第八話 狐耳はいいぞ。 その1

今日は太陽が見えない。

 傘に雨水が当たる音、水溜まりを踏む音、自動車の音などが聞こえる。


 「はぁ、買い物は疲れるなぁ......」


 アマツはショッピングに食料を買いに行っていた

 アマツのレジ袋にはぎっしりと野菜やら飲み物やらが詰まっていた。


 「最近ネットでジャンクフードを買ったりてのが多いからなぁ、たまには自分で作らないとな」


 彼の食料の大半はネットでインスタント類を買うことだったが、最近は自分の足で買いに行くようになった。


 「今日は特売日だったから、沢山買えたな。これで当分は買い物はしなくて良いかな?......にしても、命令されなくても自由に出動できる任意出動があったとはなぁ......二週間命令来ないかと待っていた俺はばかだなぁ......」


 とつぶやいていると、誰かがアマツの肩に当たった。

 当たったと思われる灰色のフードを着た人物は、当たった衝撃で地面に倒れた。


 「あ、すみません」


 彼はそう言って倒れた人を見た。

 見ると、黄色く澄んだ目、髪型は金髪でセミロング、頭からは狐のような耳がはえている。


 「いてて......」


 彼女が発した声は、正しく美女と言うような声だった。


 それを見たアマツは、


 (か、かわいい......)


 こう思った......。


 (なんて美しい女なのだろうか......ん? あ、頭に耳がついている!? いわゆるケモミミというやつか? おお、もしかしてこれは運命なのか!? いやいや、そんなに簡単には来ないぞアマツ!! と、とにかく何とかこの子を何とかしなければ!)


 「あ、あの、大丈夫ですか?」

 「うん、ありがとう」


 狐耳の女はアマツの手を借りて立ち上がると、ニコッと微笑んだ。

 その顔が、アマツの心に刺さった。


 「あ、えっと良かったら、俺の家に来ませんか? 濡れてるみたいだし」

 「え、ほんとう!? ありがとう! 嬉しいなぁ」


 女は満面の笑みを浮かべた。


※ ※ ※


 「ここが、俺の家だ」


 アマツのアパートに着いた。

 木で出来たドアに、隣にはエアコンの室外機がある。


 「さあ、入って入って、狭い家だけど」


 アマツは笑顔で女をアパートの中に入れた。


 「......確かに狭いわね」


 その言葉がアマツに刺さった。

 悪意無く言ったのであろうけど。


 「うーん、就職したばかりのサラリーマンってところかしら?」


 女はそう言って家を歩き回った。


 「おーい、早く身体拭いてよ。俺の家まで濡らさないで」

 「はーい」


 アマツはタオルを渡した。


 「ねえねえ、名前は何て言うの?」

 「俺はアマツだ」

 「アマツ君か。私はフリッズ」


 フリッズはフードを脱ぎ、髪を拭き始めた。


 「フリッズ、何で狐の耳をしているんだ?」


 アマツがそう室内すると、フリッズはその耳をさわりながらいった。


 「突然、生えてきた」

 「なんだそれ?」


 アマツは首を傾げた。


 「私、昔事故に遭ってね、そこから目が覚めたら耳がはえてたっていうか......」

 「......ふーん、変なの」

 「なんかね、神様が私の前に現れたの、それで、命とかを引き換えにこの耳がついてきたんだ」

 「そ、そうなのか?」


 アマツはいくつか疑問に思ったが、あまり根掘り葉掘り聞くのはまずいと思い、あえて聞かなかった。


 「このタオルって洗濯機に入れれば良いの?」

 「あ、入れておいて」

 「はーい、あ、あとフードも入れておくわ」

 「いーよ」


 間も無くフリッズが戻ってきた。


 「あ、俺トイレ行ってくるわ」


 と、アマツはトイレに行った。


 用を足したあとアマツは洗濯機がある洗面所に行った。

 そしてアマツは洗濯機をのぞきこんだ。


 「こ、これがフリッズが被っていたフード......」


 そしてアマツは、そのフードを持った。


 「......」


 アマツはこのフードを見つめた。


 「......な、何やってんだあ俺はあああああ!」


 アマツはフードを持っている手を震わせた。


 「これじゃあ変態じゃないかああああああ!! あ、こ、このフードを離さなければ!?」


 アマツはタオルを洗濯機に叩きつけた。


 「ああ危ない、童貞の俺がこんなことをしてたことがバレたら大変なことになってしまう。しかもさっき知り合ったばかりじゃないか!」


 アマツは自分のを叱った。

 と、彼はフードを握った手を見つめた。

 そしてその手を彼の顔に近づけた。


 「......!?  ぬ、ぬわあああああああああ!?」


 アマツは叫びながら自分で自分の頬を叩いた。


 「ど、どうしたの!?」


 フリッズの声がした。

 「あ、いや、何でもない......」

 「そ、そう......」


 彼の顔は赤かった。


 「なんて奴なんだ俺は!? そんなにあの子の匂いを嗅ぎたいのか!? おお~やめるんだ、こんなんで変態というレッテルを貼られて社会的に死んでいいのか!」


 彼の心臓はバクバクとなっていた。


 「大体、美人だからと言って、良い匂いとも限らないんだ。 これはいろんな意味でリスクがある......と思ったけど」


 実は彼は、フリッズが転んだところを起こした時に、匂いをかいでいたのだ。


 「いい匂いだったなぁ......」


 その匂いは、花のようないい匂いを出していた。


 「ば、ばれなきゃいいや......」


 そうして、彼は再びフリッズのフードを洗濯機からだし、花に近づけていった。


 「......ゴクン」


 彼は息をのんだ。


 ガチャ


 その時、冷蔵庫を開ける音がした。


 「え!? 何をしてるんだ!」


 アマツが急いで冷蔵庫のある部屋へ行くと、フリッズが缶ビールを開けて、飲んでいた。


 「はぁー、おいしっ♡」

 「ちょおおお!?」


 アマツはフリッズに詰め寄った。


 「お前何やってるんだ!? 人のもの勝手に飲むなんて窃盗だぞ窃盗!?」

 「まあそんな固いこと言わずにさぁ、君ものもうよぉ~」

 「固くない! お前が柔らかすぎる!!」

 「ね、でも、もう開けちゃったし、ね?」


 フリッズはにかっと笑った。


 「......はぁ、わかったよ」

 「さっすが、太っ腹!」


 フリッズはガブガブとビールを飲んだ。

 アマツは溜息をついた。


 (よくも悪くも明るい人だな~フリッズは)


 アマツは一人ぐらいの大きさのソファに座った。


 そして、スマホを取り出した。


 「え、なにしてるの?」


 フリッズがアマツの後ろから現れた。

 「え、あ、エネミーの発生情報だよ」


 彼はつい最近までこのアプリの存在に気づいてなかった。


 「なんでそんなのを持っているの?」

 「ああ、俺、ディフェンサーズで働いているんだ」

 「え? そうなの!? いや~てっきりサラリーマンかと、言っちゃ悪いけどそんな体してないし」

 「やっぱり言われると思ったよ」


 アマツは苦笑いしていた。

 「お、これとかいけるかな? なになに、レベル3か......」

 「お、アマツ君、戦いに行くの?」


 フリッズはアマツが戦うところに興味があるようだった。


 「ああ、でも、おまえまでは危ないから、ついてきてほしくないな」

 「いいじゃないーい、私が汚してもアマツ君に責任はないんだし」

 「......そうか、じゃあ、みてもいいぞ」

 「ほんと? じゃあ遠慮なく!」


 そうして、二人はエネミーがいる場所へ向かう準備をした。


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