第19話 裸を見る

 医療行為は医者でない者がやれば犯罪になるものばかり。


 素人が他人の膚(はだ)に刃物をあてれば傷害罪が成立しましょう。他人を丸裸にしてワイセツ罪に問われない職業が、他にありましょうか。


 まさに医者は犯罪と隣合わせ。それだけにこの仕事には倫理性が強く要求されるのです。


 医学的には、“見る”は“診る”と書いた方が適切ですが、医者になりたての研修医時代は、まさしく“見る”という表現の方がぴったりときます。


 診察室で先輩の横に付いて、患者を診ます。


 うら若い娘が入ってきました。型通りの問診を終えると、先輩は聴診器を耳にセットします。それが合図のように、背後に付く看護師が、恥じらう娘の服に手をかけるが早いか、パッと脱がせて、上半身を裸にするのです。


 女性の裸を眼前でまじまじと見たこともない私などは、ドキッとして一瞬目をそらしたものです。(←(^ω^)息子よ、起きるな!心の中で叫んでいました。意味分かるよね)


 そして聴診器で聴診したり、手で触診したり、と書けば何の変哲もないのですが、これを医者以外の人がやったら、それこそ痴漢というまぎれもない犯罪となるのです。


 それが時には、性器や肛門など、本人(←(^ω^)独身の場合だけどね)以外は、誰も見たことも触ったこともない秘部にまで及ぶとなると、正直言って穏やかならぬ気持ちになったものです。


 同僚の研修医も、若い女性患者さんの胸を打診するとき、手が震えて、うまく打診できないと、苦笑していました。


 ご存じのように、打診というのは、左の中指を患者さんの身体にあて、右の中指でたたいて、診断するものです。手が震えると、なかなか中指に当たらないのです。


「この先生、しんまいね」


 そう思われたら最後、ますますあせってしまうのです。


 話が少々それますが、老婆心ながらついでに申し上げますと、今まで私が赴任した病院は十指にあまりますが、どこの病院でも、理事長や病院長など、要職にある方には、配偶者以外の愛人が、必ずおりました。もちろん、平の医者も似たりよったりでしょうが、それはあまり明るみに出ることは少ないようで、話題にもなりません。


 しかし要職にある人は別ものです。そこここに噂が飛び交います。


 ひどい場合は、病院内を第1夫人と第2夫人が交互に出入りして、ニアミスまがいの事態も起きていました。職員はどう対応してよいものやら、見て見ぬ振りをしていました。


 またある院長は、夫人同伴と見まがうほどに愛人を連れ、病院に来ていました。


 最初の頃はあまりの堂々たるお2人の振る舞いに、てっきり正妻と思っておりましたが、それが愛人と判明して(というより当の本人が、平気でそれを打ち明けるのです!)びっくり仰天しました。


 純白の衣を着ていて、医師は清廉潔白な職業と思いきや、そちら方面は相当乱れていることを知り、愕然としたものです。


 そういう私も要職に就いたことがありましたが、幸か不幸か1人として寄ってくる物好きはおりませんでした。少しばかり寂しい思いは、正直言って、あったのでございます。(←(^ω^)うんだ、うんだ)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る