【第六章】最終決戦!ドラゴン城の攻防

第59話 激情 -Kazu side-

20●●年12月18日。


メコンリバーサイドロッジのベランダから船着場の監視を始めて3日目の夜。


ナオキと見張りを代わった直後に動きがあった。


「おっ!!」


積荷がブルーシートで覆われたボートから、いかにも怪しげな男たちがパークベン港に上陸してきたのである。


「ナオキ!暗視スコープ持ってきて!」


ベッドに潜り込んだばかりの相棒が跳ね起きた。


「アイツ・・・。カズさん!アイツっすよ!!」


俺たちは手下に指示を飛ばすをハッキリと憶えていた。


忘れるはずもない。


裏社会に生きるヤツが纏う独特の凄み。


シャッターボタンに乗る人差し指が小刻みに震えだす。


「降りてきました!子供たちです!2、3、4。全部で4人っすね。龍の刺青までは確認できません。でも・・・、あっ、男が何かを手渡しました。今、ボート側の人間が札束を数えてます。スゲーっすよ!間違いないっす。人身売買の現場っす!」


「OK!あんまり鮮明じゃないけど言い逃れできないレベルの撮影はできたよ。とりあえず戻ってうっちーさんに相談・・・」


そう言いながら、俺がデジカメに捉えた画像を確かめていると、あろうことかナオキが慌てて身支度にかかった。


「どうした?何やってんの?」


「何って!決まってるじゃないっすか!救けに行くんすよ!」


「・・・・・・」


そうきたか・・・)


ナオキとアヤカ。


激情型の二人が、連れ去られる子供たちを前に放っておけるはずがない。

だからこそ、俺は単身パークベンに乗り込もうと決めていたのだ。


最も恐れた事態。もはや、この熱血漢を説得するのは不可能であろう。


「救けるって言ってもさ。アイツらは拳銃だって持ってるよ」


「見くびらないで下さい!俺だって、ただ闇雲に突っ込んで子供たちを奪い返そうだなんて思ってないっすよ」


「策があるってこと?」


「取引するんです。あんな、どうしようもないクズどもだって一人の人間です。本心では人身売買なんてやりたくね~!って願ってるはずっすよ。ってヤツっすか?まぁ、この前提が崩れちゃえば終わりなんすけど・・・。明日の朝には二人揃ってメコン川の藻屑かもしれないっすね。アッハハハハ」


「・・・・・・」


「とにかく急ぎましょう!細かい話はまた後で」


どうポジティブに考えようにも、悪の権化であるチャイニーズマフィアたちに「性善説」などという概念が通用するはずはない。


だが、なぜだろう?


俺は相棒の純真無垢な気持ちに掛けてみるのも悪くないと思い始めていた。


その結果が「死」であったなら甘んじて受け入れよう。


どうやら俺は、この場に連れてきてはならない危険人物をもう一人忘れていたようだ。


おっとり顔の裏に熱くたぎる狂気を隠し持つ男を。


死の匂いに快楽を覚え始めた「己」の存在を。


いつの間にやら指先の震えはピタリと止まっている。いや、それどころか、ボンベイサファイアと上物のマリファナを一気にキメた後のように気分がいい。


最高に「ハイ!」ってやつだ。


(やってやろうじゃねーか!コイツと死ねるなら本望だ!!)


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