【第26話:見習いと英雄】

「これで、、終わったかな…」


 オレがそう呟くと、ようやく時間が動き出したかのように一斉にみんなが動き出す。


「ユウトさん…パズくんのあの魔法は何ですか…?あんな凄い魔法見たことも聞いたこともないですよ!」


 ある程度のパズの実力を知っていたリリルでさえ慌てて聞いてくるぐらいだ。


「ちわわとはいったい…」


 まぁメイは、、少しそっとしておくとして…。

 キントキは、、パズを何か尊敬の眼差しで見つめているな…こっちもそっとしておくとしよう。

 そして、、


「あ、兄貴!!助けて頂いてありがとうございました!」

「「「兄貴!!ありがとうございました!」」」


 助けた気の良い兄ちゃんパーティーが、兄貴とか変なこと言いだしてしまったのは仕方ないのだろうか…。

 ちなみに、パズにあの魔法はやり過ぎだから控えるようにと伝えると、全力で仕留めろって言ったのはユウトなのに!と大層ご立腹だった。


「ばぅ!ばぅ!!」


 ~

 5分ほどしてようやく正常に戻った気の良い兄ちゃんパーティーと少し談笑する。


「いやぁ。しかし本当に助かったよ。馬車であったときは若手パーティーが見習いのちびちゃん連れて初々しいなぁって思ってたのに、お前らとんでもない実力派パーティーだったんだな」

「というかそっちのちびちゃんも凄い戦闘力だったぞ…マジで見習いか?」

「確かに。スターベアとの連携とか凄い動きしてたな。あと、そっちの彼女もかなり凄腕の魔法使いじゃないか」


 などと話していたのだが、


「実力派も何も、、今日結成された臨時パーティーですよ?あ。ちなみにオレも見習いですし」

「またまた~。明らかにもうゴールド並みの実力じゃないか。…ってあれ?本当なのか…?」

「はい。この中だとリリルはブロンズランクでメンター資格も持ってますけど、オレもメイも見習いですよ」


 ね?リリル先生?と冗談でリリルに話しかけるが、


「「「「え・・・・・・・・・」」」」


 と、また気の良い兄ちゃんパーティーが固まってしまったのだった。

 ~

 気の良い兄ちゃんパーティーと言う呼び方が長いなぁとか内心思っていると、パーティー名は「コテリの絆」だと教えてくれた。

 なんでも4人ともコテリ村というところの出身らしい。

 そして討伐証明の為に倒したキラーアントを契約の石で記録して回ったのだが、コテリの絆の4人が素材回収の手伝いと指導を請け負ってくれたおかげで、10分ほどで完了することが出来たのだった。

 ~

 そのままギルド手配の乗合馬車の所まで戻ってきたオレ達は、邪魔だった大量の素材を買い取ってもらい身軽になると、コテリの絆と共に街に帰還する。


「これ… 一日ですげー狩ってねぇか…」


 と、買い取りに来ていたギルド派遣のオジサンがあっけにとられていた。

 単純な戦闘力ならオレ達より上のパーティーはたくさんいるだろうが、キラーアントの集団を次々見つけ出すパズを要するうちの討伐数にはかなわないだろう。


(パズは、、キントキの背中で向ぼっこしてるのか…)


 つい数日前、小さなベランダで日向ぼっこして舟をこいでたパズを思い出すが、何だかすごく昔の事のように感じるのだった。

 ~

 ギルドに帰ってきたオレ達とコテリの絆は、ジェネラルの件を一緒に報告する予定だが、まずはそれぞれのパーティーの討伐報酬の処理をしてしまう事になった。

 例の受付のお姉さんがまた担当になり、討伐報酬の処理をしてもらう。


「おかえりなさ~い。ほら~無事に帰ってこれたでしょ~。斡旋した依頼に問題はなしね。はい。石も確かに受け取ったわ~」


 と、少しからかい気味に話しながら契約の石を受け取る。

 そして何かマジックアイテムのようなもので契約の石を読み取っていたのだが、その表情が少しずつ引き攣っていく。


「あ、あなた達、、この数本当に、、、え…?ソルジャーをこんなに!ってジェネラルの変異種!?」


 と、最後に思わず叫んでいた。


「あの?大丈夫ですか?」


 と、聞いたのだが薄い笑いを口元に浮かべてこっちを見ると、


「ハハハッ…」


 とだけもうひと笑いして報酬の詰まった布袋を渡してきたのだった。

 そしてその受付嬢は、


(斡旋した依頼に問題なし…どころじゃないじゃない!後で調査部に報告しないとだわ…)


