卵焼きのハートマーク

学校から帰ると必ず美味しいごはんが用意されていた。

洗濯物も綺麗に畳まれていて、掃除も定期的に行われている。

可愛くて、家庭的で、一緒にいると楽しくて、理想的な彼女。ただし、彼女が幽霊であるという点をのぞいては。


「あのぉ、さぁ。」

「なに、どないしたん?」

完璧に焼かれた卵焼きに伸ばした箸を止めずに彼女が聞いた。

美しい黄金の上に真っ赤な液体をぶちまける。

「なんなん、ケチャップのかかった玉子焼き好きなんやから別にええやろ?私が作ったんやし。」

そろそろ慣れてきたけれど、薄味の甘くない彼女特製の玉子焼きに醤油でもポン酢でもなくケチャップをかけるのが彼女なりの流儀らしい。

「いや、そうじゃなくて。昨日さぁ、なんか、ほら、俺、変なこと言わなかった?」

「ん?なんのこと?」

「いや、気にしてというか覚えてないならいいんだけど。」

宅配したピザをまさかクラスの友人が持ってくるというイレギュラーがおこるとはまさか思いもよらなくて


変な汗を流しながら回想する

「『彼女』ここにいるの?」って聞かれたよな。

「いない」って答えたよな

「『彼女』可愛い?」って聞かれたよな

「うん、可愛いよ」って答えたよな。


俺、いつ告ったっけ?

いつから彼女だっけ?

思い上がりも甚だしいだろ。こんな綺麗なお嬢様と同居させていただいているだけでも奇跡であるのに

そもそも俺が見える人でなかったら、彼女が幽霊でなかったら見向きもしてもらえてないのに

「どないしたんよ。一人で青なったり、赤なったり、変なもんでも食べた?」

そうだね、いっそ食べさせてくれればよかったかな。

「昨日、ここに可愛い彼女がいるってあいつに言っちゃったじゃん。あれ、どう思った?」

「どうって、なにも、わかってると思うけど私、死んでるで?」

「それでもいいって言ったら?彼女になってほしいって言ったら、どうす・・・」

「嫌や。」

最後まで言い切りもしないうちから撃沈した。

当たり前か。美女と野獣、いやあんなにがっちりしてねぇぞ俺。美女とシマウマ。


「そんななぁ、卵焼きになにかけるかで討論したがるような小物と付き合いたないねん。ええから、はよ食べて。遅れんで。」


半笑いで言われて

やけになってご飯をかきこむ。

ちょっとだけ、本気だったんだぞ。



彼女は沈黙に耐え切れなくなったのかこう切り出した。

「なぁなぁ、見てこれ。」

「うん?」

俺の告白のことなど1ミリたりとも気に留めず、笑顔で自分の皿に乗った卵焼きを指さして笑った。

「萌え萌えキューン💛」

ハートマークをケチャップで描き、自分もキューンに合わせて手でハートを作って胸の前でポーズを決める。

唐突すぎるボケに俺が硬直したままでいると

「どう?」

と感想を催促された。


からかうの、いいかげんにしろよ


何も言わずににらみつけて席を立った。

俺が初めて怒ったから

彼女の顔からは笑顔が消え、おびえて顔がこわばっている。

「ご、めんなさ・・」

ついて出た謝罪の言葉も聞かず俺はリビングを後にする。


「ごめんって、なぁ、もう怒らんといてよ」って笑って追いかけてくると思って

玄関のドアの前で待ってみてたんだ。

だけど物音ひとつもしない。

送り出すときに持たせてくれるお弁当の入っていないかばんはやけに軽くて、今日はコンビニか学食で買って済ますと

そこまで非情にはなれなかった。


リビングに戻ってみても彼女の姿が見つからない。

もしかして、

最悪の事態が頭をよぎった。

「さりな!」

あぁもう、なんで怒ってしまったんだ

わかってただろう、顔面偏差値が違いすぎるんだよ

ってそこじゃないか

身分違いの恋が破れたからって逆切れして彼女を失うなんてそんなの

「くそ、出て来いよ!」

テーブルを叩いたこぶしがじんじんと痛むよりももっと心が痛かった。



いったら、いってしまったら、もう二度と会えないんだって。

死ぬまで



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無駄にお料理上手でごめんなさい 花恋 @Kaya-kazuha

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