第53話 ヴァイセンブルクの戦い
53.ヴァイセンブルクの戦い
ゲルマニア軍の飛行部隊が出撃したのを見たラモーナたちは、ヴァイセンブルクからクリンバッハ城へと続く山道を登っていた。ルネたちの動きが陽動だと気付いた敵が地上部隊を出してくる可能性もあるが、このまま敵がやって来なければ自分たちが城を攻撃することができる。
「ホワイト少尉、ローワ少尉、油断するな。飛行部隊は隊長たちが引きつけてくれているが、城に残った地上部隊がこちらに向かってくる可能性は十分にある」
「「はいっ!」」
この道からクリンバッハ城を攻める難しさは、その
「大尉、あれを!」
「むっ?」
シェリルが道の先に見えている城から少し左側を指差す。ラモーナとジャクリーンがそちらにバイザーカメラを向けると、空から三機のAMが迫ってくるのが見えた。
「地上部隊がくるかと思ったが、飛行部隊か……」
「数はこちらと同じですが、どうされます?」
「無論応戦だ。あいつらを落として城に向かうぞ!」
「「了解!」」
山道を三分の一ほど進んだところで両軍の戦いが始まった。先制攻撃を仕掛けたのはゲルマニア側だ。
―― スタタタタタタタタタタタタタタタ! ――
「いつまでもその防弾傘が通用すると思うな! フォス少尉、ボルフ少尉、爆弾を投下しろ!」
「「了解!」」
ヴェロニカとクリームヒルトの二人が、
「いかん! 二人とも下がれ!」
ラモーナの号令で三機が一斉にバックする。おかげで爆弾の直撃は避けられたが、進むべき道そのものが穴だらけにされてしまった。
「あ、危なかった……敵が爆弾を使う可能性をソッピースから聞いていなければ直撃を食らうところだったぞ」
「大尉、道がこれでは進めません!」
「森の中を
「分かっている。ここは
「「了解!」」
ラモーナたちは城攻めを
「ウーデット大尉、やつらが
「いいぞ、これでやつらを足止めできる。我々の任務は敵を城に近づけないことだからな。だが、このまま生かして帰す法もあるまい。ここでとどめを刺してやる!」
エルネスティーネがまさに牙を剥かんばかりにラモーナたちに襲い掛かる。彼女は
「食らえぇっ!」
―― ドンッ! ドムォン! ゴゴォン! ――
ラモーナたちの上に容赦なく爆弾が降り注ぐ。広い場所に出たおかげで避けやすくはなったが、ルネたちのようにフライヤーユニットを封じたわけではないので敵のほうがまだ優勢だ。
「きゃぁぁっ!」
「ホワイト少尉、ローワ少尉、今は耐えるんだ! やつらの爆弾が尽きるまで、平原の広さを最大限に使って逃げ回れ。そのうち必ずチャンスは来る!」
「は、はいっ!」
「フフフ……我々の弾切れとフライヤーユニットの飛行限界を待つ耐久作戦か。だがいつまで避けきれるかな? その傘さえ破壊してしまえばガンランスで蜂の巣だぞ。フォス少尉、ボルフ少尉、銃撃でやつらを追い込め! 私がそこに爆弾を投下する!」
「「了解」」
―― ズガガガガガガガ! ダダダダダダダダ! ――
ヴェロニカとクリームヒルトがジャクリーンとシェリルに銃撃を浴びせ、ラモーナの近くへと追い込んでいく。
彼女たちも
「くっ……こんなところで負けられない……!」
「クリスに会うのは……お婆ちゃんになってからよ!」
ジャクリーンとシェリルも懸命に銃弾を撃ち返す。
ガンブレラの強みは完全な防御姿勢をとったまま攻撃を行える点だ。銃の撃ち合いだけならまだ優位は連合軍側にある。
「ええい、ちょこまかと
「くそっ! フラフラと
両軍の戦いはなかなか決着がつかないように見えたが、戦況は徐々にゲルマニア軍が有利になっていた。無数の爆弾が投下されたせいで地面が穴だらけになり、ラモーナたちはじりじりと逃げ場を奪われていったのだ。長期戦になれば連合軍側が有利のはずだったが、もはやこれ以上逃げ回るのは難しい状況だ。
「フフ……終わりだな。残りの爆弾を全て投下してあの世に送ってやる! いくぞ二人とも!」
