第11話いらっしゃいませました。

「た、たたた、大変ですよ魔王様!」

「………はぁ」

「何をワイングラス傾けながらため息なんて突いてるんですか。勤務中にお酒なんて!」

「良いから、お前も一杯飲め。そして落ち着け」

「はぁ、ありがとうございます。………ぶはっ! 何ですかこれは!?」

「炭酸葡萄飲料だ。メーカーは伏せるが」

「スパークリング!」

「勤務中に酒など飲むか馬鹿者。それで、落ち着いたか?」

「炭酸を一気飲みしたダメージ以外なら、落ち着きましたけど」

「それで良い。………最近我輩は気付いたのだ、お前の言う『大変』は、思ったより大変じゃないと」

「確かに何だか、大した事じゃないような気がしてきました。私は何故あんなに慌てていたのでしょう、お恥ずかしい」

「ふ、そういうことだ。

 聞いた時点の興奮でそのまま行動すると大体が失敗する。落ち着いて、軽く一呼吸入れて、一歩引いてみること。そうすれば、仕事の失敗など8割は無くなるだろう。

 さあ、それでは、落ち着いて報告してみろ」

「勇者が城門前に来てます」

「すげえ大変だった!!」


 ………………………


 ………………


 ………


「さて、この世全ての邪悪の源たる我が居城に何をしに来たのだ勇者よ。貴様一人ノコノコと現れおって、余程命が惜しくないようだな?」

「………魔王様、何を格好つけて居るのですか?」

「………雰囲気というものがあるだろ。

 恐らくは我輩の生存を知り、止めを刺そうというのだろう。ふ、ヤル気満々殴り込んできた勇者に、舐められては困る」

「………殴り込んできた、のでしょうか? なんと言うか、その、それにしてはテンションが低いと言うか………」

「………確かにな。一人だし」

「う、うぅ………」

「………突然膝をつきましたね」

「………ちょっと泣いてないかアイツ?」

「………魔王様、事情を聞いてください」

「えぇぇぇ、我輩が? やだよ、お前聞けよ」

「こういう厄介なお客様には、魔王様。上司が対応するのが筋というものです」

「都合の悪いときばかり我輩を上司にしおって………あんな半泣きの男に何を言えというのだ。

 そうだ、サキュバスを呼べ。なあに年頃の男の悩みなど、半裸の美女が現れれば大体吹き飛ぶものだ」

「魔王様」

「解ったよ! そんなに睨むなよ………やれば良いのだろうやれば。

 あー、勇者? その、どうしたのだ、いったい。何か悩みでもあるのか?」

「………」

「ほら! ジュースがあるぞジュースが! そうだ闇巫女よ、貰い物のクッキーがあったろ、あれを持ってきてやれ!」

「すみません、この前女子会で食べちゃいました」

「全部? まだ我輩も食べてなかったのだぞ!?」

「別に良いかなって………ほら、魔王様って普段チョコレートとか貰っても食べないじゃないですか。甘いもの嫌いなのかなって」

「クッキーは好きなんだよ!」

「そうなんですね、じゃあ、今度はチョコレートにしてもらうように伝えます」

「鬼かお前は!」

「そんなことより魔王様。勇者勇者」

「くっ………覚えてろよお前………。

 あー、勇者。すまんが菓子はない。それで、今日は何用なのだ。我輩との決着とかそういう話なら、もう良いから。向こう100年はなにもしないから安心して………」

「………いや、そんな話じゃないんだ、魔王。………魔王だよな?」

「勿論そうだが」

「何だか、凛々しくなってないか? その、前は竜の骸骨が衣装着てる感じだったけど………そっちの、闇巫女さん?も服装変わってるし………」

「その話は長いから止めよう。後でカクカクシカジカで終わらせるから」

「そうか………まあ、良い。倒したはずのお前が生きていることも、どうでも良いんだ。………いや、どちらかと言うと、生きててくれて良かったと言うか………」

「………勇者×魔王キタコレ?(はぁはぁ)」

「闇巫女よ、黙れ。

 ………どういうことだ勇者よ。貴様は、我輩を倒して世界を救うことが役目のはずだぞ?」

「………今回は、その………

「………は?」

「俺は………お前のことを、家族や村の皆の仇と信じてきたが………。憎んで、嫌悪して憎悪してきたが………すまない! 全部、母さんのドッキリだったんだ!」

「………………は?」


 ………………………


 ………………


 ………


「………詰まり。貴様の母親が、貴様を騙して我輩を憎むよう仕向けた、と」

「あぁ」

「………全滅騒ぎがまさかドメスティックなバイオレンスとは………」

「かなりガッカリですね………」

「………謝って済む話ではないと、解ってる。謂われもない事で、俺は魔族を………」

「いや、謂われもない訳じゃないけどな? 魔族は世界を脅かしてるし………」

「恥を忍んで言う………訴えるのだけは勘弁してくれ………!」

「訴えるわけないだろ………」

「勇者が魔族を退治して、訴えられたらたまったもんじゃ無いですよね」

「許して、くれるのか………? こんな、なにも考えずおだてられるままに暴力を振るった馬鹿な俺のことを………?」

「どうしよう、闇巫女よ。こいつめんどくさい」

「今更気付いたのですか魔王様。私は一目見て気付いてましたよ」

「だから我輩に押し付けたな………」

「この恩を………そして過ちを………どう償えば良いんだ………」

「流石は勇者。思い詰めると一直線ですね」

「出来れば帰ってくれないかな………全て忘れて」

「良し………決めたぞ魔王!」

「考え直せ。内容聞いてないけどそれ、絶対に間違ってるから」

「魔王、いや魔王! 俺をここで働かせてくれ!!」

帰れぇぇぇっギルティサンダー!!」


 ………………………


 ………………


 ………


「気絶した勇者は山猫宅配便に任せましたが」

「良し、奴の故郷の村へ送り返してやれ。………着払いでな?」

「えぇ。魔王様の仰る通りに着払いで送りました。

「………おい、何だその不自然に強調するような口調は。伏線か? 回収はちゃんと出来るのか?」

「いえいえ、ただ、私は魔王様の指示に従ったまでだということをきちんと御理解頂きたいなと思ったまでですよ」

「………………………おい、まさかだが」

勇者の母親守銭奴の鬼に受け取り拒否されました」

「ちっくしょおおおおおっ!!」

「あと、これ。手紙が付いてきました、『雇うなら給料はここへ振り込んでね』とのことです。

 あ、凄い。インクで書いてある顔文字が動いた」

「母親の名義じゃないか! 魔王軍ウチは直接払いです!」

「あと、『雇わないなら、どういうわけか魔王生存説が世界中にばら蒔かれるかもしれないわねぇ』と」

「悪魔かこいつは………」

「あと、こちらもどうぞ」

「ん? こっちはなんだ、やたらと分厚いな、本くらいある」

「父親からの謝罪の手紙です」

「気の毒に………」

「どうしましょうか魔王様」

「………面接の用意をしてやれ………」

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