【第57話:神託】

 オレ達は馬車で途中まで移動すると降りるよう促され、今は別の案内役のエルフと共に歩いていた。

 馬車から降りた時、キントキを連れて行っても大丈夫なのか不安に思い尋ねると、問題ないという事だったので全員で集会所に向かっている。

 キントキはいつも留守番だったので一緒に行けると聞いてご機嫌な様子で、頭の上にパズを乗せて嬉しそうに歩ていた。


「がぅ♪」


 ~

 ちなみにオレは里に入ってからは念のためにずっと見極めし者を発動しているのだが、特にあやしいものは発見出来ていない。

 今の所、エルフの里に闇の眷属は入り込んでいないようだ。


(でも『世界の理を壊す者』とか言ったっけ?あいつらは一応人間みたいだからそっちも見過ごさないように気を付けないとな…)


 と少し気を引き締めるのだった。

 ~

 5分ほど歩いたところで、案内役の男が大きめの建物の前で立ち止まった。

 建物自体は普通の大きなお屋敷のようだが、全体的にログハウスのような造りをしている。

 正面には装飾の凝らされた大きな扉があり、その左右には色とりどりの花が植えられた花壇が広がっており、とても華やかな雰囲気を醸し出していた。


「長老方は皆すでにお集まりのようですね。どうぞこのまま中にお入りください」


 と言って建物の扉をあけ中に入っていく。


「あ!キントキはどこまで入っても大丈夫でござるか?」


 さすがに建物の中は不味いかと思ってメイが慌てて確認するが、


「大丈夫です。ただの従魔ならともかく加護を受けた従魔なんでしょ?何も問題ありませんよ」


 早く入りましょうと促し、さっさと一人中に入っていくのだった。


「はは。何かちょっと変わった人だね」


 とオレが少し苦笑いすると、メアリが小さく何か呟く。


「ん?メアリ何か言った?…っていうかどうしたの?さっきから態度おかしいけど?」


 と問いかけるのだが、メアリは少しうつむいたまま首を振って黙ってしまうのだった。

 リリルもどういう事なのかわからず少し心配しはじめるのだが、このままここにいても仕方ないので、とりあえず皆で中に入ることにしたのだった。

 ~


 案内役のエルフは大きな部屋の前で待っていてくれたようなのだが、オレ達が追いつくと


「では中に入りましょうか」


 と言ってすぐに部屋に入っていく。


 部屋の中は学校の教室ほどの広さで、壁などには花のレリーフなどが飾られてはいる以外は何もなく、話し合いなどを行う専用の場所のようだった。

 中央には直径3m以上はあろうかというとても大きな丸テーブルが置かれており、そこには5人の長老と思われるエルフたちが既に席についていた。


 オレ達が入り口でそのまま座っていいのか迷っていると、


「皆待たせてすまなかったな。では早速報告を聞きましょうか」


 と言って、案内役のエルフの男が中央奥の席に座るのだった。


 ~


 どうみても一番偉い人が座る席に座った案内役のエルフを見てあっけに取られる。


「えっと…もしかしてあなたがこのエルフの里の族長なのですか?」


 とオレが間の抜けた顔で質問してしまったのも仕方ないだろう。

 『第三の目』まで起動していれば見破れたのだろうが、普通に見極めし者の権能の力だけでは敵ではないことまでしかわからなかった。

 すると周りの長老と思われるエルフたちが、


「またやったのか…」

「毎度のことながら族長のイタズラ好きには困ったものだ」

「いつになったら族長のイタズラ好きは直るのやら…。コルムスの使者殿すまないな」


 と、半ばあきらめ気味の言葉と共に謝られる。


(歳をとってもエルフの見た目が若いのは知識の上ではわかっていたが、ここまでとは思わなかった!)


 内心エルフスゲー!ってなってたのは内緒だ。

 ただ、それぐらい族長は若く見える。たぶん人間でいえば20代前半にしか見えない。

 まぁ今の本当の年齢がわからないのだけど…。


 オレがそんなふうにエルフの若々しさに驚いていると、


「でも…という事はメアリさんのお父様なのですか?」


 とリリルが大事な事を確認するのだった。

 ~

 メアリは思わず集まった注目に少しもじもじしながら、


「お、お父様!追放処分を受けながら戻ってきてしまい申し訳ありません…」


 と最後は消え入るような声で謝る。

 オレも何かフォローしようと口を開きかけた時、族長が先に話し始める。


「まずは自己紹介かな?まぁもうバレてしまったが私が古の民族長のミドーという。お見知りおきを」


 とメアリの話は一旦おいて自己紹介をする。


 ミドーさんは見た目は本当に20代前半にしか見えず、綺麗な金髪を後ろで纏め、身長は180cmはありそうな細身の長身だった。

 ファッション誌のモデルをやっていると言われても信じるだろう。


 そして今度こそオレが口を開こうとするのだが、またミドーさんが先に話しだす。

 案内の時は無口だったのだが、イタズラ好きなだけでなく、結構軽く話し好きのようだ…。


「そうそう!メアリ、謝る必要なんてないよ。おかえり!良く戻ってきてくれたね♪ご苦労様☆」


 と、最後にウインクした上に投げキッスのおまけ付き。


(あれ?追放したの族長とか言ってなかったか??どういう事?)


 あっさりと許した上にあまりにも軽い態度に理解が追いつかない。


「え?え?許してもらえるのですか?あんなに烈火のごとく怒って追放処分までくだされたのに…」


 とメアリが一番理解が追い付いていなかった。

 すると、ミドーさんが胸の前の左の手のひらを「ポン!」と右拳みぎこぶしのふちで叩き、軽い調子でこう言ったのだった。


「あぁ~ごめんごめん!あれ演技だから☆」


 メアリはもちろん固まる他の面々。

 オレ達だけでなく、どうやら他の長老たちも初耳のようだ。


「「「「えぇ~~~~~~!?」」」」


 すると、ミドーさんは悪びれる様子もなく、


「いやね。神託くだったからちょっとついでにイタズラしてみたくなってさ」


 と満面の笑顔でこたえる。


「「「「族長~!!(お父様!!)」」」」


 この後、メアリや長老から30分にわたって正座で説教を受けるミドーさんなのだった。

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