「「了解!」」
エルネスティーネたちがとどめを刺さんと空中で旋回する。しかしそのとき、彼女たちの目にとんでもない光景が飛び込んできた。
「ウーデット大尉! あ、あれを!」
「どうしたボルフ少尉?」
「し、城から……城から煙が上がっています!」
「なんだと!?」
エルネスティーネが機体をそちらに向けると、クリームヒルトの言ったとおりクリンバッハ城から黒煙が上がっていた。夕陽を浴びて真っ赤に染まった城はここからだと元々燃えているようにも見える。だが、この煙は明らかに火の手が上がっていることを示すものだ。
あまりにも意外な光景に、エルネスティーネたちは一瞬我を忘れて固まってしまった。飛行しているので機体は動き続けているのだが、思考が完全に停止してしまったのだ。
「今だ! 銃身が焼け
「「はいっ!」」
待ちに待ち、耐えに耐えてようやく訪れた勝機、ラモーナはその一瞬を逃がさない。三機のAMはガンブレラを高く掲げ、上空にいるエルネスティーネたちに向かって一斉攻撃を仕掛けた。
―― バギャギャギャギャギャギャギャギャギャン! ――
「きゃぁっ!」
「うぁっ!」
「ぬうっ!」
三機のAMに銃弾が命中する。エルネスティーネは正面を向いていたのでガンランスで銃弾をある程度逸らせたが、ヴェロニカとクリームヒルトは背中側――フライヤーユニットに銃弾を浴びてしまった。
フライヤーユニットの中心部であるタービンは表面に穴が開いたぐらいでは壊れないが、翼はそうはいかない。たった数箇所の穴が開いただけで空力的なバランスが崩れるし、なにより重要な骨組みが傷つけば風圧や機体の重さに翼が耐えられなくなる。そして――
―― みり………みし…………みしり……………バキャン! ――
―― ………ぱきっ…………ぴきっ………………めしゃっ! ――
「う、うわぁぁぁーーーーっ!?」
「そ、そんな……馬鹿なぁぁーーっ!」
穴の開いた部分から
―― ゴワッシャァァン!!! ――
二機のAMは地面に叩きつけられ、手足がもげてバラバラになってしまった。今の落ち方では、パイロット二人は確実に生きてはいまい。
これこそが空中戦の恐ろしさである。かつての戦闘機がそうであったように、空中での被弾は地上への落下――すなわち死に直結するのだ。
「フォス少尉! ボルフ少尉!」
クリンバッハ城の異変に気を取られた一瞬の隙に、エルネスティーネは二人の部下を一度に失ってしまった。状況は最悪だ。戦力的に一対三になってしまっただけではなく、帰るべき城にも変事が起こっている。しかもここを離れてすぐに城に戻るべきか、それともクルプルにいるマルグリットたちと合流するべきか、それを考える余裕もないほど敵の攻撃は続いている。彼女の進退はまさに
「おのれぇぇぇ!!!」
エルネスティーネは破れかぶれになり、腰のケースに残った爆弾をありったけばら
―― バギャウン! ――
ラモーナが放った一発の銃弾が、今まさに開こうとした爆弾のケースを撃ち抜いた。
「な――」
―― ドゴァァァン!!! ――
ケース内の爆弾が誘爆し、軽量化されたアルバトロスD.IIが
「やった! やりましたよ大尉!」
「うむ」
「こちらから城を攻めることはできませんでしたが、あの煙を見る限り、西側の部隊がやってくれたようですね」
「それについては残念だったな。だが、敵の副隊長とリヒトホーフェンの両腕をもぎ取ったのだ。十分すぎる戦果だろう」
「そうですね」
「よし、我々も城に向かうぞ。道は少々荒らされたが、城が攻撃されているならもう邪魔する者もあるまい」
「「了解!」」
こうして、ヴァイセンブルクの戦いは連合軍の完全勝利で幕を閉じた。
これでクリンバッハ城は東西から
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます