【第97話:国境での出来事】

「それじゃぁオレ達はそろそろ出発しますね」


 オレがそう言うと、見送りに来てくれた人たちが口々に感謝の言葉を投げかけてくれる。


「ありがとう!道中気を付けて下さいね!」

「これで当面は切り抜けれそうだ!本当にありがとう!」


 など、嬉しい言葉をくれる人が多いのだが、中には


「あのちっこい従魔がアレやったそうだぞ……」

「アレをちっこいのが引っ張ってきたのを俺はみたぞ!」


 など、オレ達の横にそびえ立つ亜竜の氷漬けを見ながらひそひそ話をしている人がいたのだが、いつものように見なかったことにするのだった……。


「それじゃぁグレス様。本当にお気をつけて……。しかし心配になって皇国に来たものの、まさかこんな所でお会いできるとはまさに神の思し召しですな」


 そうこたえるパージオさんに、グレスは


「そうだな。俺っちもここでパージオに会えるとは思いもよらなかったよ。でも本当に一緒に戻らなくて大丈夫っちか?」


 と、もう一度聞き返す。

 しかし、パージオさんのこたえは変わらなかった。


「私はもう少しここの人たちが落ち着いてからオーレンス王国に戻ります」


 パージオさんはここの100人を超える避難民たちを置いて一人グレスの実家に帰る事を良しとしなかったのだ。

 しかし、グレスはそのパージオさんの昔から変わらない頑固なところを見れて少し嬉しそうだった。


「じゃぁ本当に行くっち!この守りの家のみんなも頑張ってくれっち!」


 こうしてオレ達は本当に別れの挨拶をし、オーレンス王国に向けて出発するのだった。


 ~そして20分後~


「はぁはぁはぁ……。死ぬかと思ったっち……」

「も、もう着いたでござる……」

「こ、今回は今までで一番早かったですね……」

「パズ……お、おかしいだろ……なんでもう国境に着いてるんだよ!?」

「がぅぅぅ……」


 オレは確かに出発する時パズに「かなり予定より遅れてるから特急で頼むな!」とはっぱをかけはした。

 かけはしたが限度ってものがある。

 これが【草原の揺り籠】じゃなかったら、たぶん走りながら馬車は分解されていただろう。

 馬車で約一日かかる距離をパズ一人ならともかく馬車ソリを後ろにつけて走って20分っていったい時速何キロでてるんだ?新幹線超えてるぞ……と言うか音速超えてないか……?


(け、計算するのが怖くなってきたな……良し!忘れよう!)


「いやぁ。着いた着いた(……棒読み……)」

「ユウト殿!?現実逃避は良くないでござるよ!?」

「ばぅ?」


 などと騒いでいると、国境に設けられた皇国側の関所から大声で誰何すいかされてしまう。


「お、おまえら!!いったい何者だ!!」


 そう言って、何人かの兵士が弓をこちらに向けてくる。

 しかし、こういう時に最適な仲間グレスがいるので、オレはお任せする事にする。


「グレス先生!出番です!どうぞよろしく頼んます!」

「く!?何か俺っち上手い事使われてない!?と言うかどこの三下っちか!?」


 などと、遊んでいると威嚇の矢が数本飛んでくる。

 グレスは渋々といった感じで馬車ソリを降りると、


「ちょ、ちょっと待ってくれっち!俺っちはプラチナ冒険者のグレス。プレートもほら!」


 と言って、プラチナのプレートを取り出して高々とあげるのだった。


 ~


 オレ達はグレスのお陰ですぐに疑いもとけ、国境の門の前までやってきていた。

 国境の門と言っても砦のようなものがあるわけではなく、オーレンス王国とゲルド皇国を繋ぐ道に設けられた小さな関所といった感じだった。


「あの高名なグレス様とは気づかず威嚇射撃などしてしまい、本当に失礼いたしました!」

「「「失礼いたしました!」」」


 兵士数名が集まってくると、先ほど問答無用で矢を放ったことを声をそろえて謝ってきていた。


「いやいや。それが仕事だから仕方ないっち。でも、ずいぶん殺気立ってた気がしたけど何かあったっちか?」


 もう闇の眷属の大半が討伐されているという情報は魔道具を使って知っていたとさっき話していた。

 なので、グレスがどうしてそんな殺気立っていたのかと疑問に思って聞いてみたのだ。

 すると、隊長らしき男が前のめりなって興奮した様子で


「ドラゴンです!それも飛び切り大きいアイスドラゴンが出たんです!全身に氷を纏って凄いスピードで国境を越えてきたのです!!」


 と、報告してきたのだった。


(今度はオレ達が謝る番のようだな……)

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