第17話 悪夢からの目覚め
17.悪夢からの目覚め
アーサリンが目を覚ましたのは夜の七時。基地に帰還してから半日以上も経ってからだった。
目を開くと、ランプの灯りに照らされた景色がぼんやりと目に入ってくる。昨日自分のものになったばかりの部屋の天井だ。まだ意識のはっきりしないアーサリンはおかしな夢から覚めたばかりのときと同じように、まず自分の置かれた状況を思い出そうとした。
最後の記憶はルネのAMに抱えられて基地に帰還したところだ。その後自分はどうなった? 地面に下ろされ、ルネの肩を借りて宿舎に入ったところまでは覚えているが、その後の記憶がない。
「
不用意にベッドから体を起こそうとしたアーサリンは、首に激しい痛みを感じて呻き声を上げた。
シートベルトをしていたおかげでジョルジーヌほどの重傷ではなかったにせよ、アーサリンの怪我も決して軽くはない。骨こそ折れてはいないものの、全身の打撲に加え、転倒の衝撃で首が軽いむち打ちになっているのだ。
「くぅっ……ぅぅ……
―― がちゃり ――
アーサリンが首の痛みに悶絶していると、部屋の扉が開き、トマサが顔を覗かせた。彼女の容態を心配して来てくれたのだ。
「あ、気がついたんですね。少佐ぁーっ! アーティさんが目を覚ましましたよーっ!」
アーサリンの部屋は二階に上がってすぐの場所である。トマサは階段の手すりから身を乗り出すと、階下にいるルネに向かって大声で叫んだ。
「すぐに少佐が来ますからね!」
そう言うと、トマサは元気に走って行ってしまった。それと入れ違いになるように、階段を上がる足音が聞こえてくる。
「アーティちゃん! 無事でよかったわ……」
部屋に入るなり、ルネは心底ほっとしたような表情で大きな胸を撫で下ろした。
「あなた、宿舎に入るなりすぐに気を失って倒れたのよ。体はともかく頭には傷がなかったのに、なかなか目を覚まさないから心配したわ」
ルネに言われて、アーサリンはようやく自分がどうなったかを思い出した。転倒の衝撃によるダメージはもちろんあったが、敵となってしまった幼馴染との再会によるショックなどもあって、もしかすると自分が思う以上に疲れていたのかもしれない。
自分の置かれた状況を把握したところで、アーサリンは肝心なことを思い出した。
「そ、そうだ! 大尉は、ギヌメール大尉はどうなったんですか!? それにフィルムは?」
「落ち着いてアーティちゃん。ジョルジーヌさんは無事よ」
「は……よ、よかったぁ…………」
アーサリンが腹の底から搾り出すかのような安堵のため息を漏らす。だが、ルネの表情は決して明るいものではなかった。
「ただ……命に別状はないものの、最低でも全治六ヶ月はかかる重傷よ。少なくとも、来年の夏まで復帰は無理ね」
「そ、そんな……」
アーサリンもあからさまに落ち込んだ顔をした。自分の不用意な発言のせいでジョルジーヌに重傷を負わせただけではなく、これからさらに伸ばしたであろう撃破スコアやその他の手柄を立てる機会も奪うことになり、彼女のキャリアにまで傷をつけてしまったのだ。だがルネはそんなアーサリンの肩に手を置くと、優しげな微笑みを浮かべて首を横に振った。
「彼女の怪我はあなたのせいじゃないわ。AMのパイロットであれば誰でも、任務中に撃破されることは覚悟しているものよ。それに、あなたが言ったことは諜報部として正しい判断です。そのおかげで私たちは貴重な情報を得ることができたんですから」
「貴重な情報って……じゃあ、敵の新兵器の写真はちゃんと撮れていたんですね?」
「ええ、フィルムは現像に回して、写真とネガはすでに司令部のほうへ送ったわ。さっき焼き増ししたものをそっぴーちゃんにも見てもらって、これからみんなでその評価を聞くところなんだけど……アーティちゃんも聞く? 起きられるかしら」
「は、はいっ。大丈夫です」
首さえ動かさなければ痛みは走らないし、痛いと分かったうえでなら耐えられる。
アーサリンは慎重に体を起こし、ボタンで前を留めるタイプのシャツを羽織った。これなら首を通さなくていい。そしてズボンを穿いて立ち上がると、手すりに掴まりながら一階へと続く階段を下りていった。
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