第16話 新たな情報と新たな場所へ
「んぐ……ますたーが作った朝ごはん。美味しい」
「ああ、そりゃ、どうも」
腹が減っているというケイに、朝食を食べさせながら、俺とレインは彼女から話を聞いていた。
「それで、ケイ。君はどうやって人化したかとか記憶にないか?」
まずはそこだ。
なぜ武器である彼女たちが人化しているのか。その理由に繋がるんじゃないかと思って尋ねてみたのだが、
「そこは、ない。いつの間にか、この姿になっていたから」
「そうか。そこはレインと同じで、人になった瞬間の記憶はないのか……」
「いえす。……でもそこの剣――レーヴァテインとばかり話していて羨ましいって思っていたのは事実」
ケイは机に立てかけてあるレーヴァテインと、俺の隣に座っているレインを続けて見ながら言ってくる。
「必要にされていて良いなって、思いを抱き続けていたら、こうなってた記憶がある」
「なるほど。……というか、武器時代のレインの事は知っているんだな」
「いえす、ますたーに使われていた時から、武器同士で通じ合うものがあった。ね、レーヴァテイン」
「そうですねえ。ケイさんとは同時期に鍛えられ始めましたから」
「確かにケリュケイオンとレーヴァテインを育てていたのは同時期だったっけな。仕事で忙しい時期と重なって、とにかく効率的に素材集めと鍛錬を繰り返していた……ような……記憶が――」
そこまで考えて、俺は気付いた。
俺の現実の記憶、微妙に戻ってきていることに。
……この前までは、仕事の状況なんて思い出すことはなかったのに。
なのに今では戻ってきている。
何がきっかけだろうか。
……そういえば天魔王ユングを倒す前にも、ちょっと記憶が戻ってきていたよな。
その時にやった行動といえば、武器であるレーヴァテインに触れた、あるいは、レインを抱きしめたくらいか。
確かに、レインやケイに触れていると、頭の奥底をくすぐられているような感覚もしていた。
もしかしたら彼女たち伝説の武器に触れると、俺の記憶にいい影響が出るのかもしれない。
なんて思っていたら、
「あ、あの、ラグナさん? 何か考え込んでいらっしゃいますが、大丈夫ですか?」
「ますたー、だいじょぶ?」
レインとケイが二人して仲良く、俺の顔をのぞきこんできた
「ん? ああ、平気だよ。気にしないでくれ」
「そうですか? あんまりご無理をなさらないでくださいね」
「レーヴァテインの言う通り。無理したら、ダメだよ、ますたー」
そして武器二人は息を合わせたように心配の言葉を口にしてくる。
随分と仲がいいようだ。先ほども武器にしか通じない言語があると言っていたし、人の姿を持っていない時代にも交流があったんだろう。
「まあ、なんにせよ、新しい情報を貰えるのは有り難いな。ケイ。もう少し話を聞いてもいいか?」
「いえす。ますたーが欲するなら、なんでも聞いて。答えるのが、ケイの望みでもあるから。……それで、何を聞くの?」
「ああ、幾つかあるんだけどな。……何故、俺がレインの元に流れ着いたか、知っていたら教えてくれ」
記憶を失う前から持っていた彼女に聞けば分かるかもしれない。分からなくても手掛かりがあるかもしれない。
そう考えて質問した。
すると、ケイは数秒間を目つむって、何かを考えてから、
「そこは……ケイにも分からない」
首を横に振った。
「ケイはますたーに育てられて……気づいたらマスターとレーヴァテインの所にいたから」
「そうか……」
「でも、ますたーが喋っていた言葉は覚えているよ? 『今日もデバッグだー』とか『所長のやつ、明らかにおかしなシステムにしやがった、とか」
「……そう、だな。そんなことも言っていたっけな」
それも思い出せる。ケイと喋っているだけで、デバッグプレイヤー時代に加えて、少しだけ現実のことを思い出せてきた。
俺は先ほどの考えを改めて実感した。
「俺は君たち伝説の武器と喋れば、昔の記憶が戻ってくるみたいだな」
「え、ええ!? ほ、本当ですか、ラグナさん!?」
「あくまで感覚的なものだけどな。それでさ、レイン。ケイ。君たちがここにいるってことは、他の伝説の武器たちも、この世界にはいるんだよな」
そう言うと、レインとケイは顔を見合わせてから、揃って頷いた。
「ええ……と、はい、いると思います。ほんのりとしたモノですが、私たちは他の伝説の武器の存在を感じとれるので」
「いえす。ますたーが育て上げてますたーの名前をタグ付けされた武器は、ケイにもちょっとだけ感じ取れる」
「おお。ありがとう。それだけ分かれば十分、今後の方針を決められる」
他の伝説の武器があるというのであれば、それに触れていけば、俺が記憶を失った原因を掴めるかもしれない。
それだけじゃない。伝説の武器の状況が分かれば、彼女たちが人化した理由や、天魔王が復活している理由も分かるかもしれない。
「……だとすると当面は、他の伝説の武器を探すための情報集めをしてもいいかもな」
「これだけの情報しかないのに……相変わらず、判断が早いですね、ラグナさんは」
レインはそう言って安堵するような笑みを浮かべてくる。
今後の方針を固めただけなんだがな、と苦笑していたら、
「くしゅんっ!」
毛布にくるまった状態のケイがくしゃみをした。
「ありゃ。ケイ、寒かったか?」
「のー。毛布の綿毛がくすぐったかっただけ」
「ああ、そっか。……でも、ケイの服がないんだよな」
この家にはレインと俺の衣服しかない。
俺が目覚めた時に着ていた服には《汚染防護》スキルがセットしてあり、汚れの類を完全に弾くので、基本的に着回し出来る。そして、レインと体格が似ているのでレインの服も多少は着ることが出来た。
そのせいで昨日は、ブリジット達に女に勘違いされたが、なんにせよ着れるのは事実だ。
更には、この辺りのモンスターを倒してドロップした防具もいくらかある。
だが、生憎とケイの体格に合いそうな服は無かった。
「とりあえず今は俺のシャツでも羽織ってもらう事にして……レイン、服って街で買えるよな」
「ええと、はい。ブリジットが商店を開いてますし、そうでなくても、店はいくらかあるかと」
ならば、今日の予定は決まりだな。
「街まで早く行けるっていう馬車の調子を確かめつつ、街で何かと調達してこようか」
「は、はい、了解です。ラグナさん!」
「ますたーとお出かけ! 楽しみ!」
情報収集も兼ねて、俺はレインやケイと共に、街へと繰り出すことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます