【第111話:むかしむかし】
シラーさんの『パズ様』に仕える発言に驚き、オレ達は尋ねようと思っていた本題を忘れてどういう事なのかとその真意を確認する。
「えっと……ちょっとどういう事か説明してもらえませんか?パズはオレの従魔なんですが、何をどうしたら『お仕えする』とかいう話になるんでしょう……?」
オレがそう尋ねると、シラーさんは 少し長くなりますが とその理由を語り始めた。
「この獣人の村はダンジョンが出来るずっと以前からここにありました。あいにくこの村では文字に書いて記録を残すという事をしていない為あまり正確な事はわかりませんが、
この獣人の村はどうやらポルクスの街よりずっと以前から存在していたようで、近くにある寂れた遺跡がダンジョン化する前のただの遺跡だった頃にどこかから移住してきたという事だった。
そして口伝にて伝わっているのは、そういった村の歴史だけではなく、生活の為の知恵や知識、獣人に伝わる戦闘技術など様々な事があるようで、さわりだけではあるけど色々と教えてくれた。
そしてシラーさんは一度一息つくと、その表情を真剣なものに変え、
「そして私たちがこの地に移住してきた理由でもあるのですが、一番古く、一番重要な事として代々伝わっている口伝があるのです。それが『パズ様』にお仕えすると言うものなのです」
と告げるのだった。
~
オレはいきなり出てきた『パズ様』というフレーズに思わず、
「いきなりですね!?『パズ様』って名前そのものが伝わっていたんですか?」
と説明に割り込んでしまう。
「ちゃんとお話しした方が良さそうですね。私たちにはこう伝わっているのです」
そう言うとシラーさんはポツリと話し始めた。
~~~
≪悠久の時を超えた神獣の物語≫
その獣、悠久の時を超えこの世界に現れり。
女神の意志を受け継ぎ、使徒を支え、この世界に理をもたらす。
その獣、獣と人の血をひく者の呪いを解き放つ。
この世界にかけられた禍々しき呪いの一つを。
その呪い解き放ち時、世界はようやく動き出す。
その獣、獣と人の血をひく者を従え、理を乱す者をうち滅ぼす。
獣と人の血をひく者はその獣に仕えよ。
さすれば呪いは消え去り、望む未来が手に入るだろう。
~~~
想像していなかった壮大な話に静まり返るオレ達にシラーさんはこう締めくくる。
「そして最後にこう締めくくられているのです。『その獣は【チチワ】。名は【パーズ】』と」
……今度は違う理由で静まり返るオレ達……。
「……えっと……な、なんか微妙~に違う気がするんだけど……まぁ確かに名前が伝わっているんですね……なんか微妙に違うけどっ!」
「ま、まぁ何だっちよ。数百年の長い時間をかけた壮大な伝言ゲームでこの程度に収まったなら優秀だっちよ」
(何か微妙に納得いかないが確かにどう考えてもパズの事を指しているとしか思えない。と言うかこっちにも伝言ゲームあるのか!?)
など思考がそれそうになるが、オレは
「しかし、そんな昔からパズの事が伝わっているのですか?予言って事ですか?……それと呪いっていったい……?」
と確認する。シラーさんは『呪い』という言葉の所で一瞬眉をひそめるが、気を取り直すときっちりと答えてくれる。
「そうですね。いわゆる予言なのでしょう。しかし、私たちはいつか訪れる現実の出来事と信じています。そして私たちにかけられた『呪い』とは……」
シラーさんは一瞬躊躇したのか少し間をあけると、最後の言葉を紡ぎだす。
「その呪いの名は『
どういう事かと尋ねようかと思っていると、シラーさんは更に詳しく話してくれた。
~
それは1000年前の闇の眷属との戦いにおいて、追い詰められた邪竜が放ったいくつかの禍々しき呪いの一つだった。
獣人は人間と共に闇の眷属と戦っていたのだが、その身体能力の高さをいかして多くの魔物や魔人を葬っていた。
その恨みを晴らすべく邪竜がかけた呪い。
獣人の集まる地には必ずダンジョンが発生し、魔物が襲い掛かるというものだ。
この呪いの為にいくつかあった小さな獣人の国はすべて滅んだ。
生き延びた獣人は一所に集まるわけにもいかず、多く集まっても村どまりになるように調整しながら暮らすようになる。
しかし、長い時の中でこの伝承を信じない獣人がどうしても現れてしまう。
獣人の村が栄え、町と呼べるような規模になると必ずダンジョンが発生し、多くの獣人が命を落とす。
繁栄と衰退を繰り返す獣人たちは絶望し、毎日神に祈りを捧げた。
その時、祈りを捧げる獣人たちの元に古の神の一柱『ディッグス』が顕現したという。
そして先ほどの≪悠久の時を超えた神獣の物語≫を告げたのだった。
~
「わかって頂けましたか?」
シラーさんがそう言ってほほ笑むと
「という訳で……これより我が獣人の村の者は皆『パズ様』にお仕えさせて頂きます!どうぞ何なりとご指示を!!」
「「「何なりとご指示を!!」」」
いつの間にかオレ達の後ろに集まっていた獣人が一斉に跪くのだった。
「ばっばぅぅ!?」
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