第19話 見極める能力
ケイにしっかりと服を着せたあと、俺達は店から出た。
「新しい服、動きやすい……! ありがとう、ますたー」
そう言って嬉しそうにケイが抱きついてくる。
彼女が着用しているのは、短めのスカートだ。ブカブカなシャツよりは何倍も動きやすいだろうし、
……見た目が犯罪的じゃなくなったのがいいな。
前までは裸にブカブカシャツとかいうギリギリな恰好だったし。これなら街中を歩いていても、注目を集める事もないだろう。
ただでさえ、ケイやレインは美人なので人目を引きやすいが、ブカブカシャツの時はとんでなく人目を集めていたし。
ともあれ、そんなわけでケイの服を手に入れるという最初の目的は達成した。だから、乗ってきた馬車の馬が回復するまでは、自由時間だ。
「さて、金も残ってるし、もうちょっと買い物しながら街を巡ろうと思うが、二人はどうする?」
「私はラグナさんと一緒に回ろうかと思います」
「ケイも、レーヴァテインに同意」
「そうか。じゃあ、三人で適当に街を歩くか」
そのついでに、この町に伝説の武器に関する情報がないかつかめれば御の字だ。
そんな事を思って、服飾店のあった通りから出て、大通りに向かおうとしたのだが、
「もしもし。そこのお嬢様? 当店をご覧になっていきませんか?」
その途中で呼びとめられた。
「うん?」
声が来た方を見れば、服飾店から少し歩いた場所にある露店にいる男が、顔に張り付けたような笑顔でこちらを見ていた。
……あれ、こんなところに露店なんてあったっけか。
この通りはデバッガー時代でもよく通ったのだが、この露店について、俺は知らなかった。
なにせ更地だった場所だ。現実では使用されているらしい。
……売っているものは、アクセサリ系か。
露店のテーブル上にはいくつもの宝石や、指輪、ネックレスなどが置かれている。
そういえばゲーム中でもイベントで、行商人が露店を開く事もあった。
たまに商人がバグって消えて、デバッガーとして動き回ったのはいい思い出だ。
この店も、その類だろうか、と思っていると、
「どうですか、お嬢様。当店の品ぞろえは。良いものばかりでしょう」
露店のテーブルの奥に控えていた主がひょこひょこと俺の横まで近寄って来た。
「見ればずいぶんと、お嬢様がたに対して羽振りがよろしいようで。当店の品物もプレゼントにぴったりなのですが。幾つか、いかがでしょうか」
洋服の入った袋を抱えているケイを見てそんな事を言ってきた。
完全に営業モードに入っているらしい。ただ、値札を見るに、一つにつき、数千から数万はするようだ。だから、
「あいにくだが、今はそこまで手持ちは無いぞ?」
そう言ったら、露店の主はニコニコ顔のまま首を横に振った。
「ああ、大丈夫ですとも! 当店では現金払いして頂ければ、大幅に割引致しますし、下取りも可能ですので、どうぞご心配なく。ええ、例えば、そちらのお嬢様には、このアクセサリがよろしいかと思います」
そうして彼がテーブルから手に取ったのは、銀色のブレスレットだ。
「これは、大陸の奥地で算出した一級品の魔石を加工したブレスレットとなっております。なんと装備するだけで物理的な防護力が上昇するという恐るべき効果を持つのです!」
「へえ……物理防御アップで恐るべき効果、ね」
俺の衣服なんて物理防御倍化のスキルが付与されているが、どうやら現実では物理防御アップだけでも凄まじい効果らしい。
なるほど。こういう所で常識を学べるのは有り難いな、と思いながら俺は店主の営業トークを聞き続ける。
「お値段は本来五万ゴルドはしますが……今回であったのも何かのご縁! ここでご成約していただければ……なんとの一万ゴルドまで値引きさせていただきますとも!」
「八割引きとはサービスがいいな」
「旦那様は運がいいんですよ。ええ、ここだけの話ですからね……!」
店主はニヤニヤとした笑いを浮かべている。確かに八割引きというのはとても魅力的に聞こえる。ただ、
……大体こういう安売りは信用できないんだよな。
だから俺は確かめることにした。
「ちょっと手で触れてもいいか?」
「勿論でございますとも! この感触、味わってくださいませ!」
店主からの許可も得られたので、俺はブレスレットに少し触れた。
それだけで、俺にはわかってしまった。
「あー……うん。これは良くないな」
「良くない……とは?」
「買えないって意味だ。これ、ただの鉄のブレスレットじゃないか」
何せ俺が触れた瞬間、いや、触れるまでもなく、
【クズ鉄のブレスレット レベル一】
という名称が見えていたんだから。
ステータス看破が発動している俺の目には、どれもがレベル一の、換金用ゴミアイテムであることが視えていた。
念のため、自分の鍛冶スキルを発動させて確認もしてみたが結果は一緒だ。
これは初心者が狩るような低レベルモンスターが落とす、換金用ゴミアイテムだ。
とても、レインにつけさせるようなアクセサリではない。
その考えのもとに、言葉と商品をつき返すと、商人は口元を引くつかせ始めた。
「失礼ながら、お客様。刻印されているブランド名をご存じないのですか? 鍛冶で有名な都市、アイゼンシュタッドの一流企業、『ブラス』社製ですよ?」
「ブランド名は知らん。だが、そんな名前で判断するよか、俺のスキルの方が信用できるし、それで大体わかったっていうだけだ。ただのクズ鉄の腕輪だってな」
そもそもどんなものであれ、魔石を使えばレベル二以上の装備になる。
だから、ただの鉄の腕輪としか判断できない。というか、鍛冶スキルを使っている今なら分かる。
「このテーブルの上にあるモノ、全部レベル一のアイテムじゃねえか」
「なっ……ぜ、分かる……!」
露店の主はわなわなと震えながら後ずさった。本当に驚いているようだ。
「何故ってまあ、運営の力もあるが、鍛冶スキルってやつだ。装備品に触れれば善し悪しは分かるんだけどな」
「え……? スキルだけで、そこまで分かるんですか、ラグナさん」
俺の言葉にレインは眼を丸くしていた。
驚くのも分かる。
本来、鍛冶師スキルは自分の所有物のレベルや状況しか分からない筈なのだが、この世界だと市販の装備でも触れれば分かってしまうようだった。
「ブランドの名前とかに誤魔化されたりしないとか、ますたーの目利きは最高だね」
「ええ、本当に凄い、ですね。鍛冶スキルがそこまでの効果が出るとは……」
「能力的に運営のステータス看破と被っているけどな。でも、有効活用できそうなのは確かだ」
言いながら、悔しそうに歯噛みをしている露店の店主を見やった。
この力があれば、装備系の店で騙される事もない。
どうやら俺のスキルの使い道は、どんどん増えていっているようだ。そして、
「さて、偽物を売りつけようとは。どういう事か聞いてもいいかな。店主さんよ」
このスキルのお陰で、詐欺をやらかそうとした犯罪者にひと泡吹かせられそうだと、そう思うのだった。
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