第七十二話 式神
「まさ――!」
泰昌はその壁から出てきた天獣手に頭を鷲掴みにされてしまう。
そして、その手に壁の中へと思いっきり引っ張られてしまう。
泰昌は壁に激突し、それを突き破って壁の向こうにある部屋に乱暴に投げ飛ばされた。
「ッ......!!」
彼は地面に体を打つ。
「全く、聖堂の隣で騒がしいですね」
泰昌をここまで連れてきた張本人と見られる人物がいた。
祭服を来ており、かおは縫われている。
その人物はやはり、
「聖堂だと......?」
その部屋は、ステンドグラスの絵が貼り付けられてあり、大きな十字架も設置されている。
確かに、聖堂といってもいいだろう。
「親愛なるボスが私のために作ってくださいました。私はここでお祈りや神からのお告げを受けているのです」
武臣は笑いを浮かべながら饒舌に喋る。
「あなたたちはボスに逆らうもの。消さなければいけません」
武臣は天獣手を払う。
「ボスは天から送られてきた神の偉大なる従者。ボスに逆らうのは、神に逆らうのも同じ!」
「お前のボスは神の従者か......フッ」
泰昌は立ち上がると、口から血を吐き捨てた。
そして近くに落としている錫杖を手に取る。
「そのボスは今頃命乞いをしているんだろうな」
「ボスが苦戦を強いられるわけがありません。ボスは最強です」
「そうかい......まあいいや」
と言いながら、崩れている壁を見る。
壁は塞がっており、アイラはここを通ることは出来ないだろう。
よって、泰昌一人でこの武臣の相手をすることになる。
「面倒くさい事になったなぁ......」
と言いながらも、彼は一枚の札を取り出す。
「まあいい、僕一人で倒す!」
彼は人差し指と中指で挟む。
「『式神・猛虎召喚』
彼は呪文を唱えると、彼の前から魔方陣が出現した。
その魔方陣から、術の名の通り、虎のような生き物が現れる。
しかもただの虎ではない、全身が恐ろしい蒼い炎で包まれている。
呻り声も、さっきのエネミーよりも迫力がある。
「ほう、魔物を呼びましたか......」
「『式神』というのだ。こいつはレベル4以上でないと倒すことは出来ない。3分で倒せたらレベル5ぐらいだろうか」
そして泰昌は右腕の錫杖を武臣に向けると、
「あの天人を焼き払え!!」
と、式神に命令する。
「グウウウウウ......」
蒼き虎は泰昌の命令に従い、武臣に向かってゆっくりと歩んでいく。
そして炎の色とは対照的に紅い目で彼を威嚇する。
「グバウッ!!」
虎は体を纏っている炎と同じ、蒼い火を口から吐き出した。
その炎は勢いは落ちることなく彼に向かっていく。
「遅い」
武臣は翼を広げ、空中を飛び、炎を軽々と避けると、虎の目の前に降りる。
「グ!?」
虎は再び火を吐こうとするが、その前に武臣に天獣手で口を塞がれてしまう。
「あなたも哀れですね......」
武臣は虎にそういうと、虎の口を塞いでいる片手だけで後ろに回り、虎を空中に放り投げた。
「地獄での幸運を祈ります」
武臣はすぐさま投げた方の手で気砲を放った。
気砲は空中に放り出されて身動きもとれない虎にあたると、特撮で敵が倒された時のような爆発を引き起こした。
彼は冷静にその虎を一瞬で対処したのだ。
「おい、嘘だろ、こんな早く......」
泰昌はそれを呆然と眺めていた。
「......ふむ、その式神とやらが動き出してから、爆発が起こるまで、大体二十秒ぐらいでしょうか。これって――」
武臣は彼のほうをくるっと向き、口角を少し上げる。
「――どのくらいのレベルなんでしょうか?」
「……」
泰昌は彼を見て固まっていたが、
「......フ、フフ」
と、作り笑いをする。
「そうで無くちゃ面白くない!」
と、彼はまた札を出した。
「強がりは見苦しいですよ」
武臣が冷やかすような事を言う中、彼は札を左手でさっきと同じように挟む。
「『呪術・
と叫ぶと、札が光り、やがて札は彼の左腕を包み込むようにする。
やがて光が解けると、彼の左腕はなんと武臣の天獣手と同じような腕となっていた。
「この術は腕を天獣手と全く同じ形状と性能にすることが出来る」
泰昌は感触を確かめるようにその左腕を何回か握る動作をする。
「成る程、あなたは色々と面白い戦術を使ってきますね......」
武臣は下顎を触り、興味があるような仕草をする。
「......しかし、
「ほざけっ!!」
彼は怒り半分でそう叫ぶと、早速気砲を武臣に打ち込んでいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます