#05-2:思惑
黄昏の海と空
ヤーグベルテの誇る第七艦隊旗艦・航空母艦<ヘスティア>の司令官席からの眺めは最高だった。最高だといっても、今見えるのは一面の海だけだ。海だけなのだが、海は、そして空は実に様々な表情を見せる。視界の右端の方の空が、黄昏色に染まり始めていた。まもなく夜になり、そして明け方を迎える前には――クロフォードの読みが正しければ――アーシュオンの潜水艦部隊と一戦交えることになるだろう。
「目に焼き付けておくとするか」
クロフォードは美しい夕暮れの空と海を目を細めて眺めている。誰もいないこの静寂の空間を、クロフォードはこよなく愛していた。だがひとたび戦闘が始まれば、この部屋の真下にある
「計画通りではある、か」
窓の近くまで歩いていくと、眼下には露天駐機された戦闘機たちの姿が見えた。日没を前に、忙しく動き回る整備兵たちの姿も数多くあった。
フェーンはあの子たちを、
「アダムスもルフェーブルも、そこまでは知らんだろう」
あんな代物を、いったい誰が考えたのか。そして俺はいったい誰と戦っているのか。
「神だか悪魔だか知らないが、よくもこうも悪意に満ちた物語を考えつくものだ」
誰のための戦争であり、誰のための
いや、或いは――。
救世主?
もしかすると、この世界を完璧に滅ぼそうとしているのかもしれない。そんなことをふと思う。もしそうだとすれば、そいつはクロフォードが持ち続けてきた願望を満たしてくれる者であるのかもしれない。
完全なる滅びは、完璧なる救済である。士官学校にいた時分から、そんなことを幾度となく考えてきていた。そして世界は何度も滅んでは、そのたびに少しずつ形を変えて繰り返してきているのではないのかとも。まるで生命の進化のように、だ。
かの哲学者ニーチェが自分自身を投影したツァラトゥストラに語らせた世界原理は、実はある程度は世界の真実を言い当てていたのではないのかと、クロフォードは考えている。永劫のくりかえしの中で、誰もが気が付かないほどに小さな変化と淘汰を繰り返して、世界は何かに成ろうとしているのではないか、と。
妄想か。妄想だな――。
クロフォードは黄昏の残滓を眺めながら、溜息を吐いた。
だがいずれにせよ、彼らには見物料は支払ってもらわねばなるまい。滞納分の利子も合わせて。その見物席は、決して安全ではないのだということを、彼らにはそろそろ認識してもらわなければならない。あれだけの事をされたにも関わらず、未だに
「
クロフォードは俄かに暗くなり始めた空を見上げながら、昏い微笑を浮かべた。
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