premonition

 あれ?


 ヴェーラは違和感を覚えて目を開けた。すぐ目の前、今にもキスしてしまいそうなほど近くに、レベッカの寝顔があった。


 昨日はあのまま寝ちゃったんだっけ?


 今一つハッキリとしないけど……。


 ヴェーラはレベッカを起こさないようにゆっくりと身体を起こし、枕もとに置かれていたデジタル時計の表示を確認した。ちょうど今、午前五時になったところだった。遮光カーテンで窓を封じられた部屋はほとんど真っ暗である。


 なんだろう、このザワザワする感じ――。


 ベッドの端に横座りして、ヴェーラは意識を集中してみる。ほんの微かに残っていた眠気の雲が急速に晴れていった。


 ぞわり――。


 何かに足首を掴まれた。


 何かが耳元でキィキィと囁いた。


 そんな名状し得ない感触を覚えた瞬間、階下で電話が鳴った。エディットの携帯端末への着信だということはすぐに分かった。呼び出し音は一秒と経たずに切られ、すぐに緊張を孕んだエディットの声が聞こえてきた。もちろん、階下の、それもエディットの私室で発生した音など普通は聞こえない。エディットの私室は、怒鳴り声でさえほとんど漏れない程度には防音が効いているのだ。だが、今のヴェーラの聴覚は、その声の持つ緊張感すら把握できるくらいに鋭敏になっていた。


「何かあったみたいね」

「うきゃっ!?」


 いきなりのレベッカの声に、ヴェーラは文字通り飛び上がった。いつもならそんなヴェーラにツッコミの一つも入れるレベッカだったが、今日はそのプロセスをスキップした。素早くベッドから出て、ハンガーに掛けられていたガウンを取って羽織る。ヴェーラは長袖のパジャマのままスリッパをひっかけて廊下に出る。廊下の空気はしんとして冷たかった。ヴェーラは思わず自分の肩を抱き、レベッカはそんなヴェーラの背中に毛布を被せた。そしてヴェーラを押しのけて、階段の上から階下を覗く。


「エディット、どうしたんですか?」

「あら、起こしちゃった?」


 エディットはちょうど玄関にやってきたところだった。エディットはレベッカの姿と、その後ろに隠れるようにして様子を窺っているヴェーラを確認して、目を細めた。


「呼び出しですか?」

「そ。緊急事態ってやつよ。あなたたちはまだ寝てて良いわよ」


 エディットは玄関の鏡で髪型を最終チェックすると、そのまま流れるような動作で寒空の下へと出て行ってしまった。オートロックが作動して、がちゃんと鍵がかかる。


 レベッカは後ろにいるヴェーラに問い掛ける。


「ヴェーラ、よね」

「うん、


 即答するヴェーラ。二人は顔を見合わせて、険しい表情で頷き合う。ヴェーラはかすれた声で呟いた。


だ――」


 その数秒後――。


 その子守歌のように揺蕩たゆたう緩やかなは、何の前触れもなしにへと変わった。

 

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