第13話 Daydream -Ayaka side-

 私の胸の中にはスヤスヤと寝息を立てるカズさんの温もりがある。

先日のキノコは予想以上に強かったようで、ファイヤーダンスの音に誘われ、別の空間に飛ばされてからの記憶が失われている。


消えた時間の謎が知りたくて、私は必死で何かを思い出そうとしたが、考えれば考えるほどわからなくなった。


「あっ・・・」


ふと、寝返りを打つカズさんの掌から白砂がこぼれる。


「そうだ。私は彼の中から世界を見ていた・・・」


島にいるのは一人旅をする彼。


全ては幻影。何という道化。


いや、この旅だけではない。

バンコクから始まった新しい日々でさえ全てが夢現の世界。


私は、何年も前にあの場所で命尽きていたのだ。

 

     ※     ※


 やせ細った男の前でナイフを握る女は、彼が眠る間に「事」を終えなくてはならない。


狂気の風が胸を貫く。


どこを刺せば人は楽に逝けるの?


苦しまずに確実に。


「怖くないよ。すぐに追いかけるから・・・」


蠱惑こわくの妄想からハッと我に返る。


(なにやってるの。私・・・)


夢の中で夢を見ていた。


全てが幻影であるのなら何度だって映し出せるはずだ。


魂の映写機に願いを込めて。


     ※     ※


「アヤカ・・・」


「ん?」


「・・・・・・」


「どうしたの?」


「アヤカ・・」


「?!」


「アヤカ。帰ろうか。始まりのバンコクヘ!」


     ※     ※


 マジックマッシュルームの幻覚作用は平均で5.6時間続くと言われるが、その日の摂取量や体調によって大きくが生じるそうだ。


境界線はグラデーション。曖昧なままでいい・・・。


これより西方、十万億の仏土を過ぎて世界あり。

名を極楽という。

その土には阿弥陀仏がおられ法を説かれている。

舎利佛よ、なぜ彼の地を極楽と呼ぶか。

そこに住む人々に苦悩はなく、ただ諸所の楽を受けているからである。

              『仏説阿弥陀経』より


 抜け落ちた時間の真相は、カズさんと共に夢見た極楽浄土への旅だったのだ。


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