第05話「砂糖を投下しながら僕を睨むスタンガン美少女」
「黒シリーズの出現と犯罪の発生率は同期している 」
だから、こんな暴論を振りかざす少女が現れたところで、致し方ない話だった【6】。
世界が狂っていれば、あたまが狂っているヤツがいても不思議ではない。
だから、自然なこととして、対処できた。
「もしもし、110番の方ですか?……ええ、ええ、ちょっとかなりヤバい患者が野に放たれているのを発見したのですが……」
目の前でポチャポチャと砂糖を投下しながらこちらを睨みつける美少女が一匹。
「檻から脱走したようです」
もう片方の手にはスタンガンが握られている。そのスタンガンは明らかに改造したと思しき代物で、電圧部に水晶型の透明なバッテリーが複数個とりつけられ上からコードでぐるぐるに巻かれて黒光りし、異様な存在感を放っている。
「武器をもっています。このままでは、僕ら善良な市民は殺されてしまう」
こんなので撃たれたら、本当に死ぬな。
「だから至急、来てほしい……駅前のラブラドールです……いえ、東高のある方の出口の。そうです、そうです、栄えてる方……ええ、ええ、僕の名前ですか?ノブナガです。尾張ノブナガ」
そういって電話を切ると、すぐに背後から声がした。
「ケーサツはヤバイよ~」
そういって、カウンターの奥から、かがみさんが現れた。茶髪の、温厚そうな青年といった印象で、でもなぜか、目の下のクマがひどい【7】。
かがみさんは、ラブラドールの店長だ。
いつも店の奥で、エッチなビデオをみている【8】。
だが今日はとてもうろたえた様子で、コースターをもって店の中心をぐるぐると回り始め、かと思うと急に店のカーテンを締め始めた。
「摘発されちゃう~」
そうなのだ。この店は表立って市の許可をとっていない、風営法に違反するブラックな飲食店なのだ。
シンナーの匂いが充満する工場群の一角。いくら手ぬるい地方のお役所仕事とはいえ、そんな無法地帯で飲食の許可が下りるわけがなかったらしい。
「バカ、痴話げんかの仲裁をサツに頼むなんて肉」
「いや、そうじゃない」生き死にがかかってるんだ、エレナ。お前はさっきの修羅場をみてなかったのか?それにそもそも痴話げんかじゃない。
「ぼ、ぼくに責任をかけかけしたな……」お前は黙ってろ。
「訂正の電話をかけるべきでは、と阿修羅乃ミコトは提案します」冷静な意見。
「どうせ暇だから、あいつら。音速より早いよ。もうくえないし」靴下をひとのカオに載せるな。ノブナガのカオだが。
「シンナーはヤバイよ、と阿修羅乃ミコトは冷静に退学の危機を予感します」
「じゃあウチらのがヤバイじゃん、」かがみさんの人生なんてどうでもいいんだな、ミココ。「シンナーなんてバレたらブタ箱にいれられちゃうかも。くさい飯は『もうくえない』」それがいいたかっただけか。僕は急に冷静になり、
「逃げるしかないのか?」学生カバンを掴みながらみんなに訊く。
「訂正して訂正」かがみさんが慌てる。
「とりあえずもう一度かけてみよう」
「かけかけしてぇ」
『お前は黙ってろ』
そして僕がケータイを再び手にとって、僕らはシンナーなんて吸っていません、と無実を主張する電話をかけようとした、じゃなかった、少女は危ないやつではありません、だからケーサツはこなくて平気です、とお詫びの連絡をいれようとした、だがまさにそのときだった。バタバタと床を激しく踏み鳴らす足音がして、
「お兄ちゃん大変!」ドアをバターンとあけて、妹が入ってきた。
また面倒なのが……。
――――――――――――――――
【注釈】
6.「つまりこの街の犯罪の根源はきさまの病み」→「きさまの病みは黒シリーズを生む諸悪の根源」→「黒シリーズが人々を悪意に傾かせる」まったく展開のイカれた論理だ。
7. 常日頃のシンナーのせいだとはまさかいうまい。
8. かがみさんは以前付き合っていた女のコが卑猥な事件に巻き込まれて以来、嫌がる女のコを無理やりとかそういうのが大の苦手にもかかわらず、自虐的に陵辱モノばかり選ぶ変態だ。
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