第47話 龍脈 -Kazu side-

 暗い湖からボートが戻ったのは夜中の2時を過ぎてからだ。

二人の沈んだ表情を見れば、話の内容がただのガールズトークではなかったことは容易に想像がつく。


「カズさん・・・」


俺は、何か言おうとするアヤカを制し、冷え切った身体にそっと上着をかけた。


     ※     ※


翌朝。

俺たちは、気詰まりなムードのまま別れの挨拶を交わすとトンレサップ湖を去った。


肩を抱くアヤカは地獄の底を見てきた少女のようである。


太陽が高くなるにつれて気温はグングンと上昇し、すれ違う荷馬車がラテライトを巻上げた。


だが、彼女の心と身体が温まるまでにはもう少し時が必要だろう。


     ※     ※


 感情のスイッチを切っていたアヤカが、「救いようのないストーリー」を語り始めたのは1週間後だ。


メコン・デルタ。プノンペン。トンレサップ・・・。


俺は悲壮感に苛まれながらも、これまで歩んだをインドシナ半島の地図に重ねてみた。


(?!!)


「あれっ!!」


するとそこで、1つの興味深い特徴にぶち当たったのである。


(ちょっと待てよ・・・。もしや・・・。くっきりと浮かび上がったじゃねーか!)


ドラゴンフラッグの人身売買ルートはメコン川の流れと一致する!


「龍の道だ!」


途中、激流に阻まれる区間はある。

だが、その大部分はボートで遡上が可能なはずだ。


そう。まで・・・。


恐怖と歓喜とを併せ持つ、奇妙な武者震いが起こった。


二年前・・・。


相棒と二人。

怪しい客引き。

迷い込んだ洋館。

中国式の装飾。

スキンヘッドの男。


ステージに立たされる子供たち・・・。


忘れかけた記憶がはっきりと呼び覚まされる。


俺はあの夜、ナオキと一緒に怪し気な龍の刺青を目撃していたのである。


ベトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー、中国を結ぶ国際河川はマフィアにとって絶好の抜け道だ。


おそらくパークベンが闇の子供たちの終着駅。


そして、更なる地獄が始まる場所・・・。


「こうしちゃいられない・・・」

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