第110話 商売医者-再建請負人
商売上手なお医者二人目は、公立病院(⇒豆知識①)の再建を次々に手がけた、すご腕医師S先生です。
商売医者というより、病院の「再建請負人」といった方がぴったりする表現です。ぎょろ目の徳川家康のような風貌でした。(←(^ω^)掛け軸でよく見るあの顔)
2棟の公立病院の再建を成功させて、全日本病院協会(⇒豆知識②)でそのらつ腕が賞賛されました。
1棟目の公立病院を再建してほどなく、大赤字の続くある市立病院の再建を託されました。
驚いたことに、赴任して2年で赤字を解消し黒字転換を果したのです。さらにはその2年後に、400床を超える大病院を新築移転し、その地域の中核病院にしてしまったという凄まじい手腕の持ち主です。
私が当病院勤務時に、経営再建の苦労話を病院長に直接聞く機会がありましたので、その再建手はずを、知りえた範囲でまとめてみます。
①医者の確保
医者がいないことには病院はどうにもなりません。医者不在による診療科の閉鎖が後を絶たない昨今です。
S先生は医者集めに奔走しました。週末になると手土産を持って大学教授のところへ馳せ参じ、挨拶回りをして医師派遣を依頼したのです。
医者がなるべく長期に勤務してくれるように、福利厚生をいろいろ充実させて医者の定着を図りました。
1)医師の住居環境を整えました。病院から1kmほど離れたところに鉄筋コンクリート製の官舎-独身寮と所帯持ち用の一戸建て-を建築しました。独身寮は3DK 、所帯持ちの住宅は2階建てで、ダイニングキッチンと6畳間が4部屋ありました。入居費は月1万円にも満たないものでした。(←(^ω^)今や東京では良いとこなら2LDKで10数万するよ)
2)給料は、公務員の給料規定に、危険手当てや特別手当てなどの名目をいっぱい付けて、私立の一般病院に近い給料にしていました。(←(^ω^)私など、前任の私立病院より給料上がったよ)
3)入職すると市庁舎に出向き、市長から辞令書を直接受け取り、市長や市役所幹部と歓談するという「歓迎パフォーマンス」を演出していました。(←(^ω^)パフォーマンスと分かっていても、偉くなったような気がして気分は悪くなかったよ。S先生、痛いとこ、つくねえ)
4)卒後5年以上経つ医者には全員、「医長」という役職(肩書き)を付与していました。(←(^ω^)これまた偉くなったような気がして気分は悪くなかったよ)
5)5年間継続勤務すると、医療視察の名目で、2週間の世界旅行が提供されていました。(←(^ω^)4年で退職したから行かれなかったよ。残念)
6)医局の充実さは目を見張るものでした。
医局には、医師1人ずつに机と本棚があてがわれ、 机と机の間には仕切りが設けてありました。医師は40名ほどいましたから、広さが30~40畳くらいの部屋が2室ありました。各科のトップである科長は個室です。
それに隣接して、テレビや麻雀台、囲碁、将棋盤が置かれた20畳ほどの休憩室、仮眠室2室と当直室(全て個室)がありました。(←(^ω^)麻雀を医者にやらせておけば、医者の待機がただになるよと、S先生は笑って言ってました)
②資金の確保-市から年2億円の助成金を受ける
市立病院なので経営母体は市ですが、市や市議会に働きかけて、毎年2億円の助成金を予算に計上させていました。つまり病院経営を独立採算にして、2億円の助成を市から受けるという形にしていたのです。おそらく、市の過度な介入を防ぎ、病院長のやりたいように運営、経営するためだと推測します。
「医療界が分かってない議員から、公務員なのに給料が高過ぎると追及された」
よく、そうぼやいておられました。
毎年、市議会議員チームと勤務医師チームの親善野球試合を行って、その後に懇親会を持っていました。(←(^ω^)その席では、議員を「先生」と呼んでいたよ)
都合の良い予算を取るのに、議員と仲良くしておこうといったところでしょう。
③病院の所在市(人口7万人)だけでなく、周辺地域一帯(45万人)を診療圏とみなしていました。
そのためにいろいろと画策しました。周辺地域にはない診療科を新病院に造れば、その診療圏では中核的な病院になれると踏んだのです。具体的には、診療圏には無かった20床の感染症結核病棟(⇒豆知識③)を付設したのです。
感染症結核病棟は、私の勤務期間4年で1回だけ使われました。たしか、旅行者の赤痢だったと思います。
④周辺地域の人口と有病率、病院受診患者数を集計して、患者動態を計算する
見せてもらった新聞紙大の集計表には、日付とどの地域から何人の患者がどの病院を受診したかのデータが、事細かに記入してありました。
そのデータから病院を受診し得る潜在的な患者数を割り出し、新設病院の入院ベッド数を決めたのです。
⑤ 外来の初診患者は自分で診る
外来には率先して出て、内科の初診患者は全てまず病院長が診察していました。 入院になった場合や再診以降は、他の医師にその患者を振り分けていました。他の科にも同じ取り組みを要請していました。
ことほど左様に、「再建請負人」の異名をとる大先生は、すご腕の持ち主だったのです。
医業経営を志す医師の方は、これを参考に、良い病院を開業していただければ幸いです。(←(^ω^)くれぐれもお金に疎い(うとい)お医者は開業しない方がいいよ。私の得た教訓)
*豆知識
①公立病院とは、都道府県や市町村などの自治体が運営する医療機関(病院と診療所)をいいます。(自治体病院ともいう)
2011年5月末時点で、全国で4,578施設となっています。2017年時点で793施設のうち、純医業収支で黒字を計上したのは、わずか3%に当たる27施設のみです。
他の97%の赤字公立病院には2016年度では年間5000億円の税金が投入されていますが、お役所体質など経営努力に問題があるため年々税金投入が増額しているなど慢性的な赤字で、経営力や組織が問題となっています。
参照:Wikipedia
②全日本病院協会は、病院の医療の質の向上を目指して昭和35年に民間病院を主体とした全国組織として設立されました。昭和37年9月に社団法人として認可、そして平成25年4月に公益社団法人として認定され、現在、約2,500の病院が加入しています。
https://www.ajha.or.jp/
③感染症法:感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律は、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する措置を定めた日本の法律。感染症予防法、感染症法、感染症新法ともいいます。
従来の「伝染病予防法」「性病予防法」「エイズ予防法」の3つを統合し1998年に制定。その後2007年4月1日、「結核予防法」が統合されました。感染力や罹患した場合の重篤性などに基づき、感染症を危険性が高い順に一類から五類に分類しています。
参照:Wikipedia
〈つづく〉
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