第10話イベントはチャンス
「間もなくバレンタインデーでやすね、魔王様」
「………バレンタインデー? ウィルよ、何だそれは。我輩は初耳だが………闇巫女よ、お前は知っているか?」
「うーん、私も知りませんね。
何かの記念日ですか?」
「ふん、人間の記念日など2つに1つだろうよ。誰か死んだか、或いは殺したかだ」
「中々の御慧眼でやすね、魔王様。その通り、所謂聖人の記念日でやす、元々は」
「元々は?」
「ま、時代の変遷で内容は変わるものでやすよ」
「なるほどな」
「あら、魔王様、案外素直に受け入れますね。そういうのには頭が固い方かと思ってましたけど」
「まぁな。
言葉や慣習、文化というものは時間の流れと共に変わっていって当然のものだ。寧ろ、名前だけでも伝わっていれば成功だろうさ。
そんなのは、今生きている奴等が勝手に考えて使えば良い。何せ使うのは奴等なのだからな」
「魔王様が寛容で良かったでやすよ、では、これをお願いしやす。よいしょっと」
「む? ………何だこれは」
「カカオです」
「でかくない?! ミニブタくらいあるけど?!」
「微妙に解りづらい喩えですね………」
「いやあ、やっぱりこのくらいじゃないとね。イベントと言えば、解りやすさが大切でやすから」
「………イベント?」
「はい。名付けて………
『叩いて倒して集めて交換!
愛のカカオ収集大作戦』!………です!」
「ダサっ!」
………………………
………………
………
「バレンタインデーは今や一大マネーチャンス! 相当のムーブメントなんでやすよ」
「どういう事だ? ………いや、この人の頭くらいあるカカオの縫い包みが鍵だとだというのなら、大体想像は付くが………。
チョコレイトか」
「発音が古いですねぇ………」
「何せ世界一古い方でやすから………」
「聞こえてるぞお前ら、馬鹿にしてるのか?」
「まぁまぁ、魔王様。しかし、そこに気付くとは流石は魔王様でやすね。
その通り、チョコレート、あいや、チョコレイトを贈る日なんですよ」
「馬鹿にしてるのか」
「チョコレートを贈るとは、どういうことですか?」
「闇巫女さん闇巫女さん」
「あ、すみません魔王様、チョコレイトでしたね」
「………………………」
「イタイイタイイタイ! 魔王様、アイアンクローは止めてください! 死ぬ、死にますから!」
「大丈夫だ、頭が潰れたとしても、温かければ蘇生してやる」
「生命を雑に扱わないで下さい!」
「じ、実はこのイベントは、やりようによっちゃあかなり盛り上がるんでやすよ!」
「良し………その内容次第でお前の処遇は考えてやる」
………………………
………………
………
「えー、魔王様、魔物たちにはこいつを持っていてもらいやす。で、倒されたらこのカカオぐるみを落としてもらいやす」
「ふむ」
「で、それを集めて、都の有名店のチョコレートと交換するというわけですね」
「そもそもバレンタインデーは、日頃の感謝や或いは愛情を伝えるために、チョコレートを渡す日なんでやすよ。で、そのチョコレートを、ちょっとした努力で良いものにするってわけでさぁ」
「そんなちょっとした買い物気分で魔物退治されても困るのだが………」
「チョコだけにちょこっとの努力ですね、ぷぷぷ」
「………………………(ゴン)」
「無言で殴らないで下さい………」
「しかし、話を聞くに女子供のイベントという感じだが。そんな連中に魔物退治が務まるか?」
「そこで、こいつでさ」
「………なんだこれは」
「わあ、可愛いドレスですね!」
「このイベント特別衣装を手に入れてもらって、着てると特攻作用があるというわけでさぁ」
「ふうん。何だか、素材は高級そうだしデザインも良いが………ただのドレスにしか見えないな。どんな特攻作用があるのだ?」
「え、いえ? 無いですけど?」
「は?」
「これはただの服でやすよ。有名な職人に頼みはしやしたが、特別な魔力はありやせんよ」
「………とすると、まさか………」
「はい。余計に痛がって下さい」
「ヤラセじゃないか」
「これとこれは、2倍。このミントグリーンのは5倍、ピンクフリルのと黒地にルージュのドレスは10倍の設定でお願いしやすね」
「10倍痛がるって何だよ………」
「大丈夫、そういっぱいは来ませんから。
このドレスは、1回150ゴールドのくじ引きで当たりを引き当てないと手に入りやせんからね」
「………おい、それ」
「確率的には、0.2パーセントくらいでやすかね。
10回だと限定カラーリングの武器防具が1つ確定で出ますね。
で、始まって3時間の間は10回毎に1回無料券がもらえやす。特攻作用があるわけだし、早く引けば引いただけお得ってわけでやすね!」
「怒られる奴だぞそれは」
「あはは、嫌でやすよ魔王様。納得した人だけが金を払うんでやすから、多少酷い確率にしても文句は出ませんよ」
「お前それは酷いぞ………」
「ふふふ、新たなイベントは何よりのビジネスチャンス! 趣味に金を掛ける人間は多いでやすし、そういう輩は糸目を付けないもんでやすからね!」
「お前が酷いな」
「協力しても良いですが、セイロンティさん。代わりに私にも1着下さい」
「なんで」
「特攻作用があるんですよね? ふふ、日頃の恨みを晴らすときです」
「アナログなやつがな? 全部我輩のさじ加減だがな?」
「10倍………ふふ、私の攻撃が、10倍………」
「………うん、まあ、好きにしろ。というか何だろう、我輩も少し態度を考えようかな………」
「じゃあ、協力していただけるということで良いですね?」
「うむ、まあ、良いだろう。これで世界が盛り上がるのなら、我輩たち運営としても悪くはない。協力してやろう」
「お任せください! あっしの名に懸けて、絶対に盛り上げてみせやすよ!」
「ふ………、では、期待しておこう」
「私のドレスもお願いします」
「それは後で良いから」
………………………
………………
………
「………魔王様。その………フリフリドレスを着たムキムキの戦士軍団(男)が、全国各地で魔物狩りを行っているという報告が多数上がっています………」
「どうしてこうなった………」
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