NEXT第31話 フーカの正体
ゴンザレス太郎のパンチによる一撃は冥を吹き飛ばす。
そして追撃に走ろうとした時であった。
『図に乗るな!』
今まで世界中にばら蒔いていた威圧の篭もった意思をゴンザレス太郎に向けたのだ。
その瞬間ゴンザレス太郎は動けなくなる。
極限突破による強化ですら身動きどころか呼吸すら辛くなる程の威圧を直に受けたのだ。
そう、これこそが観測者自体の力である。
そして、気付く…
「がっあ…?」
冥を殴り付けたゴンザレス太郎の左腕が無かったのだ。
吹き飛んだ先から冥は地面に落ちる事無く宙に浮き、そのままゴンザレス太郎の元へ宙に浮かんだまま戻ってくる。
物理法則など完全に無視して冥はゴンザレス太郎の目の前に降り立つ。
そして…
『これは良いプレゼントをありがとう…』
顔に痣が1つ出来たのみで冥は微笑みを向ける。
そして、その口からそれは発せられた。
『スキル『プロアクションマジリプレイ』発動』
絶望の底から更に突き落とされた様にその場に居た誰もがこの世の終わりを確信した。
ゴッドウエポンの細胞をもつ冥はゴンザレス太郎の腕を殴られた時に取り込み、その細胞からスキルすらも取り込んだ。
そして、目の前で最後のチャンスに賭けた不意打ちも無効にされる。
『ふむ、これは凄いな!』
そう言い冥の体からスキル封印が解除される。
更に…
『まだ思考を巡らせてるみたいだからこんなのはどうかな?』
動けないゴンザレス太郎の目の前で冥は使用するコードを読み上げる。
『コード『HP減らない』発動!」
それはこの場にいる全員のHPが減らなくなるコード。
これにより不意打ちでも冥にこれ以上のダメージは与えられなくなった。
だが更なる絶望が舞い降りる…
『そして、コード『限界突破』発動!』
冥の体から発せられていたエネルギーが更に莫大に膨れ上がる。
それは冥にとってこの世界で出せる力には限界があってそれを解除されたのだと理解させられた。
その瞬間、ミリー、ダマ、サラの3人の意識は刈り取られた。
いや、この場所だけではなく世界のすべての人々だけでもない・・・
この世界の魔物から微生物まで命を持つ全ての生き物の意識を刈り取った。
『君には本当にお礼をいくら言っても足りないよ』
先程までと違い威圧は放たれていない、それでもゴンザレス太郎は意識を保つだけで精一杯であった。
その意識を保つためだけに今も極限突破による魂の消費は続きその体からもうすぐゴンザレス太郎の魂が完全に消え去るのを現す光が飛び出し始めていた。
動く事も口を開くことも出来ず命を燃やし続け耐え続けるゴンザレス太郎。
そして…成った!
「スキル『タイムリープ』発動!」
『えっ?』
冥の威圧から除外されていた唯一の存在のフーカが冥の後ろに立っていたのだ。
全てはこの一瞬の為であった。
ゴンザレス太郎が自らの左腕を捨てて冥の意識を自分以外から外したのも、最後の最後まで諦めなかったのも全てはこの一瞬の為!
ゴンザレス太郎の一撃により吹き飛ばされた冥の意識がゴンザレス太郎に向いている間にサラはフーカに『オールキュア』を使用し意識を戻させていた。
そして、気付かれない間にゴンザレス太郎から貰ったユニークスキル『一刀両断』でフーカの『転生タイムリープ』を『転生』と『タイムリープ』に分断!
