ここがあの不気味なエネミーの卵の工場か」

 「足羽浩......クソ、全員出てこい!!」



 エネミーがそう叫ぶと、その生産機から突然、あの例のエネミーが大量に出てきた。

 しかも尋常じゃない量で、ヌメリヌメリと這い出てくる。


 「......マクレン、お主は下がっておれ」

 「え、そんな......」

 「いいから!」


 心配しながらも浩の言う通り部屋の外に出るバンガルを背に、浩はこのエネミーの波に立ち向かう。

 浩はムチの刀をしならせてエネミー達を薙ぎ払っていく。

 最初は振り回していれば木っ端微塵になったので爽快ではあった。

 だが殺っても殺っても無尽蔵に沸いてくる敵に少しずつ押されていった。


「おのれ小癪こしゃくな...!」


 疲労も溜まってきた浩は、周りのエネミー達に対して、一気に念力で捻り潰す。

 これだけでも結構体力がいる。

 一度はすっきりしたが、瞬く間に周りが生まれてきたばかりの彼らに占領されていき、叫び声が耳を刺す。


 「やかましいわああああああ!!」


 浩は怒りをぶつけるようにして叫ぶと、その怒りに任せてまた念力で殲滅。

 これでもまだ出てくるだろうと考えた浩は、その卵そのものを破壊することを決めた。


 (ぐ、広い空間を埋め尽くすこやつらを潰すのか......)


 正直やりたくはなかった。

 これに莫大な体力を使い、もし完全に破壊できなければ、浩の敗北は決定的なものとなってしまうからだ。

 後はベンガルに任せるといった手も一瞬あったが、あの程度で苦戦するなら勝てるはずもない。

 それでも、これをしない以上はどのみち勝ちは無い。


 「賭けじゃ......!」


 決意を固めた浩は、両手を勢いよく前に出して、今までに無いくらいに力を入れる。

 卵全てに念力をかけ始める。

 あまりに規負担が大きいので、心臓は吐きそうな位に鼓動を早め、頭が締め付けられるような感覚に陥る。

 それでもあきらめるつもりは毛頭なかった。


 「ぐぐぐ......!!」


 卵はだんだんと圧縮されていっているのが分かる。

 歯を食いしばり苦痛に耐える。


 「はあああああああああ!!」


 浩は最期の力を振り絞るようにして叫ぶと、壁や天井にヒビが入り、次いで卵が一つ、血をふいて破壊され始めた。

 その後は雪崩れが起こるように次々と卵が潰れている。

 勢い余ってか、見上げたら天井まで崩壊してきた。

 護身のために念力のバリアを張って自らにダメージが入るのを防ぐ。


 「ぜぇ、ぜぇ......」


 地上から浅かったのだろうか、空の光が崩れ落ちた土を、薄くだが照らしている。

 周りを見渡して、卵の活動が全て停止したのを確認すると、気が抜けて地に膝をつく。

 ものすごく辛い、生涯を通してここまで苦労するのは初めてだった。


 「足羽さん、大丈夫ですか!」


 闘いの終わりを伺って中に入ってきたベンガルが彼を支える。

 息を切らせながら、とぎれとぎれで返事をする。


 「ああ、わしは、大丈夫じゃ......それより......」

 「な、なぜだ......なぜこんなことに......!?」


 と、あの白衣のエネミーに目を向けると、ワニの口を半開きにして、露骨に動揺していた。


 「卵は、全て潰した。あとはあいつじゃ。奴ならお主も流石に倒せるじゃろ......」

 「はい足羽さん、後は任せて......」

 「いたた......」


 ベンガルがあのエネミーを倒そうと、浩のそばから立ち上がった時、瓦礫の中から嘆く女性の声がすると思えば、白い髪と白い翼が飛び出した。

 そしてもう一人、かなり小柄な女が、植物が地面から目を出すようにゆっくりと頭を出す。

 見てみる、とエドナ・フリントと、スリニア・エアハートだった、彼女らも巻き込まれたようだ。


 「なんか歩いてたら突然地面崩れたし、一体どうなって......あ」


 エドナは浩に目を向けるや否や、大方を察したような声を漏らす。


 「......なんだ足羽がやったのね。......どうなっとん?」

 「その話は後にしておいて、まずはあいつを倒すべきかと......」


 ベンガルがエネミーを指さす。

 敵が二人も増えたからだろうか、呆然と立ち尽くしている。

 未だに息が苦しい中であるが、なんだか哀れに思えてきた。


 「......じゃあ、私が殺りますねぇ」


 討伐に手を上げたのはスリニアであった。

 彼女は背中からあの天獣尾を出すと、それは複数の刃物に変形させる。


 「バラバラにします」


 そう呟くと一気にエネミーを斬り裂きにかかった。

 容赦がなく、浩はこの一手で勝負が完全に着いたと、確信した。

 この彼女の宣言通り、見事にバラバラに切り裂かれてしまった。


 ......スリニアが。

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