ピザ、宅配で。

「ちわーっす。ピザ屋でーす。」

インターホンの向こう側から聞こえる陽気な声に反応してばびゅっと玄関へ彼女が飛び出した。

配達ピザを食べたい。

彼女のささやかな夢だそうで。

少々値は張るもののここは笑顔でなんでも頼んでいいんだよとネット注文をさせた次第であった。

「よう。」

ドアを開けたその先でピザをかかえて待っていたのは見知った顔だった。

まさかクラスの親友がこんなところでバイトをしてるとはね

「ご注文のMサイズピザとセットのポテトとデザートでーす。」

「はい、どーも。」

受け取ったピザの箱はまだ温かく俺のすぐ隣に立つ彼女が早く食べようと服の袖を引っ張った。

「で?」

親友くんはなにかたくらんでいるかのようなしたり顔で玄関へ足を一歩踏み入れて部屋を見渡した。

「ん?」 

「誰と食べんの?カップルセット。女の子でしょ。じゃないとお前デザートなんかくわねーじゃん。」

あぁ、めんどくさいことになった。

こういうときうまくサッとかわせたらいいんだけどな。図星をつかれた今、うまい言い訳が見つからずに変な沈黙が流れてしまった。これでは彼女がいますと言っているも同然だ。

「なんで言ってくれなかったんだよ。」

ちゃんと紹介してくれるまで帰ってやらねえぞとばかりに玄関に仁王立ちする彼をどうしたものか。


「中にいるの?」

「ううん、まだ。今から来んの。」

ほんとうはすぐそばにいるんだけどね。同居してんだけどね。

「可愛い?写真は?」

「ないよ。かわいい・・・けど。」

撮りたいけどね。写るかどうか、もし写っても俺以外には見えないだろうから。


「なーぁー、はよしてぇやぁ。お腹空いたでー。」

友人が自分に気づいていないことを良いことに、足元ではねまわりやがって。

小犬か、お前は。

ピザの独特な香辛料の香りが玄関に充満するころ、友人がふいに真顔になって俺の足元へ視線を落とした。

完全に、見えているのか、ピンポイントに彼女を見下ろしている。

「お前さぁ、変なのは、やめとけよ?」

刺すような冷やかな口調。

うわっちゃぁ、このいちゃつきはさすがにはずいわぁ。

って、そこじゃないわ。

まずもって、見えてんのか?

「ちゃんと、彼女、見せろよ。」

意味深な言葉を残して、家を出て行った。


***


見えていないと思っていたからふざけていたのに、もしも見られていたのならちょっと気まずい。

見えてたんだろうか。それともヤマカンだろうか。

「やっとやぁぁぁん。あのこ、はなし長いわぁ。せっかく熱々で来たのに、冷めてまうやんか、なぁ。」

とても待ちきれないと、テーブルにおくやいなや蓋を開ける。

そこに待つのは、定番のトマトソースピザと照り焼きソース。

どちらもチーズがたっぷり1ピースの境目がわからないほどトッピングされている。

伸びるチーズに目を輝かせながら、そおっと一口ほおばる。

頂点から?いやいや、みみから。

なんでって。美味しいのはさいごにとっておくタイプだから。

パリッとした淡白な小麦の味わい。

本来持つべきところから食べ始めるのだから、そりゃあ手は汚れるさ。オリーブオイルとトマトソースとチーズと具のなんやかんやで、ぐでぐでになったって気にしない。

そうすればほら、1口目より2口目、2口目より3口目がさ、だんだん美味しいほうへ向かっていくんだ。

最後のほうなんて生地よりも具が多いぐらい、あぁもうこのひとくちを飲みこんでいる時間さえ惜しい。

「あ。」

大事に取っておいた頂点にそびえたつ多くの具が自らの重みに耐えかねて、手からこぼれおちた。

楽しみにしていたところだったのに。

それを見て彼がケラケラ笑った。

「あ、ちょっとそれ!」

私が今ほど落とした具がのったピースを横取りされる。

「ずるいで。美味しいとこばっか食べて!」

「落としたほうが悪いんじゃん。」

「なんやて?」

ひとりじめしたいくらい美味しいけど、君が隣にいてくれるからこんなにもあったかいんだ。

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