第40話「監視者への逆コンタクト」
だがここで、大きな問題にぶち当たる。
まず第一に、これだけ誘導が多いと、さすがに、不審に思う者もいる。
スレッドで、誘導先が、怪しいサイトではないと別の閲覧者に成りすましてカキコミする。
また、それが非常に「有益」なサイトである、といくらフォローをいれても、閲覧者の出足は鈍る。
だから、強烈な誘導が必要になる。
ある程度、不審に思われても、それでもリンク先に飛ばざるを得ないような、惹句が必要だ。
また、このことと少し矛盾するが――僕はXaiの足跡画面を見ながら爪を噛む――不審者が、多すぎる。
Xaiにやってきた訪問者は、捨てアカウントのユーザーが、予想外に多すぎるのだ。
だから、先に述べた方法だけでは、IPの範囲を限定できない。
スレッドに浮遊している情報を、個人と紐付けるのは、不可能に近い。
僕は、飲みかけのコーラの缶を、机に叩きつけた。それから肘をついてあたまを掻く。
現実は机上の空論どおりにはいかない。
だとすれば、どうするか。
僕は、リラックスするために、ゆっくりと呼吸を吐き出しながら、暗闇に中を彷徨わせる。
ちょっと考えてから、まずノブナガにメールをして、
次に、巨大匿名掲示板『ゲルニカ』に画面を切り替える(フリップ)。
『project禁猟区』『スタンガン天使ちゃん』のスレッドを開いたところで、即レスでメールを受信。
『はりはりして』
ノブナガは、この手の内容に関する返信、というか反応が早すぎる。
脊椎反射レベルで返信しているのではないかとすら思う。
脊髄反射レベルで盗撮するように。
だがそうした習性も、今は頼もしく思える。
了解。
そうメールで返信して、
受信された添付ファイルを解凍する。
完全に、ファイルが解凍されるのを待ちながら、画面をデュアルモニタにして、右側にスレッド、左側に受信メールを表示する。
ノブナガからの受信ファイルが出揃うのを待ってから、スレッドに書きこむ。
『スタンガン天使ちゃん、参上^^』
切断。
メール画面には、ノブナガに撮影された、
ユリアの膨大な盗撮写真が並んでいる。
僕は、素顔の晒されたそれを、一つずつ、『project密猟2』のサイトに貼り付けていく。
そして、再び、監視者の見守るであろう両スレッドに、
密猟2の画像リンクつきのメッセージを、書きこんでいく。
『この女が、からだを売っている』
http:// desire.blog/kinnryoukuno-himitsu2.jp/~tennsi-no-hshsgazou01.jpg/】
切断。書きこみ。切断。フリップ。書きこみ……。
忙しなく指を動かしながら、思う。
調査は、いったん、行き詰った。
問題が、生じた。予想外に匿名で意味不明なIPアドレス、ネット上の不審者が多かった。
また、リンク自体も多くなってしまい、誘導に強烈なパワーが必要になった。
だから、どうするか。
スタンガン天使の画像を、ネットで世界中にバラまくのだ。
相手は、情報が暴かれることを、病的におそれている。
スタンガン天使の情報を、しられたくないのだ。
だったら、曝してやればいい。
つまり毒をもって毒を制するのだ。
――敵を、サメに、みたててみよう。
これまでは、獲物が網にかかるのを待っていた。
だが、サメを捉えるにはあまりに網目が大きく、強度も脆い。
だから、獲物が網にかかるのを待つのではなく、自分を餌に仕立てあげる。
ポイントを変更して、網というブロック、つまり面であわせるのではなく、点で――極小範囲で合わせる。
そうやって肩を自傷し、海で血を流して――サメに食われるのを待つ。
懐に爆弾を隠して。
【これが、美少女の素顔です
一回、五万。
写真は、まだまだあります。
随時更新していくので、お楽しみに☆】
そう書きこんで、静止した画面を見る。
動かない。
スレッド画面をリロードすると、案の定、回線がパンクするほどのカキコミで溢れていた。
『うおおおぉぉぉ』『スタンガン天使ちゃんがあああーーー』『やべぇええええええええ』『これはまずい』『通報しました』
即効でレス番の桁が飛んでいく。
凄まじい反響だ。
これで、監視者は、ただ監視しているだけではいられなくなる。
僕にコンタクトを取らざるを得なくなる。
さあ。どうでるか。
僕は画面を見る。
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