【第40話:闇の尖兵 その10】

 ゴブリンと戦っていた冒険者たちは何が起こったかまではわからなかったようだが、後ろに控えていたゴブリンの約半数が倒されたのを知ると、その中のリーダー格の男がときの声をあげて他の冒険者に発破をかける。


「おぉ!!お前らー!どうやら援軍がきたみたいだぞ!一気に巻き返せー!」


 すると、その男の呼びかけに呼応して100名ほどの冒険者たちの士気が上がる。

 そのやり取りを権能で把握していたオレは、


「良し!パズ、このまま残りのゴブリンを挟み撃ちで殲滅するぞ!」


 と、パズに話しかける。

 すると、パズも


「ばぅわぅ!」


 と一吠えして、競争だね!と気持ちを伝えてきた。


「え?競争ってそんなふざけてる場合じゃ…」


 と諭そうとしたオレの足元には、もうパズの姿はなかったのだった…。

 ~

 走りながら一吠えしたパズは、自分の体の周りに小さな吹雪の竜巻のようなものを発生させる。

 そしてそのまま残像を残すような速度で駆け回ってゴブリンの間をすり抜けて行くのだが、その小さな吹雪の竜巻はゴブリンの体をズタズタに切り裂いていく。

 次々と切り裂かれて霧散するゴブリン。

 オレが唖然としている間にも既に30匹を超えるゴブリンを霧散させていた。


「どんだけ強くなってるんだよ…」


 と思わず呟くオレの声はゴブリンの断末魔に掻き消されたのだった。


「と…。オレも頑張らないとだ」


 気持ちを切り替えオレもゴブリンのもとまで駆けていく。

 ただし、後で冒険者に見つかって大事になるのも嫌なので聖なる力は使わなかった。


(使徒とかバレたら普通にこの世界を旅できなくなりそうだしな…)


 と、小さい事を考えるオレだった。

 それでも魔力炉を起動して魔力を身に纏うオレはゴブリンを次々と霧散させていく。

 普通の魔力撃でもかなり強力なので、すれ違いざまに2-3発打ち込めばゴブリン程度なら瞬殺できた。


「はぁぁー!」


 気合を入れて次々倒していると、パズが凄いスピードで近寄ってくる。


「ん?パズ??って、うぁぁ!?」


 そしてすぐそばまで来たかと思うと、オレが倒そうと思っていたゴブリンまで次々切り裂き、蹴散らしていく。

 あっけに取られたオレは、


「パズはなにやってんだか…」


 と呟き、ふとさっきまでパズが戦っていた方向を確認する。

 すると、そこにはもうゴブリンの姿は一匹もなかった。


「ぁぁ…。まだ競争してるつもりなのね…」


 パズにとってはオレとの遊びのつもりでやっているのだろう。


「頼もしいんだが、凄すぎてどう反応すればいいんだかわからなくなるな」


 と苦笑して、この後褒めるべきなのか怒るべきなのか悩むのだった。

 ~


「パズ!良くやった!!」


 と結局褒めることにしたオレはきっと間違っていない。 #やっぱり犬バカ

 得意げにどうだとばかりに突き出された小さな胸をみて、オレはほっこりするのだった。


 そしてオレ達が残っていたゴブリンの半数を倒し終わる頃には、奮起した冒険者たちによって残りのゴブリンも倒されていた。

 これでようやく当面の脅威は消え去っただろう。


(後は冒険者ギルドに報告して職員の頭についてる闇の残滓を浄化しておくぐらいかな?)


 と、この後の事を色々考えていると近寄ってくる三つの影があった。


「ユウトさん!凄かったですが大丈夫ですか?これでもう終わりなんでしょうか?」


 と、リリルが少し心配して尋ねてくる。


「あぁ。オレもパズも大丈夫だし、これでもう終わったはずだよ」


 そう答えていると、今度はキントキに跨ったメイが駆け寄ってきて、


「ユウト殿~!パズ殿とリリル殿も!ご無事で良かったでござる~!」


 と本当に嬉しそうにみんなの無事を喜んでいた。

 そのメイの目元には少し涙が見えていた。

 きっと本気でオレ達の事を心配してくれていたのだろう。

 メイは良い子だなぁとか思っていると、そのメイの口から


「ユウト殿!女神様から聞いたでござる!僕はこれからもユウト殿に仕えさせて欲しいでござる!」


 と、リリルと同じような言葉を聞かされる。

 何となくもうわかった気がするが、オレはちゃんと確認する事にした。


「ちょっと待った。リリルも、二人ともちゃんと話して。女神様ってセリミナ様が二人の所に現れたの?」


 顕現するの大変だとか言ってたのに…と思いつつ聞いてみると、


「はい!お姿は見ていませんが直接頭の中に声が響いたかと思うと加護を与えて頂き、ユウトさんが使徒であると」

(声だけなら大変ではないのか…あぁそれに…セリミナ様オレが使徒ってばらしちゃってるよ…)


 オレは秘密にしておきたかったのにー!と少し心の中で絶叫する。


「僕も同じでござる!僕とあとキントキまで加護を与えて頂いたでござる!」


 と、メイはリリル以上に興奮気味だった。


「使徒とか凄いでござる!憧れるでござる!尊敬でござる!」


 メイの中でオレがドンドン美化されていっているようで怖いです…。


「ちょ、ちょっと二人とも声が大きいよ。あまり使徒とか周りにバレたくないから!」


 と、早めに釘を打つことにする。


「おぉ。秘密でござるな!秘密の使命でござるな!カッコいいでござる!」

(だ、ダメだ…。ちょっと熱冷めるまで待たないと無理だ…)


 と、諦めモードに入る。

 そしてリリルまで、


「わ、わかりました!ユウトさんの、、あ!ユウト様って言った方がいいですよね!ユウト様の…」


 とか言い出すので、


「言った方が良くないですからね!今まで通りユウトさんで良いですから!なんなら呼び捨てでも良いですから!」


 と、必死に注意するのだった。


 興奮を今だ抑えきれない二人だったが、これはある意味仕方なかった。

 この世界では神は実在する存在として認識されており、全ての人が多かれ少なかれ古の神を信仰している。

 特に元々セリミナ様の眷属に加護を与えられていたリリルや、大陸より信仰の強い東の国出身の祖父母に育てられたメイにしてみれば尚更だった。

 特にいにしえの神の一柱ひとはしらに直接加護を与えられるという事は、伝説や英雄譚に出てくるような出来事だったのだから。


 そこからしばらく取り留めもない話を続け、ようやく二人も少し落ち着きを取り戻してくれる。

 そして3人でこうやって話していると、この数日で起こった様々な出来事が思い返され、やっと終わったんだと今頃になって実感がわいてくるのだった。


「セリミナ様…。これで本当に終わったんですよね?」


 と、思わず問いかけるのだった。

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