第95話 逃げ出す俺
獣道を駆け上がり追手を撒こうとするが、上手くはいかない。
いきなり前の茂みから兵士が出てきたりして追手の数がどんどん増えていく。追われるのは心臓に良くない。
山の上に至るルートが1箇所しかないので、そこに近づこうとするが、行く手を阻むように兵士が湧いてくるので遠ざかっていく。食料を置いてある休憩ポイントも真逆だ。困っちゃうね。
ブッシュの中を走るのは経験が生きているのか兵士達より俺のほうが速い。ただ、兵士達は俺が走ったルートを追ってくるのでそれほど距離は稼げない。まあ、回り道をされる恐れが低いのは幸いか。それと視界と射線が通らないので弓で射掛けられることもない。馬も乗り入れしにくい。
闇雲に走っていても逃げ切れる自身は無くもないが、転んでしまったらそれでお終いだ。足元を木にしすぎると枝が頭にぶつかったりする。顔は枝が跳ねてついた傷でいっぱいだ。漆も自生しているので触れると被れる。耐性がついてきてるのかそれほど酷いことにはならないが痒いものは痒い。
藪を漕ぎながら丘を下り気味に走って行くと、以前訪れたことがある泥濘地にでた。
後ろを振り向くが木々が邪魔になって追手は見えないが声の様子から見るとそれほど遠くはなさそうだ。
この辺は下草が少ないので追手から丸見えだ。
「見えたぞ〜。あそこだ!」
隊長格が号令を出すと矢が数本放たれた。近くの木や地面に突き刺さる。
結構上手い。走りってる対象物に当てるのは難しいし、射線が通ったところを狙うのも至難の業だ。
見知った獣道を走りぬけ泥濘地を通り過ぎると、後ろから悲鳴が聞こえてきた。振り返ると、以前、猪狩り用に仕掛けたトラバサミに挟まれた兵士や泥濘に足を取られて転んでいる兵士がいた。
しかし、ほんの一部しか足止めできていない。20人以上はいる。
――逃げきれるかな?
緩やかな登りになり丘の上を目指す。
前方に兵士達がいないのは救いだ。
――上手くいくかね?
丘の中腹に差し掛かると「ブォウ」と生き物が鳴く声がした。
よし!
枯れ枝を持ち、鳴き声がする方に近づいていく。
「ウォォォ」
叫び声を上げながら走って行き、藪が切れて広場に出ると子供の猪がいた。子供の猪が毛を逆立てながら逃げようとしている。
ここは害獣狩りの時に来た、猪たちの縄張りだ。猪の出産シーズンなので気が立っているはずだ。
棒を持って子供の猪を追っている俺をそ見た成体の猪がカチカチ牙を鳴らしながら威嚇をしてくる。そして俺に向かって突進して来た。
突進方向に向かって垂直に転がり避けると、あちこちから猪の唸り声が聞こえてきた。
よしよし。後は俺が安全に逃げるだけだ。
――逃げるだけだけどっ! ツラい。
転がり避けながら坂道を登る。
早く追手がやって来ないかなって……アブね!
下の方から兵士達が慌てている声が聞こえてくる。
坂を登り切ると大きな崖が聳え立っている。そこに取り付き、ロッククライミングよろしく登っていく。
こんなところを狙われたらすぐにやられそうだが、未だに兵士達のが近づいてこないところをみると猪と格闘中ってところか。それとも肉の塊と思って狩りの最中かも。
俺はナイフしか持ってないので逃げることに専念する。崖に取り付き横に少しずつずれながら猪たちが諦めるのを待つ。
必死になって崖を移動していると何時の間にか猪たちもどこかに行った。
崖から降り周囲の様子を窺う。猪は隠れて油断を誘おうとするからね。
気配がしないので走ってその場から逃げ出す。方向は休憩ポイントとは逆になってしまうが今は戻れない。兵士達がいる方向に戻ってしまうからね。
ナイフ一本でサバイバルか。
振り出しに戻る、か。う〜む、振り出しより状況は悪くなってるかな。
まあ2、3日すれば教兵も退くだろう。食糧事情は悪そうだし。それまで我慢だ。
俺にはまだ砦も残されてるしね。
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