第9話ドッキリ

「………ふう」

「かなり歩きましたね、勇者様。大丈夫ですか?」

「ありがとう、アンナマリー」

「アタシは疲れたわー。ねぇねぇアンナマリー、おぶってよ!」

「お前は翔んでるだろ、クラリス。何せ妖精なんだから!」

「翔ぶのだって体力使うのよー。そ・れ・と・も………勇者様におんぶしてもらおうかなー?」

「わっ! ち、ちょっとクラリス………当たって………」

「こ、こら! 勇者様から離れろ馬鹿!」

「何よー、良いじゃないこのくらい。うふふ、未来の妖精王だんなさまなんだから。

 それとも、ふふ、妬いてるのー?」

「ば、ばばばばばかな事を! わ、私はその、ただ勇者様がお疲れだろうに、そのような事をしては迷惑だと………」

「えー、勇者様、アタシ、迷惑?」

「そんなことはないよ」

「ほらぁ」

「勇者様はお優しいのだ! はぁ………、リーザリーザ、なんとか言ってくれ。

 ………リーザリーザ?」

「………ぁ、何か?」

「何か? じゃない。またぼんやりして………油断が過ぎるぞ。いくら魔王を倒し、軍としての魔族が撤退したからと言っても、はぐれものは何処にでもいるものだ。特にこの辺りは人里離れた山奥で………」

「ちょっとアンナマリー! 勇者様の故郷に失礼よ」

「あ、す、すみません勇者様! そのようなつもりでは………」

「くすくす」

「くっ………」

「良いんだよ、本当の事だしね。………それに、あの村はもう………」

「勇者様………」

「でも、仇は取りましたよ勇者様………。女子供も含めた村人、そして、勇者様の御両親を殺したという悪魔のような魔王を、勇者様は見事退治なされました。神も御覧あれ、きっと天界では、皆様喜んでおれます」

「リーザリーザ………、大事な処で噛んだな………」

「えぇ………あの子のこういうところは、幾らレベルが上がっても治らなかったわねー………」

「………皆、ありがとう。皆のお陰で、やっと良い報告が出来るよ。

 さあ、村まで………いや、村の跡地まではもう少しだ! 昼までには着ける筈だよ」


………………………


………………


………


「ここが、俺の生まれ育った村だったところ………あれ?」

「あら?」

「む?」

「………?」

「………村が………」

「ありますね」

「あるわー?」

「ありましゅのです」

「どう、なってるんだ………?」

「もしかして、新しく人々が住み始めたのでは?」

「いいえー、それにしては、家々が古いわねー。………それに、この気配………」

「迷える魂が………居なくなっている………?」

「そんな………馬鹿な」

「勇者様?」

「間違いない、あれは、!」


………………………


………………


………


「………やっぱり間違いない。ここは俺の家だ」

「幻覚かしらー? 何か魔法の気配があるけれど」

「いいえ。私は神の導きで幻覚は効きません。私にも、古いボロボロの一軒家が見えておりゃます」

「失礼だぞ」

「しっ! ………中に誰かいる………誰だ!」

「………私よ」

「お前だったのか」

「ボケてる場合ではありません勇者様。見るからに魔女みたいな服装した女が出てきましたよ………?」

「ボンキュッボンです………」

「………ん、あれ?! そ、そんな!」

「勇者様? お知り合いですか?」

?!」

「「「えぇっ!?」」」

「そんな、ちょっと若すぎませんかっ!?」

「どう見ても、二十代にしか見えないよー?!」

「あらあら、うふふ、嬉しいわね?」

「そして、俺だ」

「父さんっ!?」

「「「ハゲだーーーーっ!」」」

「こっちは見た目通りねー」

「ゲーハー」

「ッグハッ!」

「父さーん!!」


………………………


………………


………


「実は、勇者。貴方を後腐れ無く旅立たせ、魔王に対して憎しみを持ち、ちゃんと倒すように一芝居打ったのよ」

「そ、そんな………でも、皆確かに死んでいた筈だ!」

「蘇生魔法よ」

「そんな高位の魔法を使えるなんて………」

「母さんは、昔は大魔法使いと呼ばれていたことを忘れたの?」

「で、でも、家も燃えていたじゃないか!」

「建築魔法よ」

「何ですかそれわ………」

「建築魔法ですって!?」

「まさか、知っているのクラリス!?」

「建築魔法………遥か昔、呪文を唱えるだけで材料が組み上がり、家を立てるという便利すぎる禁呪があったと聞いたことがあるわ………」

「材料が要るんだ………」

「けれど、あれは扱いが難しい筈よ! 設計魔法と整地魔法が必要になるはず………」

「便利かなそれ?」

「ふふ、その程度、村の建築士に頼めば造作もないわ。ジョバーンが一晩で書いてくれました」

「建てるのも頼めば良かったのに」

「まさか………そんな裏技があるなんて!」

「寧ろ………正攻法じやないですか………?」

「ふふ、次期妖精女王にしては、頭が堅いわねクラリスちゃん?」

「くっ………」

「ま、待ってくれ! 俺は、皆の事が忘れられなくて、時々見に来てた筈だ! その時には、村は焼け野原だったよ?!」

「亡くなられた、村人の、魂が、漂ってますした………」

「その時は、いちいち死んでもらっていたわ」

「悪魔っ!?」

「昔から鬼嫁だったよ」

「良いじゃない。甦らせる事が出来るんだし」

「道理で魂に未練があったと思いました………」

「お陰で、村人たちも随分謙虚になったわ。蘇生料も儲かったしね」

「金まで取ったの!?」

「昔から、鬼嫁だったよ」

「そうだわ、勇者、立派な我が息子。

 王様から、? それに、道中稼いだゴールドも」

「っ!? 母さん、まさか………」

「うふふ、息子が立派に育ってくれて、嬉しいわぁ? それに、妖精女王に剣帝の娘、エルフの巫女まで。うふふふふ、御実家から、幾ら嫁入り支度金を踏んだくれるかしらぁ?」

「鬼ですかこの人っ!?」

「昔から、鬼嫁、だったんだよ」

「………母さん。俺は、村の皆を殺された恨みで魔王に立ち向かった。仲間の助けもあったけど、力の根底にあったのは間違いなくだ。

 ………それが、嘘偽りだったなんて。俺は、俺は………!」

「シュコー、シュコー、ようやく、真の敵に気付いたようだな我が息子マイサンよ………」

「父さん?! 何でそんなエコーを掛けて………」

「母さんは最早母さんではない………あれはもう、金の悪魔。ひたすらに金を溜め込み浪費する沼の主に過ぎん………。

 楽にしてやるのだ、息子よ………。母さんの為に、それに何より………我が小遣いアップの為に………!!」

「父上殿も金の亡者じゃないですか!」

「ふ、掛かってきなさい愚かな人間たち」

「立ち位置が最早人外です………」

「やめるんだ母さん………俺たちは魔王を倒した身、レベルは90を越えた。幾ら、母さんが強くとも………」

「ふふふ、あはははは!!」

「な、何がおかしいんだ!」

「私のレベルは、

「最早人間じゃないっ!?」

「さあ、絶望を教えてあげましょう………!!」

「「「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」」」


………………………


………………


………


「………魔王様、勇者たちが全滅しました」

「何で?!」

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