都市を焼く光

 都市部への着弾。


 それは本当に一瞬の出来事だった。


 拒否はできなかった。命令は絶対だった。


 アーシュオン本土からの迎撃ミサイルに期待もした。しかし、通常の軌道から大きくかけ離れた動きをしていた四発の弾道ミサイルは、まともな抵抗を受けることなく弾頭を分離させてしまった。


 いっそのこと、陸上にもさっきのような歌姫セイレーンがいてくれたら――ヴェーラは最後までそう願った。だが、実際には何一つ有効な迎撃を受けず、四十もの核弾頭がアーシュオン本土の広範囲に炸裂した。一発一発の威力はさほど大きなものではなかったが、それでも都市一つを蒸発させてしまうのには、十分すぎる破壊力だった。


 弾頭の大半は山間部や湾岸に炸裂して地形を変えたにとどまったが、その轟々たる爆炎や放出されてしまった放射線は、着弾地点の周辺を手酷く汚染した。


 残りの弾頭は、六つの都市にて炸裂した。ザインズ、アルハバク、エケロン、エーデリア、要塞都市ジェスター、そしてトゥブルク……である。


 ザインズは人口五万の小さな漁村だったが、直撃を受けて文字通り蒸発した。アルハバク、エケロン、エーデリアは内陸の商業都市だったが、人口密集地であったこともあって、三都市で死者は三百万を超えたという情報があった。要塞都市ジェスターは軍人の被害はほぼゼロであったが、数万人の民間人のほとんど全員が死傷した。基地施設も多くが被害を被ったが、シェルターや基地司令部は全く無傷だった。


 最も悲惨な結果となったのが、要塞都市ジェスターのベッドタウン、トゥブルクであった。トゥブルクには三発もの弾頭が着弾し、その核の威力で、住民の大半が影も残さず蒸発してしまった。避難勧告も全く間に合うことなく、トゥブルクの住民のほとんどが死亡した。無傷の住民など、皆無だった。


 それぞれの都市の、地獄絵図。


 ヴェーラはそれをつぶさに見てしまった。


 ヴェーラは最後の瞬間まで何とか弾道を逸らそうと試みたのだ。だが、その結果、トゥブルクには集中的に着弾してしまうこととなった。誰かを救った代わりに、トゥブルクを始めとする六都市の住民を焼き殺してしまったのだ。


 それをのだ、ヴェーラは。セイレネスによって鋭敏になった感覚で、その一部始終を体験したのだ。核の光が地上を照らし、熱線によってあらゆるものが焼き払われ。続いた衝撃波によって根こそぎ薙ぎ払われ。熱による溶解を免れた人間たちは爆風によって肉片と化した。吹き戻しがさらに地上を洗い、おおよそ全ての建築物や遺体を洗い流し、天高く吹き上げた。


 全身を焼かれ裸のまま焼けた地面を彷徨う者。水を求めて川へ向かい、飛び込んで絶命する者。その川には無数の人々が浮かび、死んでいた。家族を探す声、痛い痛いという力ない叫び声。人の姿には到底見えなくなってしまった人々の群れ。


 ヴェーラもレベッカも、その全てを見て、そして聞いた。


 呪詛の咆哮。


 あるいは。


 呪いの慟哭。


 ヴェーラとレベッカは、焼けた地上に立っていた。地獄の只中で、手を取り合いながら呆然と立ち尽くしていた。吐き気をもよおす臭いに晒されながら、微動だにせず。ただ、じっと見つめていた。


『任務完了、だ』


 エディットの声が脳内に響いた。


 ヴェーラはレベッカを見た。レベッカもヴェーラを見る。


 レベッカは泣いていた。声もなく、切れるほど唇を噛み締め、嗚咽していた。


「エディット、教えて」


 ヴェーラは分厚い死の雲に覆われた空に向かって尋ねた。


「わたしは、何を、したの?」


 何をして、しまったの――?


 ヴェーラの目からは、涙は流れなかった。


 乾いてしまっていた。


 すっかり、心が干上がってしまっていた。

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