 と不穏な事を考えていたのだった。

 ~

 その後、オレ達は先に報告をはじめていたコテリの絆に呼ばれ、詳しい説明をお願いされる。

 呼ばれたのはギルドの3Fで普段は職員のみ立ち入りが許されている部屋だ。


「本当に君たちが倒したんだな。契約の石に記録されていなければにわかには信じられなかったよ」


 話しかけてきたのは白髪が少しまじった髪のダンディーなおじさんだった。

 なんでもギルドに顧問として雇われている元シルバーランク冒険者で名を「ガイル」というらしい。


「そうですね。ユウトさんもメイちゃんも自身が強い上に、二人とも強い従魔を連れていますので。私が一応ブロンズランクでメンターって事になっていますけど、一番弱いかもしれません」


 と苦笑しながら説明するリリル。


「リリルの魔法も凄かったじゃないか」

「そうでござる!」


 二人にそう言われると、リリルは「ありがと」と明るくほほ笑む。


(本当にリリルの魔法も凄いと思ってるんだけどな~。あ。今度魔法について色々教えてもらおうかな)


 などと思いながらそのはにかんだ顔に少し見とれてしまうのであった。

 ~


「それじゃぁ最後に、変異種についてもう少し詳しく教えて欲しい」


 一通り説明し終え質問にも答え終わると、最後にあのキラーアントジェネラルの事を聞いてきた。


「まず変異種のフェーズが知りたいんだがわかるかね?」


 と、リリルに確認する。

 リリルは変異種にはフェーズと呼ばれる段階があるというのは知っているが、あのジェネラルがフェーズ何なのかまではわからなかった。


「すみません。フェーズ自体は知っていますが、あの個体が何段階目までかはわからないです」


 するとガイルさんは、


「いや謝る必要はない。それでは質問を変えよう。まず闇をその身にどの程度纏うことができていた?纏っていたならその厚みは?魔力撃は通じたか?などはわかるかね?」


 と尋ねてきた。


「そうですね。それならメイちゃんの方が近くで戦っていたからわかるかな?ユウトさんの魔力撃はちょっとアレですし」

(え…?リリル?ちょっとアレって何ですか…ちょっとアレって…)

「闇は全身に纏っていたでござる。僕もキントキも魔力撃で攻撃したでござるが、まったく効いてなかったでござる」


 と、少し思い出して悔しそうに答える。


「本当か!?最低でもフェーズ3以上って事じゃないか!?よく倒せたな…いや、よく倒してくれた。テリトンの街の人間として礼を言わせてくれ。ありがとう」


 そういって急にあらたまるとその場で立ち上がり頭を深くさげてくる。

 それを見て驚いたリリルが、


「ちょ、ちょっとガイルさん!やめてください!」


 とあわてて止めようとする。

 そしてオレも、


「そうですよ。そのフェーズ3ってのが何なのかは知りませんが、オレはあの闇にちょっとした因縁があるので、依頼とか関係なく倒したい奴らですから」


 と、闇に因縁のあるオレは正直に伝える。


「それでも礼を言わせてくれ。憑りつかれた闇を部分的に展開できる状態がフェーズ1。この段階でも通常種よりも一段階強くなっていてやっかいなんだ。そして闇を全身に纏えるようになるのがフェーズ2。この段階では更に強さがもう1段階底上げされ、魔力撃が効きにくくなる。そしてフェーズ3で魔力撃がほぼ効かなくなり、元の強さより数段階上の強さになるんだ」


 と、ちょっと熱く語ってくるガイルさん。

 その説明に なるほど と大きく頷くのだが、


「まだわかってないな…。君の魔力撃がどういったものかはわからないが特別な高威力の魔力撃なんだろ?という事はそれを何度か防いだという事は恐らくフェーズ4だ。ここまでくると元の強さの数倍の強さがあると言われている。そして…今回一番危険だったのは、変異種が元々危険度の高いキラーアントジェネラルだったという事だ。今街にいる冒険者はゴールドランクが一人しかいない。つまり…この強さの魔物を倒せる戦力は街になかったという事だ」


 だからお礼を言っているんだと、だから君たちは街を救った英雄なんだと、熱く教えられるのだった。

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