【第22話:頭の上】

「じゃぁ、そろそろオレ達も出発しようか」


 オレが声をかけると、


「「はい!(でござる!)」」

「「ばう!(がう!)」」


 と元気の良い返事が返ってくる。

 誰が誰なのかは察してください…。

 ~

 陣形はオレ(と頭の上のパズ)が先頭で、その後ろにキントキ、そしてリリル、メイという形で進んでいた。

 基本的にパズやオレは気配がかなり正確にわかるので大丈夫だと思うが、後ろから不意打ちなど受けた際にも対応できるようにメイに最後尾についてもらった。

 そしてパズの指示に従って進む一行は、次々とキラーアントと遭遇し、蹴散らしていく。

 ~


「ばぅ」


 短く吠えて、もうすぐ遭遇するよーと伝えてくるパズ。


「数は8!強そうな気配は、、なし!まずはリリルとパズで魔法頼む!残ったのをオレとキントキ。リリルの護衛とサポートはメイ!」


 警戒役のパズと会話できるオレがリーダーした方が良いという事になって、いつの間にかオレがリーダーをしていた。


≪わが身は力。そのみなもとは風。忍び寄る見えざるその手よ。我に近づく者を絡みとれ!≫

封風ふうほうの見えざる手!』


 リリルが詠唱魔術で相手の動きを封じる。

 8匹すべてのキラーアントが体に纏わりつく風によって動きが極端に鈍くなる。


「「ギギギッ!」」


 そして、そのキラーアントの集団に向かって


「ばう!!」


 と力強く一吠えすると、5本の氷柱つららを空中に出現させて撃ち放つパズ。

 狙いたがわずキラーアントの頭部を打ち抜き一瞬で5匹を葬る。

 残り3匹。


「横に1匹回り込んだ!メイそっちのを頼む!」


 横にそれようとしている1匹をメイに頼んでキントキに指示を出してもらう。


「キントキ!そいつを倒すでござる!」


 メイの指示によってキントキが横なぎの爪の一撃をヒットさせ上半身を吹き飛ばす。


「がぉーーー!」


 これで残りはオレの目の前の2匹のみ。

 二匹纏めて倒さんと攻撃を繰り出す。

 掛け声とともに左右のスティックの連打を叩き込む。

 シックスカウントというこの技はカリの基本技だが、右の振り下ろしから始まり、左、右、左、右、左と6回の攻撃で元の構えに戻る。

 これにより、際限なく連打を繰り出すことが可能だった。


「はーっ!」


 魔力を武器に纏わせた通常の魔力撃の連打ではあったが、最後の二匹は一瞬にして上半身のあらゆる部分を陥没させて息絶える。

 戦闘開始からわずか2分足らずだった。

 ~


「ユウト殿!こっちのキントキの倒したキラーアントも記録して欲しいでござる!」


 オレが自分の周りの倒れているキラーアントに契約の石を接触させて記録を終えると、メイに声をかけられる。


「わかった!…しかし、キラーアント倒すのより討伐証明記録したり、素材剥ぎ取る方が時間がかかるね」


 と、思わず苦笑いしてしまう。

 キラーアントの素材はあごと触覚だけで他に使える部分はないのだがそれでも悪戦苦闘していた。

 オレもメイも素材の剥ぎ取りはほぼ経験がなく、手際が非常に悪いのだ。

 そしてこれが予想外、、いや予想するべきだったのだが、リリルが虫系の魔物が大の苦手だった…。


「ぅ…。ごめんなさい…。虫系の魔物はどうしても苦手でいつもお兄ちゃんや他の人にお願いしてたの…」


 顔を真っ赤にしてリリルが謝ってくる。

 その姿が可愛くて一瞬見惚れそうになるが、


「い、いや!ごめん!そういう意味で言ったんじゃないんだ。ただ、このパーティーって考えてた以上に殲滅力あるなぁって思って」


 と慌ててフォローする。

 実際に若手冒険者3名(+2匹だが)の戦力としては破格の戦闘力だった。

 中でも予想外だったのがメイの戦闘力で、


「ユウト殿!後でさっきのシックスカウントとかいう連撃のやり方を教えて欲しいでござる!」


 と目を輝かせていることからわかるように、前衛としてもかなりの腕前を誇っていた。

 スターベアのキントキの戦闘力に依存するようなスタイルかと思っていたが、かなり機敏に動き回り、自慢のマジックハチェットで既に5匹以上のキラーアントを葬っている。

 ただ…、それよりもパズは輪をかけて異常に凄かった。

 「ばう」と一声吠えるだけで氷柱つららを何本も打ち込み、毎戦闘毎に半数以上を一人で倒していた。


(これ以上態度でかくなったら手が付けれないんだが…)


 と、心配になるほどだった…。

 ~

 キラーアント討伐はその後も順調に進み、5つの集団を討伐し終わったころだった。


「ん?何だこの気配は…なんだかおかしいぞ。あ。戦闘が始まったか」


 今まで倒してきた集団とは違う何かを感じ、気配を探ろうとしたのだが、人と思われる集団の気配が近づいて戦闘を始めたようだった。

 他のパーティーが戦っているなら任せるしかないかと思い、その場を離れようとした時だった。


「ばぅぅぅ」


 パズが不味いかも?と伝えてきた。


「不味いってどういう事だ?」


 すぐさま権能を起動し、気配の方をより深く探ってみると、


「あの人達だ!既に二人怪我してるのか!?このままじゃやられる!」


 そう。あの気さくな男くさいパーティーが今まさに先ほどのキラーアントの集団によって半壊しようとしていた。


「リリル!さっきのパーティーの人たちがやられそうになってる!オレとパズは先行するから、メイとキントキと一緒に後から来てくれ!」


 そういうとパズと駆け出すのだった。


 頭にパズを乗せたまま…。

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