第百十四話 あたいの業火 その2

 野菜を断ちきるような音がしたのと共に、その感触も伝わった。

 だが短かった。


 「ん!?」


 斬ったのは長い胴体ではなく、その前に立ちはだかった緑のツタだ。

 綺麗に平らにされた断面が出来上がってるが、狙っていた茎に傷は無い。

 要はもう一度グングニルを引くが、その動作の最中に何かに右手首を握られ攻撃を阻止される。

 彼女の背中側から出てきたツタが要に巻き付いている。


 「そこからもか!」


 要はその縛られた右手全体に炎を起こす。

 ツタはそれによって脆くなったので、そのまま腕で引きちぎる。


 「ふぅ、大したことはなさそう」


 一本一本は脅威にはならなそうだ。

 だが要の言葉に怒ったか、彼女の周りから地面を響かせながら大量の緑のツタが躍り出てくる。


 「うわ気持ち悪っ!」


 ウネウネとダンスを踊っている光景は要をこう言わしめるほど。

 ツタはそのうねる勢いのままに要に次々と突撃してくる。


 (早い!)


 本体ののっしりとした動きとは対照的に、かなりのスピードで襲い掛かってくる。

 量が物をいうといわんばかりの速攻だが、要はそれに対して高速飛行で回避したり、槍で斬り対抗。


 「ぐ......こいつどんだけ出てくるんだ!?」


 これをやってもキリがないことを悟ると、そのツタを振り切りながら本体に正面突撃を試みる。

 やはり前面から障害が出るが、ゴリ押しで切り裂き、隙が見えたところを思いっきり一突きする。

 ザクザクという音と手に伝わる振動が気味良かった。

 エネミーはつぼみの先を大きく天に仰ぐ。


 「やりぃ!」


 ようやくの第一撃を加えられたことで、要が気を緩める。

 だがその後の反撃は考えていなかった、右足に絡みつくような感覚が伝わってきた。


 「わっ」


 それを対処しようとした時には、背中に大きな重圧がかかったのと共に、エネミーとの距離が一気に広がった。

 吹っ飛ばされた要は体勢を崩しながらもグングニルを地面に引っ掻け、十メートル以上の痕をつけてようやく勢いを止めることができた。


 「思ったより力あるな......」


 そうしているうちにもどんどんと地面から緑のものが生えている。

 幾何学模様の石で埋められていた地面はもはやその面影は大方失い、そこらじゅう穴だらけだ。

 ツタがいざ要への反撃開始だと、大きくうねらせると、それらが突然として次々炸裂した。

 ツタは一瞬にしてちぎれ飛んだ。


 「あ、レミ姉」


 要が

 麗美は周りに20弾ほどの魔法弾を生み出すと、再びエネミーに向かって空中放火を浴びせる。

 エネミーはそれをもろに受け、身体の破片が複数飛ぶ。

 数も威力も十分だ。


 「遅いよ!」

 「こっちは向こうの棟だから情報が伝わりにくいのよ」


 取りあえず、姉妹2人とも揃った。

 要は姉の弾幕の中に突っ込み、炎の槍を思う存分振り回す。

 彼女はエネミーの長い胴体を切りまくる。

 麗美のおかげで、エネミーの攻撃もだいぶ弱まっている。

 麗美の遠距離攻撃を意識的に避けているわけでもないのに、一回として誤射を喰らったことがない。

 これも姉妹だからできる業か。


 「ぬ......!」


 それでもエネミーは必死の抵抗をし、要の周りをツタで囲もうとする。

 それに気づいた要は急いでその最前線から抜け出す。

 その飛び出した先には偶然麗美がいた。

 依然として放火を浴び続けている。


 「このエネミー、見たことあるわ」

 「そうなの?」

 「付けられた名前は『フェンディ』。レベルは4~5。数年前に現れたときは20数件もの建築物を破壊した後、ディフェンサーズが出動したが討伐できずに地面へ潜って姿を消したという......」


 麗美は一回攻撃を止める。

 フェンディの茎は一部剥がれたりして、つぼみもボロボロになっている。

 あと一息で倒せそうだ。


 「よし、じゃあ早く畳みかけよう!」


 視界を麗美からフェンディに移した後、意気揚々とグングニルを振り回し。フェンディに襲い掛かろうと前に移動しようとした。

 だがその前に、麗美のいた場所で打撃音が響き渡った。

 要は反射的に横を振り向く。


 ......そこに麗美はいなかった。


 「あれ?」


 代わりに、大きく波を打っているツタがあった。

 そして後ろで「ビタンッ!」と叩きつける音がした。

 まさかと思い後ろを向くと、校舎の壁の手前に植え付けられた低木に、うつ伏せで乗っかっているのが見つかった。

 間違いなく麗美だ。


 「え、レミ姉......?」


 悪寒と汗が止まらない。

 恐る恐るもう一度フェンディに目を向けると、姿が変貌していた。

 今まで散々痛めつけていた茎は何事もなかったかのように完治しており、その上赤く小さな棘が大量に生えている。

 ツタにも棘がびっしりとついている。

 そしてつぼみは、赤い花びらを持った花へと開花しており、天を見上げている。


 「......」


 言葉を失った。

 ディフェンサーズは間違いなくレベルを計り間違えている。

 レベル6以上でいることは絶対に間違いない。

 要が呆然としていると、一本の棘付きのツタが襲い掛かってきた。

 さっきのより断然早い。


 「ぐ......!」


 要は回避は無理があると判断し、槍を盾にして防ごうとする。

 しかし、その頑丈なはずの槍は薙ぎ払いによってへし折られ、その勢いのままに要の腹を打った。


 彼女はなすすべもなく空へ高々と打ち上げられた。

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