後は無力化されていると思っていたフーカが冥に気付かれないようにゆっくりと、自身の力に溺れている冥に背後から近付き触れるのが3人の計画であった。
どういう理由かフーカのみ威圧の対象外にしていた冥の唯一の失態であった。
『き、きさま・・・ら・・・』
冥の体が消えていく。
極限突破で動けないがフーカはゴンザレス太郎から魔力を譲り受け冥を遥かなる未来へと送りつけていた。
フーカの使用した『タイムリープ』は直訳通り『時間跳躍』である。
それはこの宇宙が終わる瞬間、実に不可説不可説転を超える年数の果て・・・
どれ程抵抗力があろうと、どれほどスキルを持とうと、どれだけ他の生物の強さを取り込んでいようと宇宙が消滅すると共に一緒に消滅するしかないのだ。
「勝った・・・」
ゴンザレス太郎が仰向けに寝転がる。
もう魂が殆ど残っていないのだろう、ゴンザレス太郎の体は透けていた。
極限突破は既に解除しているが元々ゴンザレス太郎の魂はバグとの戦いの時に残量が殆どない状態まで消耗していたのだ。
「タツヤ・・・」
フーカが悲しそうな目をしながら横に座り込む。
その手を握ろうとするが既にゴンザレス太郎の体も消滅を始めておりその手はすり抜けた。
「ははっ・・・流石にもう終わりみたいだ。」
「いや!だってまだ・・・」
「沢山、色々・・・本当に色々あったなぁ・・・」
ゴンザレス太郎が空を見上げならが呟く・・・
フーカの目からは涙が止まらない。
サラも離れた場所でミリーと共に地面に座り込み泣いている。
ゴンザレス太郎に残された時間は殆ど無いのを誰もが分かっている。
「楽しかった・・・」
「私も、タツヤに会えて・・・本当に楽しかった・・・」
手がすり抜けているがその場所を包み込むようにフーカ両手でゴンザレス太郎の手を挟む様に包む。
触れてないのにぬくもりを感じた気がしたゴンザレス太郎はゆっくりと目を閉じる。
「たつ・・・や?タツヤ!」
返事はもう返ってこない。
時期にゴンザレス太郎の姿も完全に消滅するだろう。
フーカは今まで一度も口にしなかったその言葉を遂に言う・・・
「本当に愛していたわ、タツヤ・・・」
その時であった。
世界を威圧が包み込んだ。
信じたくない、認めたくない、ゴンザレス太郎が命を賭けて最後のチャンスに賭けたのに・・・
そう、フーカの前にそいつは姿を現わした。
『くふふふふ・・・無駄な抵抗だったな』
冥である。
もうゴンザレス太郎は動かない。
冥に対して何も出来る人間は居ないのだ。
「な・・・ぜ・・・」
今度はフーカも弱くだが威圧を受けており口を開く事しか出来ない。
そんなフーカの言葉に嬉しそうに冥は口にする。
『私は観測者、時の流れを減速させる力が在る。』
その場に居た誰も意味が分からなかった。
唯一それを理解できそうなゴンザレス太郎は既に事切れている。
『まだ思い出せないみたいだな、時の流れとは一定の速度で常に流れている。それを減速させていき0にすれば時を止める事が出来る。そして、マイナスにすれば時間を蒔き戻す事が出来るのだ』
そう、これが冥の持つ最大の力であった。
時間を減速させる事で0にして時を止めてその中を動く事が出来る、更にマイナスにする事で時間を巻き戻す事が出来る。
それを証明するように冥はゴンザレス太郎に付けられた痣をフーカの目の前で消し去った。
『私を未来に飛ばしたから思い出したのかと思ったが、まだか・・・』
フーカが意味が分からないと困惑する。
そして、冥から驚愕の真実が告げられる。
『お前は私より先にこの世界に来たもう一人の観測者、時を加速させる力を持つ者『煌』だ』
その場に居た誰もが耳を疑った。
フーカの正体が観測者であると告げられたのだ。
そして、冥は消えていくゴンザレス太郎に視線を向ける。
『煌よ、提案だ。その男を生かしたいか?お前が私に協力するならそいつを助けてやろう』
その言葉はフーカに突きつけられた究極の選択であった。
冥の言葉が全て真実であればこの世界は明日には月が落下して滅びる。
それから助かる為に冥はフーカの協力が必要のようだ。
だが協力すればゴンザレス太郎は助けてもらえる・・・
迷うなんてありえなかった。
「分かったわ。アナタに協力する、だからタツヤを助けて!」
『言質はとったぞ、交渉成立だな』
その言葉と共に冥がゴンザレス太郎に手を翳し光がゴンザレス太郎を包み込んだ。
そして、その体が時間を巻き戻らせているのだろう。無くなった左腕が元通りになり体が実体化した。
サラもミリーも動けたとしても何も言わない。
もしフーカと同じ立場であれば自分も同じ選択をしたと思っているからだ。
光が治まり冥の力によりゴンザレス太郎の魂は完全な形で復元されたのであった。
『さぁ、それでは行こうか』
フーカが最後にゴンザレス太郎の顔を寂しそうな瞳で見詰め冥の言葉に素直に従い共にテンジクの塔へ歩いていくのであった。
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