【第19話:拙者】
「きゃ!な、なに?」
急に現れた変な喋り方の男の子にびっくりするリリル。
10歳ぐらいの男の子で、短めの金髪を後ろで纏めた髪型をしており、顔をよく見ると結構美少年風。
少し和風テイスト漂う藍色の服に短パン。
ひざ上までの黒いソックスのようなものを履き、両腰には少し小さめな斧をぶら下げていた。
「どうか!どうか情けでござる!僕も一緒にメンター制度の受け入れをお願いしたいでござる!」
(一人称は拙者じゃなくて僕なんだな…なんか違和感が…)
とか思いながらもリリルに教えてあげる。
「その子、さっきから隣のテーブルでオレと一緒にリリルの説明を熱心に聞いてたよ。メモも取りながら…」
「そうなの!?ユウトさん教えてよ!」
と、ふくれっ面もちょっと可愛い…。
「かぷ!」
見つめ合うオレとパズ。
「・・・・・・。」
(どうせすぐに放してくれないだろうから後回しにしよう…)
と、指に噛みついたパズをそっとそのまま抱っこして、何事もなかったかのように振る舞うのだった。
~
「それでなんで私たちのパーティーで受け入れて欲しいの?」
と、リリルが理由を聞いてみるが、
「僕はお主らのパーティーに受け入れて欲しいのでござる!」
必死に頼むばかりで埒があかなかった。
「ん~。困ったな…。あ。そう言えばまだ名前聞いてなかったね。君の名前は何て言うの?」
と、まずは名前を聞いてみる。
「僕の名前は『メイ』で10歳です!…でござる!」
(なんか今言い直した気がするが…)
とりあえず元気よく答えてくれたのだが、その女の子っぽい名前に
「…え?もしかして女の子??」
と思わず言ってしまう。
「ユウトさん!失礼ですよ」
「そうでござる。僕はこう見えても女の子でござる」
(いやいや!リリルも絶対に男の子と思ってたでしょ!?メイも自分でこう見えてもとか言っちゃってるし!?ってかござるキャラが強すぎてようわからんわ!)
と内心連続ツッコミしながらも謝るのだった。
~
「それでメイちゃんは何でうちのパーティが良いの?ギルドでもメンター資格のあるパーティーを斡旋してくれるでしょ?」
と、あらためてもう一度聞いてみる。
すると…、すっとオレを指さしてくる。
「え?オレ??どういう事?」
と、理由がわからず聞き返すと、
「違うでござる。僕はそこのちっちゃな可愛い従魔をさしたのでござる」
と、オレの抱っこしているパズを指さしたのだった。
「んばぅ?」
そして、ん?ぼく~?と言ったパズの口はまだオレの指を器用に咥えていた…。
~
話を聞いてみると、メイは従魔使いで一匹の従魔を連れているらしい。
元々従魔使いはパーティーではあまり好まれないらしいのだが、冒険者見習いの従魔となると暴走するのでは?と不安がられる為、一層受け入れをしてもらえないらしい。
もう受け入れ先のパーティーを探して2週間ほどになるそうだ。
「そうなのか…。リリル。何とかしてやれないかな?」
パズは正確には従魔ではないのだが、同じ「一人と一匹」という立場に共感し、何とかしてやりたいと思った。
「そうねぇ。私の一存じゃ決めれないけど、一度お兄ちゃんとバッカムさんに頼んでみましょうか?」
と、リリルも何とかしてあげたいと思って同意してくれた。
「!? ありがとうでござる!」
メイは満面の笑みで頭を下げてくるのだった。
~
その後、まずは受付に行ってオレのギルドカードを受け取る。
登録料の銀貨を受付のお姉さんに1枚支払うと、
「はい。それじゃぁユウトさんのギルドカードはこちらになります。頑張ってね!」
といって、ギルドカードを渡してくれた。
ギルドカードは小さな鉄のプレートに契約の石が埋め込まれおり、発行国と支部名、発行年月日、名前、ランクのみが記載されていた。
端には穴があいていることから、紐を通して軍隊とかで使われてるIDタグのようにする事も出来そうだった。
これでオレも正式に冒険者の仲間入りとなった。
明日、バッカムさんと一緒に来て、改めてメンターと依頼の手続きをすることにして受付を後にした。
~
ギルドを出るとメイが
「少し待ってて欲しいでござる!」
と言ってタタタッとギルドの裏手に走っていく。
「どこ行ったんだ??」
オレが疑問に思って呟くと、リリルが
「裏に厩舎があるからたぶん従魔を迎えにいったんだと思います」
と教えてくれた。
すると1分もしないうちに従魔を連れて戻ってきたのだが…、
「でか!?」
「お、大きい従魔ですね…」
とオレもリリルも思わず驚く。
そこにいたのは大きな熊の従魔だった。
~
メイが熊の従魔を隣に座らせて、
「スターベアの『キントキ』でござる!よろしくでござる!」
と、従魔と一緒にお辞儀をする。
少しびっくりしたが中々かわいい…。
大きさは昨日戦ったアーマードベアと比べると流石にかなり小さいが、それでも立ち上がれば2mぐらいはありそうだった。
首の所にツキノワグマよろしく星形の白い模様が見えるので、きっとこれが名前の由来なのだろう。
そして茶色い毛でおおわれた全身は、鋲付きの専用革鎧で身を包んでいた。
「キントキか。オレはユウト、こっちは相棒のパズだ。よろしくな!」
と言ってキントキの頭を撫でる。
パズも小さく「ばぅ」と吠えながら、片手をあげて挨拶していた。
そしてその光景に驚くメイ。
「わ!?怖くないのでござるか!?」
と聞いてくるが、実はパーティーに入れて安全か確認するためにオレは既に『見極める者』を発動していた。
少しメイに悪い気もしたが、リリルや他のみんなを襲わない保証が欲しかったので迷ったが権能を使わせてもらった。
「あぁ。実はちょっとオレの能力でキントキが本当に大丈夫かこっそり確認させてもらった。そしてオレのその能力が安全だと伝えてくるからもう心配していない」
オレがそう答えると、今度はリリルがキントキの近くまでいって
「ユウトが大丈夫だって言うんならきっと大丈夫なんでしょうね。キントキくん。私はリリル。よろしくね」
とオレと同じように頭を撫でた。
「ぐるるる~♪」
撫でられて気持ちよかったのか嬉しそうな唸り声をあげるキントキ。
その光景をみていたメイの目に光るものを見たオレは、今度はメイの頭を撫でてやる。
「大変だったな」
「あ・・」
と呟いたメイの目から涙が溢れ出る。
そしてそっと俯くと、しばらく撫でられるままに喜びを噛みしめるのだった。
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