【第101話:チワワと言うのか】

「え!?獣人の村にダンジョン!」


 オレはいかにもファンタジー世界っぽい二大キーワードを聞いて、思わず大きな声をあげてしまう。

 すると、周りにはその獣人の方々がいらっしゃるわけで、


「なんだ坊主。オレ達が気に入らないっていうのか?」

「獣人を見下すつもりならタダじゃおかないぞ!」


 などと、怖そうな方々に凄まれる。

 オレは慌てて


「ち、違いますよ!?オレが旅好きなので、見聞を広めるためにも一度訪れてみたいなって!」


 と、誤解だと説明する。

 しかし、獣人の人たちの目はオレには向いていなかった。


(……この視線の先は……パズ?だよな?)


「なんかパズっちが凄い注目の的になってるっち……」


 となりのグレスも視線の先に気付いたようで少しひき気味に呟いている。


 そして一瞬凄い威勢で怒鳴り散らしていた獣人たちも今は目を見開いていた。

 すると、その中から一人の獣人の女性が近寄ってきて、


「失礼ですが……その従魔は何という種族ですか?」


 と聞いてくる。


 その獣人の女性はいかにも猫っぽいつり目に、猫っぽい耳と尻尾を生やしていた。

 ただ、全体的にはほぼ人間と変わらない印象で、凄く清楚な美少女だった。


 オレはパズを何と言ったものかと悩んでしまうのだが、いつの間にか戻ってきていたメイが、


「パズ殿は『チワワ』でござる!最強の従魔でござるよ!」


 とサクッとこたえてしまう。

 すると、そこで予想外の反応が起こる。

 獣人の冒険者たちが、口々に


「ち、チワワと言うのか……」

「何と言う神々しい名だ」

「ちわわ……これが……」


 と呟いたのだ。

 そして聞いてきた女性の獣人も


「お答え下さりありがとうございます。もし獣人の村に訪れる事がありましたら、私『シラー』が案内させて頂きます」


 そう言って深々とお辞儀をすると、数人の獣人のお供を連れてギルドから出て行ったのだった。


(な、なんか状況についていけないんだけど……)


 若干嫌な予感がするので、一旦ギルドから立ち去ろうかとするのだが、


「『暁の刻』のみなさ~ん。いらっしゃいませんか~?」


 と、ギルドの受付から声がかかる。

 オレは無視するわけにもいかないので、


「あ。はい!ここにいます!そっち行きますね!」


 と言って、受付の場所まで進もうにげようとする。

 そしてオレは念のために『見極めし者』を起動し更に『第三の目』もひらくのだが、畏怖と尊敬のようなものが伝わってきて、


(う!?まるで海を割るように獣人の冒険者が道をあけてくれてる!?なんだこれ……)


 オレは獣人たちの反応が理解できず警戒しながらも受付の前までやってくる。

 受付のギルド職員や人間の冒険者たちも目の前の光景に絶句していて、


「な、何事です……?」


 と聞いてくるのだが、


「はははは。オレが聞きたいぐらいなのですが……」


 と言って、とりあえず手続きを進めてもらうのだった。


 ~


 その後オレ達はなるべく後ろを振り向かないようにして手続きを進めていく。


 まず、『暁の刻』に新規メンバーとしてグレスを追加加入させる手続きをお願いする。


「え!?プラチナ冒険者のグレス様じゃないですか!?パ、パーティーを組まれるのですか!?」


 などと驚かれるが、


「パーティーを組むと言うか、俺っちがパーティーに入れてもらうっち」


 とグレスがこたえると、驚きながらも粛々と登録手続きを済ませてくれる。

 何でも、プラチナ冒険者がどこかの国に仕えたり、パーティーを組むというのはギルド内ではトップニュース扱いなのだそうだ。


 そして、次にゲルド皇国の冒険者ギルドから預かった書類一式を渡すのだが、


「ん?これは何ですか?……え?ゲルド皇国のギルド長から……え!?皇帝の書状までついてるじゃないですか!?」


 と言って「ギ、ギルドマスター!!」って叫びながら2階に駆け上がっていくのだった。

 ~

 オレ達はギルド職員を少し気の毒に思いながら2、3分待っていると、老練な魔法使いと言った感じの男と一緒に戻ってくる。


「ギルドマスター!この方たちです。あ。こちらの方がプラチナ冒険者のグレス様です」


 と慌てて紹介する。しかし、ギルドマスターはグレスを知っていたようで、


「グレス様。お久しぶりでございますね」


 そう言って握手を求める。

 グレスも懐かしそうな目をしながら、


「ご無沙汰しているっち。ワーグナーさんもお元気そうで何よりっち」


 と言ってその握手に応じるのだった。

 その後、少し昔の話をかわしてから、


「それで……これが皇帝の書状つきの書類ですか?」


 そう言って中身を確認しだすのだが、だんだん頬が引き攣っていく。


「グ、グレス様?この内容は本当なのですか?」


「あぁ~その書状の中身は俺っちは知らないっちよ。そこの救国の英雄パーティーが皇帝とギルドマスターに無理やり持たされたものだっち」


 ワーグナーさんの質問にグレスが素っ気なく答える。


「救国の?え?皇帝直々の推薦なのですか!?」


 と、後ろから覗き込んでいたギルド職員が驚きで甲高い声をあげる。


「これ!何を覗き込んでおるか!」


 しかし、ワーグナーさんから厳しく注意を受ける職員。


「す、すいません!!ですが、全員プラチナランクへの推薦なんて聞いたことないですよ!?」

「まぁ俺っちはその書類には関係ないのだけど、このパーティー全員がプラチナランクに達しているのは俺っちも保証するっちよ」


 そのグレスの言葉にようやく信じる気になったワーグナーさんが、


「わかりました。それでは早速裏の修練場で試験の準備を始めさせて頂きます」


 そう言って全ギルド職員を招集すると、次々と指示をだして大掛かりな準備を始めるのだった。


「な、なんか凄い大事になってきたな……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る