第109話 前夜の俺
部屋で待っていると教皇の使いと言う黒い修道服を着た一団が入ってきた。
服に不自然な膨らみがある。中に鎧を着込んでいるようだ。そして武器を腰にぶら下げている。聖職者が礼拝堂だか神殿だかの中を物騒な物を持って
アルマと一緒に部屋を出され修道服の一団に周囲を固められて何処かに連れて行かれる。
途中で小競合いがあり、剣を抜かないまでも強引に突き進んで行く。剣呑な雰囲気の中を歩くと一際豪華な扉の前に立たされる。中から女性の声の声で応答があると中に引き入れられた。
中に入ると仕立ての良い家具が並んだ部屋のソファーに座らせられ飲み物が用意され少しの間待たされた。
ここはルクサーナの私室なのだろうか。部屋の中に部屋があり、まるでホテルのスイートルームのような作りになっている。まあ、知識があるだけでスイートなんて泊まったはないが。
「お待たせ」
ルクサーナは軽い感じの衣装に着替えて俺の目の前に座った。
「大丈夫なの?」
俺は扉に視線を向けて話しかける。
「何が?」
「武力衝突寸前の中でここまで連れて来られたんだけど」
「あまりゆっくりとはしてられないけどね」
そう言いながらルクサーナはゆっくりとお茶を啜っている。
両手でティーカップを包み込むようにチビチビと飲む姿は優子を思い出させる。……まあ優子なんだから当然かもしれないが。
ルクサーナは今の状況を説明していく。
司教枢機卿とその一派の強硬派つまりルクサーナの政敵は手勢を集めて、一箇所に集結中だそうだ。そして、宗教都市である教会総本部ネストウスから20kmの地点に国軍が陣取っているらしい。
強硬派は国軍が表れたことにより計画を前倒しにすることにしたらしい。国軍を教会総本部に引き入れ、国軍が穏健派を一掃した後に国軍を押し戻そうと考えているようだ。
ただ、俺を押さえることが必要で、先に教皇とその一部を粛清する。その後、俺を奪還してからことにあたる計画を準備している。その準備の時間だけ猶予があるとのことだ。
――良く分からん。
「……つまり、どういうことだ?」
「チャンスってこと。ここに襲撃する人数は極小数の司教枢機卿に忠実な手下。私を殺したのは国軍ってレッテルを張るには暗殺しないといけないから。だからその手下と強硬派の上層部を先に手を下してしまえば、教会は一枚岩になるわ。あとは国軍だけね」
ルクサーナはそう言うと話を打ち切り、俺の手を取り部屋の一つに連れて行く。
その部屋には壁一面におびただしい人形が飾ってあった。
「ここは私の趣味の部屋よ」
ルクサーナは人形の一つを手に取り俺に見せる。
人形は全長が1mはある精巧な作りなフランス人形のようなドレスを着た高そうなドールだ。
――優子の部屋にも1体だけ婆ちゃんから貰ったって言っていたアンティークのドールを飾っていたな。優子の部屋に行くとその人形が俺を見たってるみたいでちょっと苦手だったけど。
「可愛いでしょ。全部で108体あるわ。ドール達の小物も揃ってるわ。ナイフやフォークそして針なんかも」
引き出しを開けながら説明していく。ナイフも鉄製で切れそうなほど手入れがされている。
「どう?」
ルクサーナはウットリとした顔でドール一体一体を見ながら問いかけてくる。
「どう、とは?」
「この子達で枢機卿達を返り討ちにさせるの」
「……無理だろ。こんな人形じゃすぐに壊されちゃうし」
「出来るわ。貴方の
「動かせても倒すまでいかないし。細菌でもすぐに効果は出ないよ」
「勉強不足ね。私は貴方の祝福がわかった時に調べたのよ。すぐに殺せるわ」
ルクサーナの目はランプの光を反射して妖しく光っていた。
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