第78話 眠れない俺

 家には無事に戻れた。数日しか離れていないのに1ヶ月位ぶりに帰宅した気持ちだ。

 顔には走った時に当たった枝で傷がついているし、皮膚が露出している場所には虫の刺した跡ができているがそれで済んだのは行幸なのだろう。


 擦り傷を丁寧に消毒しておかないと高温多湿の気候ではすぐに悪化してしまうので気を使う。擦り傷は丁寧に水洗いして砂糖を刷り込んでおくことで化膿しなくなるから大した手当も必要ないが。


 追手や捜索隊はまだこの周辺までは手を伸ばしていないようだ。

 緊張感から開放されて一気に睡魔と空腹感が襲ってくる。

 意識が朦朧としているが、食事をとりながら風呂に使う石を熱する。

 このまま寝るには気持ちが悪い。拭くだけでは気持ちが収まらない。かなり温い風呂に浸かり、体を洗う。

 さっぱりとはしたが重い体を引き摺る。まだ昼間だがベッドに寝転び目を閉じると意識が途切れた。



 次に目が醒めると夜になっていた。まだ寝足りないがだいぶスッキリした。


 とりあえず周囲の状況を確かめるために家の周りを巡回することにする。

 塀や畑の周りを歩くが異変は無い。どうやら追手は完全に巻いたようだ。

 そう思うと、肩の力が抜けて少し気が楽になった。



 塀の門まで辿り着くと弓人形の1体が矢を放った。


――なんだ? 猿や鹿か?


 射た先は森に隠れていて何も見えないが、弓人形が次の矢を放とうとしている。

 注意深く見ていると、矢を放った直後、森の木が揺れている。木の上に何者かがいるのか。木の揺れ方からすると猿ではない。もっと重い物体。そう、人程度の生物だ。


 弓人形が矢を放つのをやめた。仕留めた気配も無いので何処かへ消えたようだ。

 慎重に矢が放たれた場所に近づいてみる。人の気配は無い。

 ただ、矢を放っていた時も気配は感じられなかったので、巧妙に隠れるのが得意な者の仕業なのかもしれない。


 襲撃するのであれば、俺が寝ている時に襲撃すればいいのに。それも無かったってことはここが俺の住処かどうかの確認を取りたかったのかな?


 眠れない毎日が訪れそうだ。

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