第49話 ハンサムな泣き顔 -Kazu side-
「カズさん、アレ持ってます?」
「アレ?あぁ・・。ナオキはずっと日本だったもんなぁ。あるよ!今から俺の部屋行く?」
「もちろんっす!明日はコンサルとの顔合わせが一件入ってるだけなんでオールでも平気っすよ!」
「実はさぁ。そうくると思って、いつもより若干いいネタを仕入れてあるんだよねぇ」
「さすがアニキ!大好きっす!!一生ついていきま~す!」
ご自慢のウーファーを響かせながら疾走するトゥクトゥクは、チャオプラヤ川を渡ってUターンを決めるとアパートの前でアクセルを戻した。
立ち寄った1階のコンビニでは、いつもの無愛想な店員が酔っぱらいの俺たちに面倒くさそうな顔を向けてくる。
「アイツ、やる気ねーなぁ。アッハハハハ。バンコクに帰ってきたって実感わきますね。やっぱ俺は、こんくらい緩い感じが肌に合いますわ」
「だよね。日本のサービスは過剰過ぎでしょ。牛丼屋が高級レストラン並みの接客してるんだもん。だからクレーマーが調子に乗るんだっつーの!」
「アハハハ。でも、こっちはそうとばかりも言ってらんないんすよ。今後は嫌ってほど糞うざいモンスタークレーマーをぶっ倒さなきゃならないんすから・・・」
会計を済ませ外のベンチに腰掛けた俺たちは「U Beer」のプルタブを起こした。
※U Beer=シンハー社から新発売のラガービール。
そのシチュエーションが2年前の夜とリンクする。
「人生って、そんなに悪いもんじゃないよな・・・」
思わず漏れた心の声にナオキが無言で乾杯を返してきた。
「カズさん。俺、いつかちゃんと話そうと思ってたんです」
「・・・・・」
「前科者だった俺を受け入れてくれて、本当にありがとうございました。カズさんに出会えて良かったっす。ホント・・、人生って、す、捨てたもんじゃ・・・ないっす・ね・・・」
人目もはばからずに涙をこぼす男は泣き顔ですらハンサムだった。
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