春雷(4)

 喧騒が嘘のように止んでいた。

 トモヒロはその異常さにしかめっ面を浮かべていた。病院の中では頭から血を流した看護師や、うな垂れるように息つく患者たちが見えた。

「……てめえの仕業か? 何をした?」

「いえいえ、私は何も。〝ヘッド〟の準備が整ったということです」

 しかしカボチャ男とトモヒロの戦いは終わっていなかった。

 散弾銃から散布された銃弾の粒を横転してかわす。カボチャ男は攻撃の手を緩めなかった。薬莢イジェクトの瞬間、水平二連は大きく隙が出る。その瞬間を狙って、カボチャの胸元に飛び込む。が、即座にもう一丁の散弾銃が構えられた。

 額を狙われ、トモヒロは咄嗟に身を仰け反らせた。地に手を付き、下半身を捻ると〝スワイプス〟でカボチャ男の両手に構えられた銃身を蹴り弾く。カボチャ男の腕が伸びきり、次の動作までワンモーションの隙が生じたと思われたが、男の肩がぐるりと回転して新たな散弾銃を手に取った。初弾は盾で打撃は防いだものの、もう一方の銃口はトモヒロの地を支える片足を狙っていた。ところが、銃弾は当たらなかった。

〝エアチェアー〟で足を宙で静止させてからの〝ウインドミル〟。

 コマのようにトモヒロの体は縦横無尽に踊り、顔や胸すれすれのところで弾丸を回避する。そしてカボチャ男の脇腹に重い一撃を浴びせた。

 カボチャ男の身体が二つに折れる。トモヒロはゴムまりのように跳ね起き、真上から斬りかかる。しかしカボチャ男はマント脱ぎ、一瞬、視界は遮られた。

 その隙にカボチャ男はトモヒロの背後を取った。

 トモヒロは野生の勘で銃口の先をなんとか避けたが、耳元で炸裂した火薬に鼓膜が割れた。すかさず振り返り、散弾銃を半分に切り落とし、ヘソに蹴りを浴びせた。

 カボチャ男は後ずさり小さく唸りをあげる。

「……やりますねえ。さすがサイボーグ殺しと言われた男。ストリートダンスの一種ですか。鋼のように鍛え上げた体と柔軟な手足があなたを支えている。なるほどなるほど」

 トモヒロは耳を押さえながら、

「どうやらてめえにも生身部分があるらしいな。確かに感じたぜ。てめえの腹は柔らけえ。銃をエモノにする奴はな、近づかれることを恐れてる。しかも至近距離で火力が高え、ショットガンを使う奴は大抵が豚足豚野郎だ」

「ハハッ! 脳筋馬鹿かとばかり思ってましたが、なかなか洞察力の鋭い方ですね」

「腹から下全部、生身だろ。テメエの機械部分は胸と肩だ。ショットガンの二丁なんて馬鹿げた真似、機械じゃなきゃできねえしな」

「……本当に殺すには惜しい方ですね。どうです? 我々の仲間になりませんか?」

「この顔で売ってるんでな。今更、自分を偽るつもりもねーよ」

「残念ですねえ」

「俺がこの世で嫌いなものベストスリーはな。女子供に手え掛ける奴と、仲間見捨てる奴と、ファッキンパンプキンだ」

 するとカボチャ男は肩を震わせて、くすくすと笑っていた。

「そのセリフ、いいですね。今度から使わせてもらいます。ああ、いい響きだ。ファッキンパンプキン……」

「パイが焼きあがる間に遺言でも考えてな」

 するとカボチャ男は丁寧に腰を折った。

「残念ながら前座はここまでです。今宵、本当の祭りが行われることでしょう」

 トモヒロはギロリと睨みつける。

「……テメエらは何がしてえ?」

「その答えももうまもなく見ることとなるでしょう」

 カボチャ男は身を翻して走り去っていった。

 トモヒロは煮え繰り返る思いだったが、今は事務所と親父のことが優先だと思い、怒りを頭の片隅に置きやった。

 植木組にたどり着くと、道路脇からすで無数の死体が転がっていた。

 舌打ちしつつ、トモヒロは階段を駆け上る。

「親父ぃ!!」

 中に入ると、ムッとした血生臭さが鼻をついた。壁を赤く塗り替えたのかと思うほどの血液が飛び散っていた。横からリリィ・エンフィールドが銃口を向けたが、トモヒロだと知るとすぐに銃を収めた。

 見た所、死体のほとんどが見知らぬ顔だった。

 城之内と王子が壁にもたれかかって肩で息をしていた。

「親父は!?」

 城之内は生唾を飲み込んで少し息を整える。

「さっき病院に搬送しました。肩と腹に一発ずつ」

 城之内は息絶えた男を見下げて、

「このガキども、自分ら見るや否や、暴れまわりましてね。流れ弾に当たって──。しかも、一人が写真撮りやがりましてね。SNSにすぐばら撒きやがりました。お陰で周辺組織はウチが空中分解したと思って、意気がってます」

 そこでリリィが死体を転がすと、

「ほら、トモっち。見てください。こいつらも機械仕掛けですよ」

 トモヒロは舌打ちした。

「さっきの喧騒といい、ここで暴れたことと繋がってるだろうな。全部奴らの筋書き通りだったってわけだ。こりゃマジで、戦争やる羽目になるかもな」

「もう戦争ッスよこれは」城之内は苦笑を浮かべた。

「城之内。すぐに、カチコミかけそうな組と戦力をリストアップしろ。王子、お前はできるだけヘイタイ集めてこい」

 城之内と王子は首肯して、早速準備に取り掛かった。

「リリィはどうしますです?」

「てめえは家で寝てろ」

「ぬぬ!? 美少女暗殺者の手を借りないと?」

「てめえの出番はない」

 口答えしようとするリリィを目線で遮ったトモヒロは携帯端末を取り出して、専属の暗殺者に連絡した。

 それから、昼を過ぎた頃には植木組のほぼ全員が集まった。情報整理と各組員の配置などの説明は城之内に任せ、トモヒロは呼びつけた仮面の男と事務所屋上で密会する。

「久しぶりだな、テメエとこうして会うのは」

 仮面の男は顎を引いて、トモヒロを見つめた。

「仕事がある。受けるか受けないかは自由だが、テメエが決めてからしか内容は話さねえ」

「もちろん、受けます」

 仮面の男は即答した。

「ガキの遊びじゃねえぞ?」

「分かってます」

 そうか、と返事してトモヒロは煙草に火をつけた。

「一つ聞くが、?」

 すると仮面の男は大きく首を傾げていた。

「どっちとは……?」

 トモヒロはふっと煙を吐き出しながら、鼻を鳴らした。

「こりゃ、鈍感の方か」

「あの一体……?」

「テメエは俺が気づいていないと思ってたみたいだがな、匂いでわかんだよ。戦場超えてきた奴はな、目の色も匂いも違う。まして、それを続けて苦しむ奴ってのはな」

「どういう……?」

「まだ気づかねえのか。いい加減、仮面ごっこを辞めたらどうだ? なあ、セナ」

 仮面の男はしばらくトモヒロを探るように見つめていたが、やがて仮面を剥ぎ取った。

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