【第87話:ゲルド皇国の戦い その14】

 皇都ゲルディアからす少し離れた森の中、魔法よって発生させた霧に隠れて進む集団があった。


「ユウトさん。パズ君大丈夫でしょうか?」


 リリルがオレに心配そうに問いかけてくる。


「大丈夫だよ。もう既に城壁の周りを飛び回っていた魔物はほぼ倒しちゃったし」


 と、答えるオレだったがそれに反応したのは騎士団の人たちだった。


「な!?わかってはいたがあのワイバーンを含んだハーピーの軍勢をもう倒したのか……」

「本当に伝説に出てくる神獣のようだな。見た目は全然違うけど」


 など、口々にまた驚きを口にしている。

 しかし、シトロンさんは


「もう驚かんぞ……もう驚かんぞ……」


 と何か自分に言い聞かせるようにつぶやいていた。


(そ、そっとしておこう……)


 オレは内心でシトロンさんのその言動に気付かないふりをする事に決めてリリルに再度話しかける。


「ところでこっちの森の先にある遺跡が怪しいって言ってたのは当たりだったみたいだね。遺跡の中から魔物の大軍勢が現れたし」


 先ほどの魔人や地竜を含む魔物の大軍勢は遺跡から現れたのだ。


「良かったです。やはり昔街で聞いた噂話は本当だったみたいですね」


 リリルが先ほど作戦を立てている時に話した内容はこうだった。


 まず、皇都には川が流れているのだがそこの格子状の柵の目が粗いから、パズだけならこっそり侵入が出来るのではないかと。

 城壁に守られている皇都の防衛ならパズ一人いれば何とかなりそうだし、パズだけならオレ達と一緒に向かうよりずっと早くに皇都に着ける。

 川はパズなら一時的に凍らせて歩いて渡れるだろうから、すぐにこの提案は採用された。

 そしてこちらの状況を手紙に書いて救援に来た旨を伝え、そのまま押され気味の皇都防衛をパズに加勢してもらえば守り切れるのではというものだった。


 更にリリルは、昔オズバンさん達と皇都に行商に訪れた時に得た情報をオレ達に伝えてきた。

 各地にある崩れ去った遺跡で霧の魔物が多数目撃されたと言う話を聞いていたのだ。

 その時は冒険者ギルドで調査依頼などが発行されるも異常は見つけられなかったそうなのだが、その後も行商人の情報網には報告が続いていた。

 そこで、各地にある崩れ去った遺跡に近づくと危ないという情報が継続してもたらされていた事にピンときたリリルは、皇都の近くにもあるその遺跡を先にオレの権能で調査してみてはと提案したのだった。


「あぁ。オレの権能で確認したから間違いない。あそこに『世界の裏側』からこちらに出てくる為の『何か』がある」


 と、オレは先ほど遺跡を『第三の目』で確認した時の事を思い出し、もう一度リリルに伝えて安心させる。

 しかし、そこで復帰したシトロンさんが、


「ところでこちらの思惑が当たったのは良いのだが、皇都と我々で挟み撃ちにするには『いささか』敵が多すぎないか……」


 と、数千からなる上位の魔物で構成された闇の眷属の大軍勢を指さす。

 確かに『いささか』というか『とんでもなく』多いのだが、シトロンさんはどうせ何とかするつもりなんだろ?的な感じで若干投げやりに聞いてくる。

 砂煙をあげながら皇都に向かうその大軍勢は思わず息を飲むほどのものだったが、オレの権能があれなら何とかなると告げていた。


「大丈夫です。今度はリリルとメイにも活躍してもらいますので」


 と、少しニヤリと笑いながらこたえる。


「まぁそう言うと思ってはいたがな。それで挟撃するという話だったが具体的にはどうするのだ?」


 最初に皇都とオレ達とで挟み撃ちにしましょうという事しか決めていなかったのでもう少し役割について説明する。


「そうですね。まずは城壁の少し手前までこのまま隠れておいて、後ろからの奇襲でリリルの魔法を放ってもらって雑魚を蹴散らします」


 シトロンさんが雑魚ってどこにいるんだ雑魚って上位魔物以上しかおらんぞ…とか呟いているがスルーしておく。


「ごほんっ。えっと……その後リリルの討ち漏らしをシトロンさん達で、メイ、キントキで地竜3匹を、オレが残りの魔人達を相手します」


 後はパズも駆けつけるだろうからあいつは遊撃で、と説明を終えたのだが何も反応がない。


「「「・・・・・・・・・」」」


 何か凄い痛い視線を感じる……。

 そしてたっぷり10秒ほどしてからシトロンさんが、


「……色々突っ込みたい所だらけなのだが、きっとお前たちなら出来るのだろう。まぁ良い。リリルの護衛と討ち漏らしの始末は任せておけ」


 とようやく返事をくれたのだった。


 ~


 その頃、王都ではサルジ皇子と各騎士団長、冒険者の代表としてグレスが集まり協議が続いていた。


「サルジ皇子~。もうパズっちに任せて休んじゃっていいんじゃないっちか?手紙にも従魔に任せて休んで下さいって書いてたっちよ」


 とグレスがだらけながら提案してくる。


「た、確かに手紙にはそう書いていたが……。あの大軍勢を前にしてゆっくりするわけにもいくまい」


 と先ほどより近づいている闇の眷属の大軍勢の方角を指さすサルジ皇子。

 更に騎士団長達も


「そうだぞ。グレス殿。いくらそこの従魔が凄いとは言え地竜や魔人までもがおるのだぞ」

「いかにも。残念ながら魔物たちはそこの従魔が何とかしてくれるかもしれぬがさすがに地竜や魔人は相手が悪すぎるだろう……」


 と、何故か少し遠慮がちにびくびくしながら発言する。

 その時、


「ばふふふふふ~」


 と変な声が聞こえると、騎士団長たちは


「「ひぃぃ!?」」


 と変な悲鳴をあげる。


「そんなビビらなくて大丈夫っちよ~」


 とグレスは自分の頭の上でいびきをかいて寝てるパズの頭を撫でる。

 あの後、話せないはずのパズと何故か意気投合し、すっかり仲良くなっているパズとグレス。


「なんかグレスが二人に増えたような気分だな……」


 そう呟くサルジ皇子は、しかしその小さなパズ希望に笑みをこぼすのだった。

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