第51話 電子麻薬 -Kazu side-
「こっち来る前に大阪本社で研修を受けてきたんすけどね。まぁ~客も弁護士も見事にクズばっかりでした。かかってくる相談内容は、パチンコ依存症でサラ金からツマミまくったケースが5,6割ってとこですか。それに群がるハゲタカ弁護団って構図です。こんな腐りきった現状を見ても政府はパチンコをギャンブルとは認めないんすよ。あくまで出玉と景品を交換する遊戯って位置づけっす。自業自得って言っちゃそれまでですが、パチンコがどんだけの不幸を生んでると思ってるんすかねぇ・・・」
「衆院で可決されたカジノ法案(IR推進法案)について、野党はさんざんギャンブル依存症の問題を騒ぎ立てたけどさ。実際は身近にあるパチンコが一番ヤバイんだよね・・・」
「原理はシャブと同じっすよ。詰まるところ勝ち負けなんかよりもセブンが揃う快感が癖になっちゃうみたいっす。フィーバー中に分泌されるベータ・エンドルフィンはモルヒネより強いって聞きましたよ。これはもはや注射針を使わない電子麻薬っすね」
現在、パチンコ業界は景気低迷の煽りを受けて右肩下がりを続けている。しかし、レジャー白書2016によると、その経済規模は未だに23兆2290億円にものぼるそうだ。コンビニ業界全体の市場規模が約6兆8000億円であることを考えれば、23兆円という数字がどれだけ異常なものかお分かりいただけるはずだ。
「ところでカズさん。俺に内緒で面白そうな計画を立ててませんか?アヤカ姐さんがスカイプでブチギレてましたよ」
「面白そうな計画」とは、おそらく来週から一人で向かう予定のパークベンの件であろう。
L&M作戦史上、最も危険が予想される場所に彼女を同行させるつもりはない。ましてや今回は売春宿への潜入調査を決行する可能性があるため、どう見てもアヤカは不自然すぎる。
「カズさん・・・。姐さんは気付いてますよ。わざと12月の繁忙期を狙ってパークベン行きを決めたんだろうって。今年は修学旅行のアテンドでてんてこ舞いらしいっす」
「・・・・・」
「出発は来週っすよね。俺も連れてってくださいよ!」
「えっ!?それはマズイでしょ。ナオキはこれから大切な仕事が山積みなのに・・・。心配ないって。だいじょう・・・」
そう言いかけた俺のセリフにナオキが大声でかぶせた。
「カズさん!!」
「・・・・」
「俺は羨ましかったんすよ!」
「・・・」
「二人からL&M作戦の武勇伝を聞かされるたびにイラついてました。俺は何やってんだ!って・・・。日本は炭酸の抜けたコーラみたいに甘っちょろかったっす。すぐにでも駆けつけたい衝動を抑えるの大変だったんすから。やっとバンコクに戻って来れたんです。痺れるようなスリルを分けてくださいよ!」
「ナオキ・・・」
「てか、もうそのつもりでスケジュール組んじゃったんすけどね。部下に信頼できる男がいるんで、接待なんてダルい仕事はそいつに任せておけばOKっす。あっははは」
一昔前なら、それでも「ひとりで大丈夫!」と突っ張ったはずだ。
だが今、俺はアヤカとの遠い未来を夢見ていた。
プロポーズしよう。そして、さくら苑の子供たちと幸せな家庭を築こうと・・・。
ナオキがついてきてくれるなら・・・。こいつ以上に頼もしい助っ人はいない。
「よっしゃ~!それでは入隊の儀式を執り行う!覚悟はいいか!!」
「イエッサー!」
「お前はアジアの子供たちのために死ねるか!」
「イエッサー!!」
固い決意を胸に俺たちはガツンと拳を合わせた。
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