セイレネス・ロンド(2)/歌姫は壮烈に舞う

一式鍵

#00-プロローグ

#00-0:アウフタクト

黄昏の空にて。

 狙うは『空の女帝』――。


 戦闘機にとって、戦場の空はとても狭い。右手に操縦桿を握り、左手で仮想キーボードを叩きながら、青年は目を見開いて空を探査する。HUDに次々と敵味方の機体情報が表示されては、爆炎の中に消えて行く。


 目標は真紅の戦闘機。ヤーグベルテの守護神、


「いた……!」


 青年は歯を食いしばる。純白の戦闘機が、宵闇に落ちかけた空をきらめきながら駆け上がっていく。上空で待ち構える真紅の戦闘機が、悠然とフレアを撒き散らす。空が白色の閃光に覆われ、やがて爆炎の熱量に飲まれた。


「当たるはずもない、か」


 青年はミサイル発射スイッチから手を離し、薄い笑みさえ浮かべてみせた。『空の女帝』は、多弾頭ミサイルの一発や二発で落ちる相手ではないのだ。


 『空の女帝』の真紅の機体は上空を殊更にゆっくりと旋回した。まるで青年を待っているかのように。彼女は流暢なアーシュオン語で言った。


『久しぶり、

「――そうだな」


 通信回線が奪われていた。だが、そんな事すら、『空の女帝』の前では驚くに値しない。余裕、なのだろう。


『アタシを殺せば、あんたは助かる。そういうわけか』

「……そういうことだ」


 それ以外に、助かる道はない。


『良いだろう。だが、アタシは手を抜かない』

「望むところ」


 白皙の猟犬と呼ばれた青年は、一人頷いた。


「始めよう、カティ・メラルティン」

『……そうだね』


 空の女帝――カティ・メラルティン――は、静かに応じた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る